授業探検隊[海外大学73の実績の秘密はここにあり?英語を学ぶのではなく英語で学ぶ高校一年生のプレゼンテーション授業]
学校紹介
見事な秋晴れだった。私は高校の時にどうしても電車通学に憧れていた。中学までは単線の田舎町で20分かけて徒歩で学校まで通っていたからだろう。私学で都内で電車で通学できるとは、なんと環境に恵まれていることだろう。しかし学校の本質は環境以外にあり。授業や授業をハンドリングする教員、そしてその結果生徒のマインドがどのように育っているかという目に見えない学校独自の文化にこそ本質があるのだろう。今回取材したのは東京さくらトラム(都電荒川線)のとある駅から徒歩5分という立地の伝統校である。地域に愛されており、昭和の時代から面倒見の良さで定評のある学校だ。その学校が最近合格実績として海外大学の結果数値を劇的に上げていることが、メディアを巻き込んで騒がれている。その秘密を探ろうと授業探検の取材を申し込み、忙しい広報担当者様との交渉の末、3か月越しにこの校舎の正門にたどり着いたのだが、久しぶりに訪れた正門の10メートル後ろにそびえたつ新校舎"中央棟"の佇まいのすばらしさに驚愕した。探検隊が洞窟の中に入る前に、山岳風景全体に胸を打たれてしまったような感覚だ。先ほど学校の環境は本質ではないと謡ったものの、正門からの新校舎の風景は圧巻だ。この校舎を見学するだけでも一見の価値ありと思える。私の執筆力では限界があるので画像も掲載をしておこう。この校舎は旧グラウンドだった土地に建築され、敷地内では中央部に位置するために中央棟と呼ばれ、各部屋にはCの頭文字が付く。今回取材した高校1年生の教室もクラス名は1年D組であったが、その部屋の名前はC304といった具合だった。
今回取材したのは、、、
高校1年生のプレゼンテーションの授業。広報の先生との取材前のやり取りで、筆者はあくまでも英語コミュニケーション系の授業であり、その特別会でプレゼンテーションのコーナーがあるのだろうと思い込んでいたがそうではなかった。時間割に英語ではなくプレゼンテーションと書かれていた。つまりプレゼンテーションスキルを対象に学習する授業であり、それを主に英語を使って学ぶという構成なのだ。その証拠にクラスルームに入ると生徒の机には英語の読解テキストではなくナショナルジオグラフィック社のSpeaking of Speech, Premium Editionというプレゼンテーションの専門教材が用意されていた。※リンクはナショナルジオグラフィック社のウェブサイト。以下はそのサイトからの引用だ。
今回の授業を担当されるのは、同校の英語教員として採用されてから10年目を迎え、日本語の会話はもちろん、それ以上に英語での会話にリズミカルなテクニックとパッション、そして授業運びに圧倒的なスキルを毎年期待され、それに応えているという杉山先生と、授業帯同するネイティブの先生3名だ。ちなみに同校に勤務するイングリッシュネイティブの教員は合計6名いる。そのうち3名がこの日は取材対象のプレゼンテーションの授業に帯同していた。その他の4名も授業やマンツーマンレッスンにフル稼働しているという。高校1年生の授業ということもあるのだろうか、ネイティブの先生は授業のテンションを高める役割というよりも、生徒の作業やワーク時に英語で語りかけて生徒から発想が出てくることを促し、生徒に英語の発話量を増やす関りをされている印象を受けた。
時間細分表
今回の筆者計測の当日の時間細分表は以下の通りである。
(もちろん取材時の実測値のため授業日によって異なることがあることとご理解いただきたい)
※この日は通常授業50分の日であった
[この授業に関する学校環境と機材]
授業担当は日本人の杉山先生1名にイングリッシュネイティブの先生が3名帯同する。教室の中央には録画用のタブレットが設置され、黒板に向けられていた。その黒板の半分以上はホワイトシートスクリーンにおおわれており、プロジェクタは別タブレットの表示画像を映写できる仕組みとなっている。今回はテキストの当該部分の映写と、関連映像の視聴に利用され、今回取材した授業においては板書を全く利用していなかった。(隣室の国語の授業風景に目を向けるとスクリーンシートは格納されていて先生の黒板への板書がされていた。つまり黒板とスクリーンシートをフレキシブルに使っていることが推測される)。生徒の持っている端末は統一されていて、学校から貸与されているそうだ。今回は機材を活用するという時間よりも、生徒それぞれの発想や会話力を活用する方が多かった。環境面においては新校舎で採用されたLED照明と、天井の高さが醸し出す開放的な教室環境が他校とは一線を画すところだろう。
[本日のテーマ]
本日のテーマは①語学学校研修のプレゼンテーション②プレゼンテーションスキル向上だ。授業冒頭は代表者によるプレゼンテーションから始まった。オールイングリッシュプレゼンテーションだ。内容は海外の学校施設とそれを体験してきた時のレポートだ。画像を使ってテンポよく進んでいったが、際立っていたのは英語の発音の美しさであると感じた。特段難しい表現を多用しているわけではなく、単位分数当たりの発話量もネイティブスピーカーのそれと比較するとさほど多くはないが、だからこそとても内容が聞き取りやすい5分間となっていた。そして聞き取りやすさを支えているのが彼女の発音のすばらしさだった。授業後半で気づくのだが、この発音のすばらしさこそネイティブスピーカーの先生による少人数制授業の成果であり、彼女だけではなくほとんどの生徒が美しい英語を使っているように見受けられた。
ちなみにプレゼンテーション内容の学校施設とは、先日国際英語コースの生徒たちが任意で参加してきた1週間のスービック英語強化プログラム(in Philippines)のものだった。毎年開催されていたこの語学研修がコロナが落ち着いてきた2022年に復活して実施できたのだ。例年は希望者のみが参加する語学研修であるが、今年は国際英語コースの全員が参加を希望し、研修を受けてきたという。この点にも海外や英語への意識の高さ、それ以上に彼女たちが海を越えることへの精神的障壁が低いことを感じた。
プレゼンテーションが終わると採点フォーマットが配布されて発表者へのフィードバックが行われた。毎回決まったフォーマットであるのだろう。英語はあくまでもツール、この授業はプレゼンテーション(伝わる話ができたかどうか)を鍛える授業なのだということを再認識した。
プレゼンテーションが終わった後はテキスト内容に移る。本日のテキストで扱うページの説明があった。ここは日本人教員の杉山先生の本領が発揮される時間帯だ。今までにいくつもの授業を探検してきたが非常にテンポの良い説明である。プレゼンテーションのスキルのポイントをジェスチャー付きで説明をする。その杉山先生の説明の仕方自体にプレゼンテーションのスキルが光っている。そしてデモンストレーションとなる映像(教材付属映像)を全員で見る、その後生徒に問いかけて生徒からポイントを引き出すという一連の流れに淀みがない。
テキストはさらに気づいたことを書き込みできるようになっているらしく、全体ディスカッションの後に、近くの生徒と英語で会話しながらポイントを書き出していく時間となった。申し合わせたようにすかさずネイティブの先生が生徒同士の会話に入っていき問いかけを始めた。杉山先生も混じって教員4名と生徒10名強の比率でのワークタイムだ。授業の前半で耳を中心に使っていた生徒は、ここで一気に頭と口をフル稼働させて発話し始めた。生徒同士では日本語の会話や単語が繰り広げられるが、そこにすかさず4人の教員が英語で会話に入っていく。
生徒たちの発話は慎重に言葉を選んでいる印象もあったが、ほとんどの生徒がとてもきれいな発音をしているのが象徴的だ。授業はその後まとめの時間を迎えて2時限目が終了した。その後の3時限目の「情報」の授業も一続きとなっているようで、担当される教員陣も同じであるということで、延長して3時限目の前半までを見学させていただいた。3時限目に切り替わったところでネイティブの先生に授業進行のバトンが渡された。ネイティブ先生中心で本日の英語を使ったゲームワークが企画され説明される。端的に言えばオールイングリッシュのジェスチャーゲームを行うらしい。2時限目のプレゼンテーションでは比較的おしとやかな女子校といった雰囲気を感じていたが3時限目のゲームが始まったとたんに一変し、教員も生徒もテンションが振り切れるような笑顔と会話と熱量が教室内にはじけた。その様子を微笑ましい思いで画像に収めたところで、本日の授業探検はアディショナルタイムも含めて終了とさせていただいた。
ちなみに授業以外ではネイティブの先生によるマンツーマンでの英会話指導が日々行われているとのことだ。それは学校の特徴としてパンフレットにきちんと書かれている。
授業のまとめ
今回取材した学校の伝統的魅力は"面倒見"だ。保護者との面談を年に2回以上必ず実施するという。担任の先生はもちろんのこと、教科ごとの先生も生徒一人一人の特性を熟知して接している。授業を本格的に取材したのは今回が初めてだったが、授業内でもその様子は健在だった。さらに授業で際立っていたのが教員のスキルの高さだった。英語を浴びせるシャワーのなんと多いことか。控えめに発した生徒のコメントを教員が2倍以上に膨らませて、クラス全体に発言を共有する様子は、教室の授業に一体感を醸し出していた。板書は使わずプロジェクターでのテキストの映写と映像を活用しているので、教員は常に生徒の方を向いていた。ネイティブの先生はひとりではなく3人も同じ授業に帯同するため、生徒との個別英会話トレーニングのような時間が授業内に生まれていた。取材が成立する過程で、窓口の先生が都合をなんとか調整して金曜日のプレゼンテーションの授業をお勧めしていた理由が伝わった気がした。
今回取材した学校についてより詳しく知りたい場合はこちらをクリック
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