進藤さんちの柴コーン・2
ミキを見送ってから1時間くらい経った頃だろうか、屋敷の中で執事や下っ端達が騒ぎ始めた。
どうやらミキの見張りと連絡が付かないようだ。ミキの見張りは少なくとも4人いて、いずれも番犬のドーベルマンを一蹴できる程度には手練れだが、その誰とも連絡が付かないらしい。非常事態というやつだ。消されたか、それとも裏切ったか。
いずれにせよ、ミキの無事をまず確かめなければならない。
俺はユニコーン。主人を守る僕。どんなに遠く離れていても、ミキの状態や位置は分かる。
俺は自慢の角を出し、意識を集中して全力でミキを感じ取る。
強い生命力を感じる。ミキは無事だ。しかし、遠い。そして移動している。
今朝のミキは、シンカンセンという車の何倍も速い乗り物でトーキョーからキョートに向かうと言っていた。今、俺が感じているミキの移動速度は、過去にミキと一緒に乗った車の速度とあまり変わらない。おそらく、シンカンセンに乗る前に車で連れ去られたのだろう。
さて、どうするか。俺が車より早く走れたのは数年前までだ。走って追い掛けることは、体力的にも厳しいだろう。ミキを連れ去った不届き者を速やかに処刑する体力も残しておかねばならない。
不本意だが、下っ端を使うしかないだろう。
俺は角をしまうとのっそりと起き上がり、ミキの部屋を出て、執事長の部屋へ向かう。
扉の前でワンと一鳴きすると、すぐに執事長が出てきて俺を部屋の中に丁重に迎え入れる。
俺の言葉は人間には通じないが、執事長は俺の使命と実力を十分に知っている。
俺が何をしたいのか察したことだろう。
執事長は別の執事を呼び出し、色々と指示を出し始めた。
そのうちに肉まみれの俺の飯が用意されたので、むちゃむちゃと食べて、がぶがぶと水を飲む。
朝飯を食べたばかりだが、しっかりと食う。仕事をするにも力がいる。
飯を平らげてしばし待っていると、近付く足音が聞こえる。
やや不規則で特徴を残す未熟者の歩き方だ。
「虎二郎、入ります。」
室内に入ってきたのはいかにも優男風の若者であり、実際、執事の中でも立場は下の下で頼りない。オマケに馬鹿だ。
しかし、俺の正体を知って心底畏怖しており、俺には決して逆らえない。
ミキを探すには俺の正体を知りつつ俺のいうことを聞く駒が必要だ。
執事長もそれを分かっているから、未熟なコイツを呼び出したのだ。
「どういった御用件でしょうか。」
相変わらず緊張感のない声だ。
「特命だ。そちらにおられる龍神丸様の導きに従ってミキ様を探し出す役目を命じる。車や銃器も好きに使え。」
執事長の言葉で俺に気付いた虎二郎は心底嫌そうな顔をするがお互い様だ。
ともあれ足は用意した。
虎二郎をしばき倒すのは後回しにしてミキを探しに行かねば。
《続く》
逆噴射小説大賞2024の発表まで時間があったので2023で応募した作品の続きを書いてみました。
最後まで決めて書いたわけではないので、あくまでも暫定版にはなりますが。。。
作品を完成させるって本当に大変ですね。
できれば本作を最後まで完走したいと思いますが、どうなることやら。。。