二郎坊

何者でもない。

二郎坊

何者でもない。

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ぶん回せ!

 人間生きていれば誰しも全力で誰かにラリアットしたい時ってあるよな。間違いなく今がそうだ。  ここは廃ビルの屋上。何ならフェンスの外に立たされており、もうすぐ落下コース間違いなしだ。しかしその前に、俺の背後にいる半グレだか全グレだかを片っ端からラリアットして一足先にビル下のアスファルトに叩き込みたい。その上で俺の自由意思で自由落下し、先に落下したグレグレ達を緩衝材にして無傷生還を決めたい。決めたいのだ。  そう思ったら頭より体が動き出してしまう。俺の両手は腰の後ろでがっつり縄

    • 御研話

       黒々とした雨が降っている。その黒さは、煙と見紛うほどに白い靄を縦に切り裂き、次第にその数を増していく。  檻のようだと吉二郎は思った。  吉二郎の乗る護送船の目指す島はまだ見えないが、道中すでに二桁の看守が船上から姿を消している。代わりに、いびつで巨大な玉石が船上に幾つも転がっており、不可解を極めた。  吉二郎は代言人であり、囚人でも看守でもない。いわれなき火付けの罪に問われた友の桔平を必死で庇った末に、いわば成り行きでこの船に乗っている。  思えば、端からおかしな話であ

      • 青の蒼の藍の底

         コンクリート塀の上の金網をよじ登ると、  眼下にはしいんとした暗い水面が広がっていた。  私が通う県立東高のプールは今どき珍しい50メートルプールだ。  時刻は8月1日午前0時。  背後から届く街灯の光が私の影を水面に僅かに映す。  夜の闇とプールの端の境界が溶けて消え、延々と水面が広がっているようであり、それが如何にも不気味だが、立ち昇る塩素の匂いがプールだと気付かせて少しだけ安心させる。  夏の夜は嫌いだ。  じっとりと粘っこく暑さが絡みついてくる。  金網の上の空

        • 進藤さんちの柴コーン

           俺は柴犬。そしてユニコーンだ。  清き乙女を守るのは何も馬の専売特許じゃない。  俺は進藤家の愛玩犬として生まれた。  俺のモフッとした毛並み、クリっとした眉、笑顔に見える口元は進藤家の御歴々を魅了したようであり、大層可愛がられたが、それはいつまでも続かなかった。  その2年後、進藤家に末の娘のミキが生まれたからだ。  ミキはしょんべんタレでわあわあ泣いてばかりいたが、一目見て誰よりも純真で愛すべき存在であることは間違いなかった。  皆の興味が俺からミキに移ったことなど

        ぶん回せ!