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フィッツ・ヘンリー・レーン(Fitz Henry Lane)という画家について

Fitz Henry Lane online
Fitz Henry Lane (Wikipedia)

フィッツ・ヘンリー・レーンは19世紀中ごろに活躍した米国マサチューセッツ州の画家である。
私がレーンを知ったのは、たまたまマサチューセッツ州グロスターにあるCape Ann Museumへヴァージニア・リー・バートンの展示を見に行った時だった。上記にリンクを貼ったFitz Henry Lane onlineのウェブサイトはこのCape Ann Museumが作成しているレーンのオンラインアーカイブで、作品の所蔵数が最も多いのがこの美術館だ。常設展を眺めていると、この作家の作品が非常に多く展示されていることに気付いた。
もちろん私がレーンの名前を記憶したのは単に作品数が多かったからだけではない。展示室に入ってすぐ、淡く輝く海辺の情景に目を引かれ、それから、ああここだ、と思った。絵のタイトルを確認すると作者であるレーンの生まれたここグロスター港の風景であり、私が美術館に辿り着くまでに歩いていた風景と全く同じではないかもしれないが、ニューイングランドの港町の風景というものに馴染み始めていた私にとっては、この絵がこの場所だと気付いたことが嬉しかったのかもしれない。

海辺の風景というものに憧れがある。山間部育ちなため海にはほとんど縁がなく、海で泳いだのは小学校3年生の時に臨海学習の1度きりだ。(ちなみに5年生でも行く予定が台風か何かでなくなった。)それがひょんなことからBay stateのニックネームがあるマサチューセッツに住むことになり、海辺の風景が身近なものになってしまった。そもそもボストンの街自体が元は湾の埋め立てされた土地で(独立戦争の頃の地図を見ると街の中心地は完全に海だ)、グロスターに足を運ぶ前にはセイラム、ハイアニス、ナンタケット、プロビンスタウンなどに行っており、とにかく手近な場所に観光に行けば大体海辺の街である。山間部育ちの自分がこんなに港町を歩き回ることになろうとは。グロスターに来る頃には大体どこも似たような景色だなと思うくらいにはなっていたものの、レーンの絵を見た時に改めて思ったのだった。私は海辺の街に憧れていて、私の理想の港の風景がこれらの絵には描かれており、私はその風景を自分の足で歩きまわっているのだ、と。

フィッツ・ヘンリー・レーンはグロスターで生まれ、ニューイングランドエリアの風景を作品に残している。Fitz Henry Lane onlineで作品がどこに所蔵されているかを調べることができ、Cape Ann Museumが最も多く所持している。個人所蔵のものを除けばボストン美術館が4番目に多く作品を持っていて、アメリカ美術の展示室にあるので見つけやすいと思う。あとはてセイラムのPeabody Essex Museum、ハーバード美術館、メイン州のポートランド美術館で展示されているのを実際に確認した。ニューヨークにある公共図書館やメトロポリタン美術館にも所蔵されているらしいが、見つけることはできなかった。メトロポリタン美術館については広大過ぎて単に探し出すのが難しかっただけだと思うが。
絵画の様式としてはルミニズムというものにあたるようだ。日本語でレーンのことが説明されたウェブページを見つけることはできなかったが、日本語版wikipediaのルミニズムの記事には代表的な作家としてレーンの名前が挙げられていた。ルミニズムというのはアメリカ絵画の様式とのことで、ボストン美術館の19世紀のアメリカ美術、とくに自然の風景をモチーフにしているものは確かにこのようなタッチで描かれたものが多かった気がする。Wikipediaで独立記事になっているのはThe Golden State Entering New York HarborStage Fort across Gloucester Harborの2点であるが、おそらくどちらもメトロポリタン美術館所蔵のため独立記事が作られているのではないかと思っている。日本から観光でわざわざCape Ann Museumまで来る人はめったにいないと思うので(グロスターはボストンのNorth stationからコミューターレールで1時間ほどの街だがあまり観光地という感じではない)、ボストン美術館で見られる作品を紹介したい。
New York Harbor
Boston Harbor
Salem Harbor
しかしやはりCape Ann MuseumにあるGloucester Harborが代表作ではないだろうかと個人的には思っているので、見に行ってくれる人がいたら嬉しい。ちなみにWikipediaに載っているレーンの銅像は、Cape Anne Museumから港の方へ向かって歩いた場所にあるCaptain Solomon Jacobs Parkの丘の上にあった。(タイトル画像は私が行った時に撮った写真)

なぜレーンについての文章を書いたかというと、ひとつは海辺の街に憧れていた自分がアメリカの港町の近くに暮らすようになり、自分の憧れを再現したかのような作品に出会ったという個人的な思い入れを何らかの形で書き残しておきたかったというのがある。もうひとつはレーンについて日本語で書かれたものがほとんど見つからなかったからだ。美術史においてレーンがどの程度重要な存在か私にはわからないが、私が書かなければ日本語話者のほとんどがレーンとその作品のことを知らないままなのではないか、ということを思ってしまった。いつかWikipediaの翻訳記事を作成するのが夢だ。
グロスターまで足を伸ばすことはめったにないと思うが、もしボストン美術館に行くことがあったりボストン美術館展のようなものが日本で開催されることがあればレーンとニューイングランドの海辺の街を描いた作品のことを思い出してもらえたら嬉しい。