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秘密のケーキづくり

「#まるのつかない日は料理本デー」
今回ご紹介するのは「秘密のケーキづくり」です

うちの高校は旧制中学校から始まったそこそこ歴史のある学校であり、開校当時はもちろん男子校。同級生のお母さんが「初めて入学してきた女子2人のうちの1人」で、のちに母校の教師となり、授業中に「その制服は私たちが考案したのよ」とおっしゃっていた。今は女子の方が多いらしいが、私が通っていた当時は1クラス45人中・女子は10人前後のマイノリティだったため、女子みんなでまとまっていた印象がある。

お弁当を食べる時も、2~3人ずつで机をくっつけてはいたが「私たちは別グループですからね!ふん!」ということではなく、机は離れていても10人全員で1つという気持ちがいつもあった。なので3学期のある日、クラスメイトの誰かが「ねえ、このクラスでお弁当食べるの、来週が最後だよ!」と言い出したときは、激しい焦燥感と喪失感に襲われた。


「どうする。何かする?」

「何かはしよう」

「とりあえず、その日はみんなで机をくっつけて1つの島を作ろう」

「うん、みんなでご飯食べよう」

「あ、それならみんなにクッキー焼いてこようかな」

「M子、すごい。なら私も何か作ろうかな」

「え〜それなら私も何か頑張っちゃおうかなー」


そんなこんなの末、最後のお弁当の日は「それぞれが違うスイーツを手作りして持参する。みんなで分け合って10種類のスイーツを食べようじゃないかパーティ」が開かれることとなった。それぞれが何を作りたいかは、挙手アンド早い者勝ちで宣誓するスタイル。私はいち早く手を挙げ、中学の時から作り続けていたレアチーズケーキを確保した。それがこちらの、マドモワゼルいくこ著「秘密のケーキづくり」のシグネチャーメニューであるレアチーズケーキだ。

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本を買ったのは中学生のとき。最初に作った時から大成功で、こんな美味しいものが自分にも作れるのだと誇らしい気持ちになった。うん、これを作ろう。この美味しいやつをみんなに食べてもらいたい。あわよくば「こんな美味しいものが作れるなんて、いずみちゃんすごい!」と褒められたい。いやしい。なんていやしいんだ私。だがまあ作り慣れたチーズケーキは失敗することもなく、当日無事に学校へと運ばれ、まんまと「美味しい」「すごい」と言わせはした。17歳の素敵な、大事な思い出である。

レアチーズ

だがこの歳になって振り返ってみると、私にとって「17歳の素敵な思い出」であるこのスイーツパーティは、他の人にも素敵だったかどうかは疑わしい。だいたい本当にみんな賛成したのか。あの時かなり強引にパーティ開催を決めはしなかったか。誰かが大声で

「ねえ、みんなでお菓子作って持ち寄ろうよ!」
「さーんせい!みんなもそれでいいよね!」

と推し進めれば、イヤだなと思っていても言い出しにくくなる。まして10人しかいない女子の中で、次々と「そうね、私もやりたい」「私も」などと賛成ムードが満ちてくれば、とても「私はお菓子なんて作りたくない」とは言い出せない。得意分野で浮かれていた当時の私には、気づかなかっただろうけど。

だってこれが「ねえ、最後にみんなでバスケやろうよ」だったらどうだ。苦手な体育、ヘタクソが確実に足を引っ張る全体競技、それを無理強い...ううう、イヤだダメだ胃が痛い。それどころか数あるスポーツの中で最も苦手な器械体操だったら!? 「ねえ最後の思い出に、みんなで鉄棒やろうよ」と強引に決められたら!? 間違いなくその日は欠席だ。仮病で、居留守で、ふて寝だ。
あの時、お菓子づくりがイヤでイヤでたまらない人もいただろう。我こそはチーズケーキを作りたい人もいただろう。ごめん。みんな、本当にごめん。

ポムポム


ではこの本の中から、いくつか紹介していこう。

・梅酒漬けケーキ

梅酒づけ

大人になってから、雑談のうちにこの本に言及し「あなたも持っていましたか!」と同好の士を見つけたことは片手ではおさまらない。好きモノ同士が集まれば、お互いの「推し」を語り合うのは当然のこと。料理本であれば、それは「どのレシピが好き?」だ。先ほどはレアチーズケーキをシグネチャーメニューと言ったが、この「梅酒漬けケーキ」も代表作と言って過言ではない。今まで捨てていた「梅酒の梅」を活用できるレシピとして、とても衝撃的だったと推す人には何度も出会った。逆にそれで「梅酒の梅って、使い道がないとか言って捨てる人がいるんだ!」と知ったくらいだ。

私にとってこのレシピは「ホイルに包んで蒸す」ことが衝撃だった。本文にもあるように、泡だて無し、型も無し、天火(オーブン)も無しでケーキができてしまう。そんなバカなと思ったが、作ってみると「あ〜これこれ」と腑に落ちた。梅酒の梅が好きな人はたまらんと思う。


・キャロットジュリ

キャロットジュリ

前回紹介した「手作りの料理百科」と違い、「秘密のケーキづくり」は従来のオーソドックスなレシピを大胆にアレンジした個性的な本だ。「手作り〜」で本格レシピを前に惨敗した私でも「秘密の〜」からは数々の成功体験を得ることができた。最初によく作っていたのが、この「キャロットジュリ」だ。この本のテーマ「簡単で失敗しない」を象徴するレシピといえる。

生まれた時からアルデンテ世代には笑われるかもしれないが、当時は野菜をスイーツにする発想は一般的ではなかった。ananに「今度代官山にできたおしゃれカフェは、なんとカボチャを使ったケーキを出す!」なんて記事があったのを覚えてるくらい、珍しいことだったのだ。

なので人参がゼリーになることにまず驚いたし、食べてみて「これミカンじゃないの!?」と驚いたし、友達に食べさせて「これミカンじゃないの!?」と驚かせるのがたまらなく楽しかった。一時は部活メンバーの間で大流行し、毎週誰かが作ってきてはおすそ分けが回ってきたものだ。レシピは「人参くささを消す」ことに注力しているが、現代ならばむしろ人参の香りを残す方向にした方がイマドキらしい味になるだろう。


・ヨーグルトポムポム

ポムポム2

ええと、やっぱ訂正!訂正!
これだ、これこそが、1番のシグネチャーメニューで、代表作で、象徴レシピだ。本書のトップを飾り、星の数ほどパクられ、今でもレシピサイトなどで「自分のレシピ」として堂々と載せられること山の如し。つまり、それほど簡単で美味しいということなんだろう。リンゴが苦手な私にはピンとこなかったが、逆に「これしか作ってない」という人もいるだろな。


・Mr.はりねずみ君/ネグリヨンケーキ/ショコラルーレ

はりねずみ

ネグリヨン

ショコラルーレ

汚れているページから推察される、私の好みである。今まで分析したことはなかったが、おそらくチョコレート味のスポンジが好きだったようだ。さらにはりねずみはチョコかけ、ネグリヨンは生クリームかけ、ショコラルーレは生クリーム巻きであることから、しっとり系がお好みだったんだろう。あ、それは今も変わらず。


・バタービスキュイ

バタービスキュイ

レアチーズケーキと並んで、最も汚れているページ。つまり最も好きで、よく作ったレシピということである。いわゆるアイスボックスクッキーだが、焼く前に冷凍するひと手間が妙にワクワクし、冷凍の状態で保存できる→好きな時に切って焼くだけ、という頭脳戦にもシビれた。私はせっせと棒状のものを作っては冷凍し、いつか来る「その時」に備えたものだ。その割にあまり食べた記憶がないのは、作っただけで満足してしまうタチだったからかもしれない。あ、それもまた今も変わらずだ。

バタービスキュイ2


うちのような田舎町だけで何冊も売れたくらいだもの、全国では爆発的に売れたんだろう。私の持っているのは第26版。発売からたった2ヶ月半で達成したとは思えない、衝撃的な数字だ。今これを読んでいる人の中にも、愛読者はいるんじゃないか。もし「自分も持っている(いた)」という人があれば、どのレシピが好きだったか教えて欲しい。「あれ、いいよねグフフフ」と、推しレシピについて語りたいよね。


ちなみにこちらは↓「手作りの〜」に載っていた本格的クリスマスケーキである。撃沈の思い出。

クリスマス


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じろまるいずみ
めちゃくちゃくだらないことに使いたいと思います。よろしくお願いします。