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【じんたろホカホカ壁新聞】大混乱!東大総長選 ホントの問題は何か?

正式に総長が決まったのに選考会議の議長がなぜ辞める?

「東大学長選考混乱 小宮山議長が辞意 教員有志ら「透明性や公平性に疑義」と指摘」
というニュースがあちこちで報道された。

なんじゃこれは?
総長は正式に選ばれた、と第三者の検証委員会も報告している。けれど世間を騒がしたので議長は辞任する。
ということなのね。

東京大学というのは国立大学法人という独立した組織だ。総長は正式には文部科学大臣に任命される。
しかし、実質的にはその前のややこしい選考過程を経て決まる。


今回の東京大学の総長選考は、今年7月に教員代表による代議員投票があり、上位者ら10人が第1次候補者となった。総長選考会議が、そこから最終候補者を3人に絞り込んだ後、教員による意向投票を実施。その結果を参考に、総長選考会議が10月2日に藤井氏を新総長に選んだ。

しかし、3人の最終候補者が決まった後に「選考プロセスの透明性・公平性に多くの疑義がある」との公開質問状が教員有志6人から選考会議に出された。有志代表の田中純教授は「代議員投票の1位が最終候補者から漏れるなどおかしな点があった」と批判した。

その後、元理事の有志や15の部局長からも、選考の延期や選考過程の透明性、公平性を疑問視する要望書などが出される事態に発展した。選考会議はその後予定通り開かれたが、新総長選出後に、東大は検証委員会の設置を決めた。

いったい何が起きたのか?

でも検証委員会なんてわざわざ作るのは東大らしいね。
頭がいい人ばっかりが議論するとこういうことになるのか?

その報告書は35ページもあって、検証委員会は藤井氏を新総長に決定したことについては「まったく問題ない」と結論づけた。
でも、小宮山氏の議事運営などについては「妥当性にやや疑問を呈さざるを得ない」とした。

具体的には、特定の1人の候補者に対して、小宮山氏が「選定に対して消極的である趣旨の発言を繰り返した」と指摘。小宮山氏が、この候補者について、別の教員が処分された過去の論文不正に関与したとの匿名の告発文を会議で取り上げるなどしたと明かしたとか。

でもまあ、議事の中で自由に発言することは問題ないとも思える。

しかし、である。

事務局が行っていた会議の録音データを職員が直後に必要がなくなったとして消去していたこともわかったとか。
どっかで聞いた話だよね。

検証委の泉委員長は「選考会議として録音を取ることは決めていなかった」などとして、消去すること自体は「規則に違反しない」としたが、「録音データは、問題が起きた時に検証の有力な材料となるので、保存しておくべきだった」と述べた。今回、検証委員会は、ICレコーダーを回収し、録音データを復元して調査にあたった。

こりゃ大ごとになってきた。

最終候補者3人の残し方に問題があったのか?

現在の五神真総長の任期は2021年3月まで。
小宮山宏元総長を議長に、16人による選考会議を進めてきた。1次候補者は学内での投票などで10人程度が集まり、最終候補者の3人を9月7日に選び、学内にのみ通知された。前回6年前の選考では、最終候補者は大学のホームページ(HP)で発表された。
有志は9月16日に質問状を出し、最終候補者が工学系2人、医学系1人となった点を問題であると指摘した。
前回の最終候補は5人で文系、女性もいたことから「総合大学としての観点から見て著しく多様性を欠き、投票の選択肢を過度に狭める」という主張だ。

有志代表の総合文化研究科の田中純教授らによると、学内の代議員による1次候補者選挙で1位の候補者が、最終候補を決める会議でも評価は高かったのに残らなかったという。田中教授は「3人にするために投票を繰り返したとも聞く。選考はプロセス自体の信用を失っている」と話す。

本当にそうなのか?
でもそれがいけないことなのか?

9月に出された有志からの質問状は四つあり、各質問の要点は以下の通り(発表を基に東京大学新聞社が編集)。
質問状は9月23日正午が回答期限で、小宮山議長からの回答があった場合は質問状と回答、回答がなかった場合は質問状のみが公開されることになっていた。

<質問>
1. 第2次候補者は規則上3〜5人まで選出可能なのに、なぜ属性が偏った3人の人選を行う必要があったのか
2. 第1次候補者の氏名は東大教職員に周知すべきではないか。周知できないならその理由は何か
3. 第2次候補者の氏名について「取扱いにご留意願います」とするのは総長選考過程を隠匿するような要請に思われ、選考の透明性の観点から重大な問題があるのではないか。氏名に関してまでこのように箝口令を思わせる措置を取るのはなぜか
4. 「総長選考が適正に実施されなければならない」と宣言しているならば積極的な候補者の公表・公開をして社会からの要請に応じるべきではないか。また「透明性・公平性を高める観点から、所要の見直しを行った」というがどのような「所要の見直し」でどのように「透明性・公平性」が高まったのか

<それに対する小宮山議長の回答の要旨>

1. 総⻑選考会議ではこのたびの第2次候補者の選考にあたり、候補者の属性を特別に意識することはせ ず、求められる総⻑像に照らして最良の候補者を選出するという方針で臨んだ。候補者を3名にすることに関しても、総⻑選考会議で十分に討議した上で合意したもの

2. 第1次候補者については、立候補制は採らず代議員会及び経営協議会からの推薦により選出されたものであり、第2次候補者に選出されなかった人の配慮から、過去の選考においてもその人数・氏名は公表していない。今回の第1次候補者にも、氏名は公表しないことを知らせた上で書面の作成と面接審査への協力を依頼した。こうした経緯を踏まえ、第1次候補者の氏名は公表しない扱いとした

3. 意向投票の投票有資格者は学内の教員のみで、学外の意見などを取り入れる環境に対応することはないと判断し、現時点での学外への公表を控えた。今回の総⻑選考の選考理由と選考過程は、10月2日に公表することとしており、第2次候補者の氏名はその時点で公表する予定

4. 今回の選考プロセスは、総⻑選考会議において、昨年度までに学内(各部局⻑等)の意見も確認しながら時間をかけて審議・決定し、4月28日に学内外に示した。意見については、より良き総⻑選考の在り方への提言と受け止め、今後の検討に生かす

なんでこんな質問が出て、また選考会議はわざわざ回答しなきゃいけないのか?

要望書に名を連ねる人物は以下の通り(幹事の大和名誉教授を除き五十音順)。

大和裕幸
石井洋二郎
江川雅子
清水孝雄
南風原朝和
長谷川寿一
古谷研
保立和夫
松本洋一郎
武藤芳照

えらい人たちなんだろうね。
なんといっても日本の最高学府の頂点東大教授なんだから。
そのそものルールはどんなものだったのか?

では、そもそも今回の総長選挙のルールとプロセスはどんなものだったのか?

日程はこんな感じ。

4月28日:総長選考開始の公示。このときに「求められる総長像」が示される
6月9日:第一次総長候補者の推薦(代議員会)
6月24日:第一次総長候補者の推薦(経営協議会)
9月7日:第二次総長候補者の選定(総長選考会議)
9月30日:第二次総長候補者への意向投票
10月2日:総長予定者の決定(総長選考会議)

○求められる総長像

東京大学総長は、東京大学憲章の掲げる目標・理念を尊重し、その達成・実現を追求する明確なビジョンと強い意志を有するとともに、次のような資質、能力及び実績に裏付けられた指導力と人々への奉仕的精神をもつことが期待される。
1 学内外からの敬意・信頼を得るに足る高潔な人格と高い倫理観及び優れた学識
2 開学以来の伝統を活かしながらも、現代社会の要請に応え、必要に応じて大胆な改革を行い、「世界の東京大学」にふさわしい卓越性・独創性・多様性をそなえた教育研究活動を導く国際的な視野と実行力
3 組織構成員の幅広い支持を受け、円滑かつ総合的な合意形成に配慮しつつ、適切にリーダーシップを発揮し、効果的で機動的な組織運営を行う能力と実績
4 世界最高水準の学術研究・人材育成を推進するために、大学の財務基盤を強化し、社会の各界から幅広い理解・協力を得て、大学を経営していく能力
5 自由・自律及び多様性を重んじ、世界の学術の発展と協調的人類社会の実現に貢献しようとする強い使命感 

○令和2年度総長選考会議における総長の選考過程の検証報告書(令和2年12月11日)

で、こういうプロセスとルールを検証して、検証委員会は問題ないとしている。
それを受けて五神学長は次のように述べた。

【次期総長予定者について】

総長選考会議は、10月2日に東京大学の次期総長予定者として藤井輝夫氏を決定し、公表しております。検証委員会の報告書は、「藤井候補を次期総長予定者とする決定は、正当に成立し、全く問題のないものである」と述べています。これを踏まえ、引き続き、所定の手続きを遅滞なく進めてまいります。

【現総長の責任と今後の課題について】

総長選考会議の運営に混乱が生じ、東京大学のガバナンスに対する社会的信頼に負の影響を及ぼしたことは、まことに遺憾であり、東京大学の最高責任者として深く反省いたしております。

総長選考会議は、法制上、総長を解任する実質的な権限を有する中立性の高い機関であり、総長といえどもその運営に口を差し挟むことは適切ではありません。しかし、総長選考会議の組織構成等に改善すべき問題点が存在することは否定できない事実です。現に検証委員会は、その報告書の中で、幾つもの問題点を指摘した上で、見直しの方向性について、学内委員の在任期間、総長選考会議の運営、学内構成員に対する情報提供の改善、総長選考会議の事務局機能の強化という4項目からなる大変貴重な意見を付していただいています。残された任期中に、改善すべき点を可能な限り改めた上で退任することが、私が責任を果たす最善の方法と考えます。

もちろん、私の任期中に解決できない問題や、次期総長に委ねるのが適当な問題もあるでしょう。検証委員会の報告書を精査し、広く学内外の意見をお聞きしながら、如何なる問題を如何なる手順で検討すべきかを考え、私がやるべきことについては、遅滞なく対処していく所存です。

選考過程には問題ないけど、学内委員の在任期間、総長選考会議の運営、学内構成員に対する情報提供の改善、総長選考会議の事務局機能の強化という4項目で見直す方向ってことね。

でも、ほんとの問題ってなんだったのか?

怪文書も出回る総長選挙

7月7日の代議員会で1回目の意向投票(いわゆる予備選)が行われ、ここで総長選考会議にかかる11名が候補者として絞り込まれた。
東京大学医学部で理事・副学長の宮園浩平氏が1位(67票)、次点が元生産技術研究所長で同じく理事・副学長の藤井輝夫氏(54票)だった。そして、2015年にニュートリノ研究でノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章氏(24票で3位)らが総長選で辞退。そこへ、学外委員による推薦で永井良三氏が浮上してきた。
これが「外部の」って下りの人ね。

でも、9月4日に開催されたという総長選考会議では、総長を選ぶ本選で候補者を絞り込む選考で、予備選の票数を考慮するかどうかで議論になったとか。
議長である現・三菱総研理事長で元東大総長という東大大物OB・小宮山宏氏は、宮園氏を外すことを主張した。
学内委員からすれば、みんなで投票して一番得票したのが宮園氏なのだから、本選候補者には宮園氏を入れるべきと主張する。
でもこのときに怪文書が出回っていた。

怪文書によると、
「分子生物学の第一人者だった教授・加藤茂明氏(当時)が2017年に論文の捏造で懲戒解雇処分された件で、宮園氏は加藤氏と研究仲間であり、共著があった」。

この加藤氏の論文捏造事件は2012年に発覚し、全発表論文165本のうち33本について不正行為があったと最終的に報告された。
この重大な不正を行った加藤氏本人と、東京大学総長予備選で1位の得票であった宮園浩平氏とを結びつける出どころ不明の怪文書を、なぜか総長選考会議で小宮山宏氏が取り上げ、本選で宮園氏を候補から外せと主張した。

でも、怪文書ではこの不正な研究捏造で東京大学を懲戒解雇になった加藤氏との繋がりを示唆するが、宮園氏は最終報告書にもある通り不正研究に加担したわけでもなければ加藤氏に協力してきたわけでもなかったとか。

○分子細胞生物学研究所・旧加藤研究室における論文不正に関する調査報告(最終)

https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400007786.pdf

では、消えた録音ってなに?

会議で小宮山氏が激昂するような録音が流出して騒ぎになった。
しかし、流出した録音テープで、小宮山宏氏が宮園氏を最終選考から外し、永井さんを候補に入れるにあたって、学内委員との間で議論をしたのは間違いないのだが、4時間にも及ぶ選考会議も最終的には参画した16名のすべての委員が規定通りの総長選任を行う方針に賛成している。
怪文書を信じて小宮山氏が激昂したのは事実かもしれないが、決定においては少数意⾒を抑圧して議⻑の独断で決めたという形跡はない。
学外委員と対等な⽴場にある学内委員も全員賛成した形になっている。

規程では残す必要のない録音だったが、消す必要もない録音でもあったということだ。消すことであらぬ疑いを持たれただけ。

そして、総長第二次意向投票(いわゆる本選)では、宮園氏を外した候補者3名での投票となった。さまざまな要望書や怪文書が飛び交いつつも、なんと過半数の圧倒的得票を藤井輝夫氏が獲得した。
有効投票数は1818票、各候補者の得票数は藤井先生が951票、大学院工学系研究科長・工学部長の染谷隆夫教授が635票、自治医科大学学長の永井良三名誉教授が232票。

意向投票は、やめられない!

今回は「選考プロセスの透明性・公平性に多くの疑義がある」というのが問題になった。

でも、透明性、公平性ってなんだ?
こういうことを主張するのは自分たちが総長を選ぶことに参加できるという仕組みがあるからだろう。
ガバナンス改革で、選挙で総長を決めなくてもよくなっているのだが、「意向投票」という名前でまだ選挙は残っている。
東大の場合、二度、有権者は投票できることになっている。

北海道大学の学長がパワハラで解任されることがあった。
あれも意向投票を経ている。
待遇の問題で構成員=有権者の利益を守ると言って当選した人だった。
むしろ意向投票で人物像の評価をごまかされたともいえるかもしれない。
しかし、また今、解任の手続きに瑕疵があるとして国に提訴するらしい。

選挙で候補者を選びたくない経営者側、自分の一票を重視し選挙で選びたい教授たち。
これは下手に選挙制度をこねくりまわして「意向投票」とか「求められる人物像」なんて小手先の手段を講じるからなんじゃないだろうか。

経営協議会が決める!
あるいは、自治体と同じように選挙で決める!

って方法に変えれば、無駄な時間は費やさなくていいと思うけどね。

だって、誰になったって東大がやることはほぼ同じ

新総長の藤井氏がインタビューに答えている。

―総長の選考過程で主張したポイントは何でしょうか。
 「世界の誰もが行きたくなる大学、社会から共感を得られる大学にすることだ。最も大切なのは人だ。学生も教職員も生き生きと、研究など創造的な活動に使う時間を確保する必要がある」

「それを支える(資金確保の)手段として、学外に目を向けて連携や財源多様化を進めてきた。一方、学内の体力強化に重要なのは時間だ。新型コロナウイルス感染症を機に、事務のデジタル化など業務のやり方を変えていく」

―東大は産学「協創」という言葉にこだわっています。
 「どのような未来社会を目指し、どういった方向で進むのかを、産学が協調してビジョンを創ることから始めている。自治体や、持続可能な開発目標(SDGs)を重視する日本証券業協会など多様な組織との関わりもそうだ。『大学は無形の価値を生む』と認めてもらい、それに応えていく関係だ」

―研究成果に合わせた共同研究費を受け取るのとは違う、と。
 「そうだ。例えばダイキン工業との間では多数の社員が学内研究室を回ったり、学生が同社の世界拠点でインターンシップ(就業体験)をしたり、幹部同士がラウンドテーブルで議論したりする。重層的に人が動いており、その価値に対するスケールの資金を用意してもらっている」

―あえて大学債を発行した狙いは。寄付の東大基金の運用益でカバーできる額だと聞きました。
 「企業の内部留保など、日本社会で眠るキャッシュを動かしたいという動機があった。『大学が社会との対話を通じて、マーケットから資金を調達する』というアクションで、実現するのがポイントだ。大学が公共を支える活動の資金になるため、社会的な課題解決に取り組む社会貢献債(ソーシャルボンド)と位置付けた」

―理解を促すコミュニケーションが欠かせませんね。
 「投資家向け広報(IR)の統合報告書をはじめ、寄付など大学を支える人の思いを反映した使い方をしていることを積極的に伝えている。多様な手だてを他大学にも参考にしてもらいたい」

誰が総長になっても、東大を取り巻く環境が大きく変わることはない。だから課題は似たり寄ったりになる。大学債、IR、SDGsとか。

しかし、総長がどの学部から選ばれるべきとか、プロセスやルールが一ミリでも違うのは不正だとか、そんなことで時間を費やすのが好きな人たちがいるのだろう。

小人閑居して不善をなす

自治体の選挙も似ているが、有権者の一票を重視する民主主義によって自らを統治される代表を選ぶ場合は、よほど有権者が賢人でないとえらいことになる。

例えば、負債でつぶれそうな自治体で、増税をしなきゃいけないときに、それを主張しない代表が選ばれたらどうなるのか?

その自治体は潰れますよね。

税金を支払っている有権者が代表を選ぶのはまだわかるけど、給与をもらっている代表を自分たちで選べる選挙制度ってスゴイよね。

自分たちの都合だけで決めちゃいけないんだけど、そこんところはどうなのか?

激しい選挙戦でポピュリズム、バラマキ制度が横行するのは困るけど、経営者が構成員を圧迫するような人も困る。

しかし、まあ決められたルールで候補者を選んでいて、その裁量権は選考会議にあるってことくらいわかってもいいんだけどね。

ほんとにおかしいと思うなら候補者決定無効の取消訴訟でもやればいいと思う。

小人閑居して不善をなす

コトバンクの解説はこれ。

(「礼記‐大学」の「小人間居為二不善一、無レ所レ不レ至」による) 徳のない、品性の卑しい人は暇であるととかく良くないことをする。
※俳諧・本朝文選(1706)三〈汶村〉「小人閑居して不善をなすとは、此閑居の見通しなるべし」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について

『礼記』の「大学」だって。
なるほどね。

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