今日の本 記号と事件3
「と」のうちに、
逃走と流れ、
時間と空間のズレ、
差異、生起、生成変化、
革命、反復、
感情、関係、
能動的な運動が入り込んでくる。
あいだに「と」を挟む、複数の個体または集合、
それらは閉じた系であることに違いないが、
「と」に発生する運動が、
それらの関係性に常に変化をもたらし、
開放系として全体を変形させていく。
『我と汝』(ブーバー)
『戦争と平和』(トルストイ)
『ハチミツとクローバー』(羽海野チカ)
並列であるが故のダイナミックな運動。
「と」のなかに何が展開しているのか。
そこには「ある」はなく、
「なる」が渦巻いている。
そこに物語はなく、
ただ予想もつかない運動だけが待ち受けている。
「と」がつなぐ両者が重なり合うところ、
それは影(加法)となり光(減法)となり、
「または」となり「かつ」となる。
水壁、
なにかを区切っているようでなにも区切っていない、
点のようでいて、線のようでもある、
水鏡、
映しているようで映していない、
見えない何か、
語り尽くせない何か、
それが「と」そのものである。