やさしく寄り添う医書のあり方
こんにちは。
いち編集部のリアルです。
7月は『極論で語る麻酔科』を紹介しました。8月と9月は『あめいろぐ』シリーズの話となります。3か月連続で新刊配本となると、どんな紹介の仕方がいいのだろうか、ない知恵をめぐらしては、ちょっと虚脱感に見舞われることもあります。心の中のどこかで「もうプロモーション記事とかやめようかな」と思う自分もいて、だって、こうした仕事は本来営業チームの職掌だし、いくら担当編集といっても、アピールはお任せするのが筋と思うし、編集者のパフォーマンスは「よい企画を考え」「上手に本を製作する」ことなんですからね。
それと、編集者は裏方の黒子と思っていますが、そんな黒子でも本を世に送り出す作業のお手伝いをしていると、わが子を荒波の大海に送り出すような錯覚に見舞われ、しかるべき思い入れもあり、「多くの方に読まれるといいな」「たくさん売れるといいな」などと思うわけです。でも(意外かもしれませんが)本の刊行間際になると、もう別の思考モードになっていたりするのです。どういうことなのでしょう。
企画から制作、刊行までだいたい1年半ぐらい。その間、何度も原稿を読み、何度も何度も原稿整理をし、初校、再校、三校ごとに2度ずつは内校(編集部内の内部校正のこと)してるし、校了後も白焼きだの、一部抜きだの、これでもかこれでもかと内容に目を通していますから、印刷・製本の段階となりますと、その活字群とやや距離を置きたくなる、こんな気持ち、なんとなくわかってもらえるでしょうか。
もっというと、1冊200ページぐらいの本だと、文字にして10~15万字くらいの情報量です。その情報をいったん自分の脳から外に追い出さないとやっていけないのです。同時進行で4~5本担当していたりすると、生き馬の目を抜くみたいなハンドリングになりますから、脳のフィジカル面の処理として「いったん外にだして、忘れる」というのは「やむ得ない」ところがあります。本が刊行する頃には、その本のことを熱烈に考えるという作業から遠くの場所にいて、別の風景を見ていたりします。同業の編集者さんも、そんなところありませんか。
なので、本が出来たら「販促やアピールは営業チームにお任せ」でいいのですが、そうはいってもお世話好きな蟹座の性分がうずくのか、いやいやそうではなく、著者の方の顔が浮かぶのですよ。もっといえば、特に医学書の場合は、その著者(医師)の背景にある無数の患者さんの想いのようなものが、押し寄せてくるとでもいうのでしょうか。そういう集合意識や集合知の集大成が1冊になったのが「この本」と思う自分がもう1人いて、担当編集となったからには、何かを言わねばいかんだろみたいな。そんな気持ちがやっぱりどこかにあります。
でも何を伝えたらいいのだろう。ちょっとこの頃悩んだりしています。情報はいろいろあるのですが、てんこもりに話せと言われれば、そうもしますけれど、そもそも「伝えなければならない情報などあるのだろうか(自分に)」、ああでもないこうでもないと呻吟したりして、そんなとき、ふと目にしたのが、SHARPさん(@SHARP_JP)のこの呟きとコラムでした。
詳しくは本コラムをお読みいただきたいのですが、この一文を目にしたとき、「あ、そういうことなのか。そういうことなんだ」と思ったのです。
「家電には、やさしい家電とやさしくない家電がある。私がうっすらと気づいたのはそれだった。やさしい家電とは、操作性がわかりやすいとか、お求め安い価格だとかいった実利的なことではない。使う人の疲弊した心に、やさしい存在かどうかだ。」
「ささやかな幸福や平穏を求めるだけなのに、なぜかだんだん自分が削られていく私たちの日常に、家電はどこまで寄り添えるか。その視点が、私の考えるやさしい家電である。」
「日々ツイッターを眺めるわれわれは、ほんとうは気づいているだろう。私もあなたも、しんどい。その本音のしんどさが、SNSにはあふれている。ただふつうに生きようとするだけなのに、心の余裕は簒奪され、生活は過酷に転がっていく。その原因に思い当たる節は垣間見えるものの、問題が大きすぎたり、時間の流れがはやすぎたり、あるいは勇気もなすすべもない。それがわれわれの暮らす現在なのだ。」
たぶんですが、企画者サイドの目線、ユーザサイドの目線、大きく二つの目線があるのだとしたら、自分は企画者サイドの目線でものごとを考え、何かを伝えようとしていたのではないか。だから何かを伝えたいとしようとするときに、商品の特性や商品の素晴らしさなど、上から目線で紹介しようとしていたのではないか。そう思ったのです。でも、それって読むの、疲れてしまいますよね。押しつけですから。だからそうではなく、自分もいち読者の視線で、1冊の本を読んでの気づきを述べてみればよいのではないのか。飾りは捨てて。伝えるべきメッセージなどというものはたぶん後付けのような気がしてきたのです。
ということで、前置きも引用も長くなりましたが、8月『あめいろぐ高齢者医療』、9月は『あめいろぐ女性医師』、この2冊の本の紹介を通じて、やさしく寄り添う医書のあり方を自分なりにすこしだけ考えてみたいと思います。
むずかしいな。この続きは、これから考えます。
ご清聴(読)ありがとうございました。
2020.8.08
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