【逆噴射プラクティス】ある晴れた日の昼下がり
登別クマ牧場の影のボスであるゴリアテは生粋の羆である。
牧場出まれの熊が大多数を占める中、ゴリアテは大自然の中で生まれた。その父は日高山脈のゴッド・ファーザーと呼ばれた悪名高き熊麻呂である。熊麻呂の滅ぼした村は数知れず、暴虐の限りを尽くしたが、新鮮組と名乗る武闘派マタギ集団により、全身に数十を超える切り傷を刻まれて葬られた。
熊麻呂討伐後、その巣より発見されたのが生後間もないゴリアテであった。熊麻呂に苦しめられた人々の恨みは凄まじかったが、無垢なゴリアテを殺すのは忍びなく、せめてもの憂さ晴らしのため、熊牧場へと送り込み、道化熊の道へと進ませた。
しかし、ゴリアテは父を討たれた恨みを忘れてはいなかった。ゴリアテは、とぼけた動きで民衆を魅了する傍ら、いつの日か日高山脈へと帰り、父に代わって人を支配することを夢見ていたのだ。
ゴリアテが2歳になる頃、遥か高き天の果てに怪しき光が一筋輝いた。
俗にいう、未確認飛行物体である。羆はもちろん、人類でさえおよそ理解不可能なほどに高度な発展を遂げた知的生命体の船であり、その搭乗者たる異星人は地球の侵略を目論んでいた。異星人の化学力をもってすれば、地球上に猥雑に溢れかえる人類を駆逐することは容易であったが、問題はその後であった。敵は人類だけではない。最も警戒すべきはウイルスや病原菌であり、地球という豊饒な星が育んだありとあらゆる生命の侵略を乗り越える必要があった。そのため、異星人は直接人類を滅ぼすという安易な手段を取ることはやめ、地球に存在する強靭な生命体に受肉し、それに自らの知性を移すことを選んだ。
異星人は、長らく受肉先を探していた。できれば人類に対する強い怒りを持つ生き物が良い。辛抱強く探し続けた末、登別から強力な念を感じ取った。それはゴリアテの発する静かな怒りであった。
受肉は一瞬であった。
天から降下した一筋の光がゴリアテを煌々と照らした。
【続かない】
逆噴射小説大賞2024の没ネタ供養でした。