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進藤さんちの柴コーン
俺は柴犬。そしてユニコーンだ。
清き乙女を守るのは何も馬の専売特許じゃない。
俺は進藤家の愛玩犬として生まれた。
俺のモフッとした毛並み、クリっとした眉、笑顔に見える口元は進藤家の御歴々を魅了したようであり、大層可愛がられたが、それはいつまでも続かなかった。
その2年後、進藤家に末の娘のミキが生まれたからだ。
ミキはしょんべんタレでわあわあ泣いてばかりいたが、一目見て誰よりも純真で愛すべき存在であることは間違いなかった。
皆の興味が俺からミキに移ったことなど何も気にならなかった。
それよりも俺はミキを守ると誓ったのだ。
そして俺の額に角が生え、ユニコーンになった。
角は自由に出し入れできる。
長さは30cmしかないが、硬くて鋭利だ。
犬の俺には人間社会のことはよく分からないが、進藤家にはとにかく敵が多い。
進藤家の屋敷は広く、愛玩犬の俺とは別に、番犬として庭に4匹のドーベルマンがいる。
そいつらは俺の2倍くらいの体格で足も早い。
侵入者が来た時には番犬なりに頑張るのだが、人間も中々どうして利口で、あの手この手でそれを交わして屋敷に忍び込み、ミキを連れ去りに来る。
そんな時、俺はきゅうんと鳴いて愛想を振り撒いて近付き、油断したところで自慢の角を出し、その首をスパンと刎ね、あるいは胸をサクッと一突きにし、時には回転を加えながら飛び掛かり、口から脳天までグサリと貫いた。
そうして俺はこの家の秩序と平和を守り続けてきた。
毎回派手に死体を作って床や家具を汚し、俺自身も血まみれになるものだから、家を掃除する掃除夫からは大層嫌そうな顔をされる。
でも俺は気にしない。
ミキが無事なら良いのだ。
俺は気分よくスパンスパンとやった。
不甲斐ない番犬達の代わりになったのか、俺が進藤家から追い出される気配はなかった。
そうして12年が経った。
ミキは成長し、俺は老いた。
事が起きたのは5月の雨の日だった。
ミキは修学旅行とやらに出掛けていた。
≪続く≫