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女は黙ってパスタを喰う

ワークショップ等で夫婦そろって人前に出る機会が増え、オットと共通の知り合いやフォロワーさんも増えてきた。すると何気ない雑談のうちに「2人はどうやって知り合ったんですか」などと聞かれることもある。

まあ「何気ない雑談」の話題としては、うってつけである。ねこを飼ってる人にねこの話をするように、目の前にカップルがいたら馴れ初めを尋ねるのはごく自然なことだ。たいていの場合、カップル側には話したいことがたくさんあるし、あまり親しくない間柄でもしばらく話が弾む。

オットと知り合ったのは、ネットである。とあるパスタの個人ホームページにたまたま迷い込み、いつしか毎日出入りするようになり、そこにB級料理王であるオットもいた。それが始まりだ。あれから20年たつ。

特にパスタを偏愛していたわけではないのに、そのサイトには妙にハマっていた。ひとつには、管理人のお人柄だ。その人は掲示板の書き込みには全部リプを返すことにしていたのだが、どんな荒くれコメントにも、あからさまなマウントにも、慌てず、騒がず、ことを荒立てず、おだやかに、時にユーモアまで加えて返していた。とかく沸点の低い私には、大いに勉強になったものだ。

さらにそのリプを書く速度が尋常じゃないとこにも感動していた。人気サイトだから1日で山のようにコメントがつくことも珍しくないのだが、私なら半日はかかりそうな大量のリプも、おだやかにまとめたり、軽くかわしたり、小粋に笑わせたりした後に「...と、ここまで20分」と書かれていたりする。凡人とは頭の回転が違うのだ。

また管理人の「学ぶ姿勢」みたいなものにも感服していた。「普通はこうだろう」と思われがちなことも、自分が気になればどんどん調べる。「こういう姿勢の方がモテる」と言われがちなことも、本当にそうなのかと自分の納得いくまで検証したりする。しかもパスタの話だ。すべてパスタをめぐる話なのだ。このサイトに迷い込んだおかげで知ったこと、気づいたことが私にはたくさんある。

たとえばパスタの表面についてだ。

乾燥パスタは製造法の違いで、大きく2つに分けられる。ブロンズダイスとテフロンダイスである。このnoteを読んでくださるような人には説明するまでもないかと思うが、乾燥パスタはダイスと呼ばれる型を通すことでいろいろな形に出来上がる。このダイスがブロンズ製なのかテフロン製なのかで、パスタの表面がまるで違うのである。

ブロンズダイス(下)は表面がざらざらしている

画像は上がテフロン、下がブロンズである。伝統的なダイスであるブロンズが白っぽく見えるのは、粉を吹いたように表面がざらざらしているから。この凸凹にソースが自然とからまり、とろみもつきやすい。店頭で見かける「イタリアから来ました!パッケージにはイタリア語しか書いてないよ!いかにもオシャレで映えるパッケージだよ!」てパスタは、たいていブロンズだ。料理初心者からちょっとデキるようになり、パスタの階段を登り始めた時に手にしがちなディチェコはその代表である。

ぐるぐる

一方テフロンは、見るからにつるっとした表面をしている。長らく日本のスパゲティはテフロン一択で、今でも大手メーカーや量販店のPB商品などはほとんどがテフロンだ。代表的なブランドは、ご存知バリラ。

バリラ

私がそのパスタサイトに出会った頃は、まさに「パスタの階段を登ってる最中」だった。つまりパスタに限らずあらゆる料理において意識は高く持ち、ダサい料理をバカにし、自分は「知っている側」だといい気になっていた時代だ。選ぶパスタはもちろんブロンズである。イタリアの伝統こそが正しく、唯一無二のチョイスだと固く信じていた。ディチェコですら当たり前すぎてつまらないと下に見て、よりマイナーな、より本場っぽいブロンズを探すことに躍起になっていた。

そんな私の目からウロコを落としてくれたのが、そのパスタサイトだ。

テフロンにはテフロンにしかできないことがある。

確かにテフロンはつるつるしているため、ソースは乗りにくい。しかしそもそも日本人は「つるつるっ」とした麺が好きではないか。うどんも蕎麦もきしめんも「つるつる」と「もそもそ」の二択だったら、まずほとんどの人がつるつるを選ぶだろう。

さらに我々はアルデンテが大好きだ。豚骨ラーメンはバリカタだし、うどんの腰にはうるさいし、パスタはアルデンテでないと許さない。日本でもっとも知られているイタリア語は、間違いなく「アルデンテ」だ。子供からお年寄りまで知っている。そのアルデンテがテフロンは強い。時間通りに茹でればちゃんとアルデンテになるし、しかもアルデンテ状態が長くキープできるという特殊スキルまで持っている。

つまりブロンズとテフロンは、どちらが上というものではなく、ソースと目指す味によって使い分けるモノなのだ。それに気づいてから、私のパスタライフはとてもゆったりと広がったように思う。

では自作パスタをいくつかあげながら、私はどちらのパスタを合わせたのか説明しよう。「こってり→ブロンズ」「あっさり→テフロン」など大まかな傾向はあるが、作ってみると「あちらの方がよかったかも」と思ったものも少なくない。やはり最終的には自分の舌と勘である。皆さんも大いに悩んで欲しい。

【ブロンズを使うもの】

・カルボナーラ

カルボナーラ

・グリンピースと生ハムのクリーム

グリンピース

・たこと黒オリーブのトマトソース

たこトマト

・マッシュルームとジャンボンブランのクリーム

ラザニ

クリームソース、トマトソース、肉やチーズを使ったものなどはブロンズを合わせガチである。ただしトマトソースでもさっぱり食べたい時はテフロンにすることもある。


【テフロンを使うもの】

・アリオリペペロン系(画像は大葉しらすペペロン)

しらすペペロン

・小海老ときのこのバター醤油

醤油

・たらこバター

たらこ

・ナポリタン

ナポリタン

同じトマトを使ったものでも、ナポリタンは日本オリジナルであるためテフロン使用としている。ただしこれはアルデンテでは無い方がいい。喫茶店のナポリタンを目指すならば、茹で置きを油で炒めるのが正しいと思う。


【テフロンでもブロンズでも】

・カリオストロ

映画の舞台はヨーロッパだし、ルパンはフィアットに乗ってるということを鑑みると、ここはイタリア伝統のブロンズが正しいような気もする。だがこの映画が作られた当時の日本のパスタ事情とか、宮崎駿の年齢を考えるとやはりこれも「日本のスパゲティ」と見た方がいいような気もする。どちらを取るかは自分次第。いずれにしても、太いパスタを選ぶといいと思う。

カリオストロ


私はパスタサイトと並行して、オットがやっていたサイト「B級料理王」にもせっせと投稿するようになった。「お笑い料理レシピサイト」というのがもう、たまらなく自分の「好き」にドンズバだったからである。当時はまさかこの人と結婚までするとは思いもしなかった。だが食も笑いも両方欲しがる我々は、最初から出会い物だったのかもしれない。毎日ゲラゲラ笑いながら、次は相手を笑かそうと仕掛けながら、美味しいものを食べることばかり考えている。

めちゃくちゃくだらないことに使いたいと思います。よろしくお願いします。