肉まんワークショップはこんな感じでした
「思い出補正」という言葉があるが、その最たるものはもう今はなくなってしまった店や、この世にいない人が作った食べ物の味かもしれない。今食べたらイマイチかもしれないそれを、記憶はふんわりデコレーションし「かけがえのない味」として保存する。そしてたまに思い出しては狂おしい気持ちにさせる。誰しもそんな思い出補正グルメをお持ちだろう。
私の思い出補正グルメ「肉まん」は、かつて奈良県にあった「天真爛漫」という店だ。確か満州から引き揚げてきた旦那さんが亡くなって、女手ひとつで子育てをする中で「そうだ、あの人が教えてくれた肉まんを、自宅を改装して売ろう」と思いついて…というような背景だった。
情報を知った雑誌に載っていた地図が「古墳の近く」しかわからない暗号のようで、ネットもカーナビもない時代のこととて自分の嗅覚だけが頼り。しかも到着してみれば「自宅を改装して」なんてもんじゃなく「自宅そのもの」だったし、よく似た一戸建てが並ぶ住宅街の中で何の目印もなかったし、よくたどり着けたものだと思う。
しかしその味は衝撃的だった。東京から来たばかりの私が知っていた肉まんとは、五十番とか新宿中村屋とか中華街とかの今でもよくあるふんわり甘いもの。ちょっと高級な店の肉まんも、その延長線上にある味だった。しかし天真爛漫のはあまりふんわりもしておらず、あまり甘くない。でもそれがすごくよかった。すごく美味しかった。こういうのが食べたかったんだと思った。とても仲が悪かった当時の夫と一緒で、しかも前の晩からずっと喧嘩してたのに、それでも美味しかったのだから相当好みだったのだろう。
現在の心のベスト10・第一位は神戸の老祥記だ。ここも「あまりふんわりせず、あまり甘くない」ジャンルであり、今はこのタイプの肉まんに出会うことも増えてきたが、やはり最初に出会った天真爛漫がいつまでも初恋のように心の中にいる。実は食べたのはそのとき一度だけ。なぜって大阪や神戸に遊びに行くことはあっても、奈良へはなかなか足が向かない。なんでかねえ。なんとなくだねえ。で、何年もしてからようやく「久しぶりに食べたい」と行ってみたらば、とうに閉店していたというわけだ。
そういう訳で今回の肉まんは、初恋の「天真爛漫」を思いつつ作る「老祥記」インスパイア系肉まんである。関西なので正しくは「豚まん」だ。材料の計量だけちょっと面倒だが、初めてでも意外とうまくいく喜びを感じてほしい。
【思い出の肉まん】
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めちゃくちゃくだらないことに使いたいと思います。よろしくお願いします。