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そして、料理に恋をする

「#まるのつかない日は料理本デー」
今回ご紹介するのは「そして、料理に恋をする」です

のほほんと暮らしていた私が初めて「世の中には自分の想像をはるかに超えた金持ちがいるようだ」と気づいたのは、高校の時だった。学校の近くに住む同級生の、家だと思った建物が単に「蔵のひとつ」であり、本当の母屋が塀の外からは見えない距離の奥の方に鎮座ましましているのを見たとき、私は大人の階段を上った。卒業後、帰省時に街で偶然出会った彼女は「東京でお世話になってる人へのお土産」と大きなアワビを3個も抱えていた。私は実家からツナ缶をくすねてきたとこだよーとはとても言えなかった。

東京に出てきたら、さらに上がいた。うちの箱根の別荘に遊びにおいでよ、30人くらいなら泊まれるからと無邪気に誘ってくれた大学の友人。100万のフルートを「安物で恥ずかしい」と言っていた、音楽系でもなんでもない人。「このベンツ飽きたから5万で買わない?」と言った人・買った人。世界が広がると、金持ちエピソードも多岐に広がることがわかった。

石油王

港区に実家があるのに、代官山のマンションに1人暮らしをしているバイト仲間もすごかった。彼女は仕送り口座に常に100万円がプールされており、必要な時にそこから引き落として使う。使った分はすぐフィックスされ100万に戻る。そう、だからお金のためにバイトする必要はない。趣味でバイトをしていたのだ。しかも妹も別のマンションで1人暮らしをしているという。

友人が遭遇した金持ちもケタ違いだった。九州から東京の女子大に進学したその人は、洗濯もクリーニングもしない。一度着た服はタンスにしまい、毎週タンスごと九州の実家へ送るのだという。入れ違いに九州からはキレイな服が詰まったタンスが送られてくる。しかも1ハンガーごとにトータルコーディネートがしてあり、何も悩むことなく最新のファッションに身を包むことができるんだそうだ。マンガでもないだろう、こんな設定。

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今回の料理本「そして、料理に恋をする」の著者、井上絵美氏は映画監督と女優の娘であり、幼い頃から東京の豊かな食生活に囲まれて育っていった。また結婚した相手の都合で、LAやハワイを行ったり来たり。さらに東京の自宅では料理教室を開き...という憧れの生活である。

その料理教室に「九州から通う生徒さんがいる」という。

九州から

読んだ瞬間に「これは、あのタンス送り女子じゃないのか!」と妄想した。いや、実際のところ九州といっても広いし、同じようなお金持ちはごろごろいるだろう。あれとこれを結びつけるのは、さすがに短絡過ぎる。でも想像がたぎるじゃないか。卒業後、地元に戻って名家に嫁いだ彼女の、がんじがらめな生活に置ける唯一の息抜き、それが東京の料理教室だった...なんて物語はちょっと読みたくもある。

フォンドボー

本書の内容を人に説明するとしたら「簡単オシャレ料理だが、ちゃんと美味しいものが作れる」だろうか。簡単といっても手抜きとは少し違う。ポイントさえ押さえれば、省いていい手間があることを教えてくれる。

ただしお金はかかる。我々がひと缶88円のトマト缶を嬉々として使う感覚で、600円のフォンドボー缶をポンポン開ける。オイルの瓶も見るからに高そうだ。ワインに至っては何が何だかわからぬ。さらに25年前の本なので、今となってはチョリソなど「何がそんなに珍しいの?」というものも少なくない。

ストック

だが著者が実際に経験した「食」からのアイディアは、私をひどく喜ばせた。素材の取り合わせ方や、器の使い方など今に至るまでずっと実践していることも多い。

例えばオーバル皿が好きになったのは、この本のせいだと思う。

オーバル

オーバル4

オーバル2

今でこそイタリア製のも、美濃焼でも手に入りやすいが、当時はめちゃくちゃ探しまくったものだ。やっと手に入れたとき最初に作ったのは上記の「タコのトマト煮」であり、リムにバゲットを乗っけるとこまで真似をした。これは今でもよくやる。

オーバル5

これも今に至るまで真似し続けている盛り付けである。細長いものを、ちょっとはみ出る勢いでランダムに盛り付けるのは私の中で大いに流行り、いまだにその流行は終わっていない。たぶん死ぬまでやってるだろうな。

スープ

スープを少量ポーションで出すのも、本書を読んでからずっとやっていることだ。お店をやっていた時のお通しにもなった。ソラマメや枝豆など季節の野菜のポタージュやすり流しを出す自分に「今、私、ちょーかっこいい」と震えたものだ。家飲みの時も、お酒で口がダレて来たタイミングで口直しに出すとすごくウケる。量はね、ほんのちょっぴりでいい。もっと飲ませろと言われるくらいがいい。その方が印象に残る。

ガーゼ

これまたよく真似しているテクニック。ガーゼに小麦粉や片栗粉を入れておいて、使ったらまたポリ袋に入れ冷蔵庫へ。何回か使ったらまた新しくする。これは薄くキレイにつくし本当にいい。唯一の欠点は「ガーゼを切るのがメンドクサイ」「なんならガーゼを買うのがもうメンドクサイ」ということだが、なんとか頑張ってる。頑張ってる。

サーモンわさび

この「スモークサーモン、わさび、サワークリーム」の組み合わせを知った時も、好みのドンズバすぎて気が狂うかと思った。もう食べる前から好きに決まってるじゃないか。やってみたら案の定、トリコだ。これ確かワークショップの時のおつまみに一度出した気がする。まあそれくらいもう、私の定番になっているということである。

ベイリーズ

最後にデザートを。この食べ方を知ってから私にとってベイリーズは「アイスにかけるタレ」となった。今では「アイス食べたいから」という理由でベイリーズを買う。酒屋でベイリーズを見たからアイスを買うこともある。お酒と甘いもんが好きなら、きっと好きなはずだ。お試しあれ。


本書は時代のせいか、省ける手間は省くと言っていても、今と比べると段違いに手順が多かったり、凝った料理も多い。だがそれでも当時は「ちゃんと手抜きしないで料理をするのがいい女」思想から抜けられない文化人とかに「井上絵美みたいな料理でも作ってろ」とディスられたりもした。あの人は今も同じようなこと言ってるんだろうか。すごく真っ当な料理ですよ、井上絵美の料理は。

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じろまるいずみ
めちゃくちゃくだらないことに使いたいと思います。よろしくお願いします。