遠い記憶その3 無気力の恐怖
俺の20代の10年間は、一言で言えば「無気力、やけくそ、諦めきれず」だ。なんのこっちゃか分からないだろうから順を追って著述する。
俺は小学生のころ転校してイジメに遭い、中学に入ったら不良の先輩とつるみだし、その先輩がギター弾いてて「カッコイイなあ」と思って中学の終わりからロックバンドをやろうと決意し、でもギターは難しかったのでドラムはやってる奴少ないしいいかと思ってドラムを始めた。その後小学生の頃の同級生の顔を思い出しては「大人になったら見てろ、全ての借りを返す」という執念で練習しまくってた。
19歳の時に組んだバンドがウケが良く、月に4回か多い月は月6回(昼夜連続出演)とかめちゃくちゃ活動をしていたお陰で地元FM局の大人に声を掛けてもらったりいつも行ってたライブハウスの覚えも良く有利な条件で貸してもらえたり、この勢いでやっていくんだ!と思ってた。今となってはロスジェネ世代だから仕事も無いし将来なんて無かったし、その時は気持ちをぶつける物の選択肢が極端に少なかったのも要因だ。今と違ってYouTubeすら無かったから。
22歳になって、頚椎椎間板ヘルニアを発症した。しかも病院に行って痛み出した時の話をしたら先生が「椎間板炎の疑いがある、動いてはいけない。このまま入院してもらう」と真剣な顔で言ってきた。後に疑いだけで大事にはならなかったのだが、その話を聞いて俺は号泣した。人目も憚らず泣いた。
でもまあ大事にはならず、普通に1週間で退院はできたもののドラム叩くと首にくるし今でも長時間正面を向くと良くない。様々な局面で「ああ首が悪いんだな」ていう自覚がある。そんな状態は周囲が過大評価をしがちで、ある日バンドから
「今まで通りのドラムが叩けないのならば辞めてもらう」
とクビを宣告された。バイト先からも「入院して休んでる間に別の人に来てもらったからもういいよ」ということになった。人手が余り散らかしてた時代の話だからこういう事もままあった。
次のバイトすら見つからず、打ち込んでたバンド活動からも離れ、そこから簡単な清掃のバイトをして小銭貰って酒飲んでゲームして引きこもるみたいな生活を送った。将来なんかどうでもいい、外出ると辛いし知り合いに何も無くなった俺を見て欲しくない、こんな気持ちでいた。ずっと実家でそんなことをしていてもお金は必要だから、24歳から26歳になる前位まで飛び飛びで出稼ぎの工場派遣に行ったりもしたが、帰ってきてはやはり仕事もせずアホみたいに酒飲んで何もしなかった。
ところが、不思議な事にその頃読み倒していた阿佐田哲也の小説やエッセイがそんな俺自身を少しずつ方向変換させていた。エッセイの中の阿佐田哲也も今の俺と大して変わらないが、しかし彼は30過ぎて小説家として大成し麻雀の世界では神とまで呼ばれた。その点俺はどうだ、何も持ってないではないか。将来に繋がるものといったら何も無い。ドラムの知識はあってもそれをプレイしなきゃどうしようも無い。
なので、当時流行ってたmixiに誘ってもらってアカウントを作り、仲間が居そうなコミュニティに参加して何かの活動をしよう!とふわっふわ極まりない何かを思い立った。そしてリア友にギターが超上手いけど超引きこもりがちな友達がまだ地元に残ってたのを知って、東方シリーズの曲のアレンジが流行ってたからそれをやろうとした。その為にお金が必要なので、また工場派遣をして機材を買い散らかしてた。
結局それもモノにならず、工場派遣も派遣切りを経験して全てが嫌になりまた引きこもって絵を描いてた。当時の絵は今みると「狂ってんな」て感想しか無い。
その後、未曾有の不景気が到来しますます非正規から逃れられなくなって仕事も無く、今の方向性が定まる運転代行という職に就くことになる。昔ながらの荒っぽい学歴無いけど根性だけはある的な人が多い会社で、すぐキレ散らかすけど運転の事に関しては凄くて、市内の信号の動きを全部把握してたりなんの予兆も見えなかったのに子供の飛び出しを感知して止まったり。そんなオッサンらにシゴかれたら嫌でも運転上手くならざるを得なかった訳です。
今でも後悔してるのは、無気力になっても挫けずもっと頑張ってりゃもっと違った世界があったかもしれないという或る意味で完璧に考える事すら無駄な事なんですけども。でも、未だにあの頃にほかの何が出来たのかは分からない。今抱いてるのが後悔なのか「青春時代を棒に振りやがって」というおっさんになった俺の若い俺への嫉妬なのかも分からない。
だから、尚更「今を生きてる」感を全力で出して活動してる全ての人を応援するし評価してるし尊敬もしてる。勝手に、「俺がやり損なった分頑張ってくれ」と声には出さないけど思いながら。人の挫折は自分が覚えたあの感覚を思い出してしまい辛いものだ。だからあんな思いを他人は知らなくて良い、と思ってる。
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