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移住とエスノグラフィ

移住とエスノグラフィの視点から地域と向き合う
長野への移住をきっかけに、地域の日常に入り込み、エスノグラフィという視点で地域の本質に触れることが増えました。
本記事では、「移住」と「エスノグラフィ」の2つの視点を軸に、地域の課題にデザインでどう向き合い、カタチにしていくかをお伝えします。地域の本質的な価値を引き出すデザインの可能性に、ぜひ目を向けていただけたらと思います。


「移住」は始まり

村の風景

2022年、私は長野県の松川村に移住。現在、2年半が経ちました。
都市でしか生活したことが無い私にとって、長野県での暮らしは地域や自然の中で新しい生活を築く挑戦を積み重ねる日々です。

「 自分はデザイナーとして何ができるか ? 」
「 デザインの正しい使い方は何なのか?」

という問いは私が活動する原点です。ここまでの生活は、この地域でデザインの種を蒔くプロセスでした。それはまるで、見知らぬ土壌に根を張っていくような感覚。ときに、のたうち回りながらも活動を続けています。

この地には、都市とは異なる「時間」が流れ、「自然」が人々の生活とともにあります。そして、ここに暮らす人々が持つ価値観や日常の営みが、日々新たな発見と学びを与え続けてくれています。

株式会社 Newtral.

2024年 9月9日、私は 株式会社Newtral.という地域デザイン会社を立ち上げました。地域でデザインの役割や可能性を模索する中で、地域の課題や本質的なデザインの役割、可能性が見えてきました。
Newtral.では、「 地域でやりたいことをやりたいように そんな人がたくさんいる社会を 」をビジョンに、デザインで地域課題に向き合っていきます。

雪が降った森

長野に住み始めてから、私は地域の一員としての視点を持ちながら、デザイナーとして地域の課題と向き合っています。
過疎化や高齢化、若者の減少、むっちゃ昭和といった課題がある一方で、資源としての豊かな自然や、伝統行事、地域を支える人のつながりも存在します。そんなこの地での生活、地域のリサーチや活動を進めていく過程で理解したのが「 エスノグラフィ 」という視点です

【 エスノグラフィ 】という視点

エスノグラフィとは…
文化人類学の方法論のひとつで、特定の社会や文化に深く入り込み、生活や価値観を観察し、表面的な理解を超えたその本質に迫る手法です。
特定の地域や集団に入り込み、観察し、対話を通じてその奥にある価値観や文化を探る。地域で生活する人々の日常や会話から見えない部分を感じ取り、地域の本質に迫っていくこと。それは、単なる「移住者」としての視点とは異なるもので、デザインの可能性を引き出す鍵であると考えています

たとえば、地元の方とのフィールドワークやキノコ採集は、単なるレクリエーションではなく「自然の中で育まれた知識や感性に触れる」という感覚。どの季節に、どの場所でどんなキノコが生えるのか。自然と共に長年暮らしてきた人々の知恵が、そこには詰まっています。こうした体験が、地域の価値を見つける手法としてのエスノグラフィの重要性を教えてくれます

森にはキノコが生える

また、PTAや猟友会など、地域土着コミュニティに参加する場面でも、そこに根付く価値観や生活リズムが見えてきます。移住者でありながら、こうしたエスノグラフィ的な視点を持ち続けることで、地域にある「当たり前」の中にある違和感や本質的な価値を見出せると感じています。

地域の声をカタチにする

エスノグラフィ視点での観察を経て見えてきた課題に対して。
デザイナーとして私ができることは、地域の「声」をカタチにすることです

遺影でYeah!!!!!

例えば、「 遺影でYeah!!!!! 」という事業では、単なる写真撮影ではなく、参加者自身が人生を振り返り、自らの人生の区切りや意味づけ、さらに未来を再考し行動するきっかけを提供しています。このプロジェクトは、地域の年配者の声に耳を傾け、彼らが何を大切にし、どこに幸せを見出しているかを理解した結果として生まれました。体験を通して、地域に根差した彼らに心理的安心感を提供し、未来にベクトルを向けた意識変化、さらには行動変容を促すことがこのプロジェクトの目的です。
(※ このPJは2025年、全国ツアーを目指しています )

農家との共創

米農家との収穫の様子

「 nou×nou 」という事業も、エスノグラフィ的アプローチから生まれました。地域の農家が直面する課題や不安に寄り添い、必要な支援や新しい取組みを 共に考えています。農家は農村地域にとって欠かせない存在ですが、その多くが予測不可能な未来への不安を抱えています。
nou×nou では、農家がデザイナーをマッチングし伴走。ビジネスモデルとしてレベニューシェア(収益分配)の仕組みを採用し、農家とデザイナーが共に事業成長にコミットすることで成長できる持続可能な支援を提供しています。
(※ このPJは長野県アクセラレーションプログラムなど複数地域の創業支援プログラムに採択されています。 )

デザインの役割は、ただ美しいものを作ることではありません。地域の声やアイデアの本質を見極めて可視化すること。そして、デザインは新たな対話や関係性を生み出す力と可能性があると考えています。地域の中で、デザインがどのように社会に作用しうるのかを探ることも、私にとって大切な役割だと感じています

「外と内の視点」

地域の一員として日常に溶け込み、地域の価値に共感しながらも、常に新鮮なエスノグラフィ的な視点を持ってその場を見ること。これが、大切にしている部分です。この「内と外」の2つの視点が、単なる「移住者」としての私を超えて、地域の本質を引き出すデザインにつながる軸になっています

デジタルリテラシー講座の模様

外からの目線で地域を見ながら、その中で暮らし、地域の声をデザインで表現する。2つの視点を通して得られる気づきや価値観は、ただの「移住者」としての視点では捉えきれないもであり、地域の本質を引き出すデザインの基盤です。「外の目」を持ち続けることで、新しい発見が生まれ、地域はさらに豊かなものへと変容するきっかけになります。

私にとって、移住はただ新しい場所での生活ではなく、「 土着で向き合いながら、地域に必要なことをひとつずつカタチにしていく」という意志をもって地域に向き合うことです。そして、この地で学び、育てたものを次の世代へと繋いでいくことが、私のデザイナーとしてのどう生きるかです。

2つの視点が教えてくれること

移住してから、私はこの地でデザインの役割や意義について深く考える機会を得ています。「移住」と「エスノグラフィ」。この2つの視点が交わることで、地域の本質が少しずつ見えてくる。
どちらかじゃなくて、どちらもあるから見えるものがあると感じています。

ただの移住者ではなく、地域の一員として深く入り込みがらも「外の目」を持ち、常に新しい可能性に気づくことができる態度でいること。
日常の中から「 本質的な価値とは何か 」を模索していきたい。この地に根ざし、人と共に創り、そして地域と共に成長し続けるデザイナーでありたいです。Newtral.の取組み はまだ始まったばかりですが、その歩みが地域にとって新しい可能性をを広げるきっかけとなることを目指しています。

お気に入りの場所、自称「 風の谷 」

地域と共にをつくるデザイン

エスノグラフィの視点から地域と関わることで、デザインの新しい役割が見えてきました。「 株式会社Newtral. 」として、地域課題をデザインで解決ししていく。その歩みが未来に向けた新しい選択肢になることを願っています。

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