【短編小説】ペルネラス
マモルはその動物がペルネラスという種類なのだと図鑑で知った。
マモルはとても安心した。
だってそれまでその動物の動きがマモルには理解できなかったからだ。
マモルが撫でてやると、ペルネラスはいい気持ちになり、あたかも自分がマモルの神様のような態度で振る舞う。ペルネラスは、おだてられないと気の済まない種類なのだと図鑑で解説されていた。
ペルネラスは、アモルネスに外形がよく似ている。アモルネスはペルネラスを少し大きく、勇敢な角を生やした形をしている。ペルネラスはアモルネスに変体したいが、アモルネスにはなれない。ペルネラスがアモルネスになるには地道な努力が必要なのだが、ペルネラスにはそういう地道な努力ができない。
ペルネラスのなかには、アモルネスになりたい自分となれない自分がいる。ありのままのペルネラスがいないのだ。だからペルネラスは自分を振り返り、自分に足りないところを補うような変体の努力ができない。ペルネラスは努力というものが嫌いだし、そういうことは才能のあるペルネラスがやるべきことではないと思うのだ。それはペルネラスという動物の種類の宿命だから仕方ない。
それでもときどき、ペルネラスがお化粧をすると、ペルネラスのことをアモルネスと間違う人がいる。それでペルネラスは悦に入っている。ペルネラスはおだてられるのが何より好物なのだ。
間違う人々はその図鑑があることを知らない。いや、知ったところで何になるだろうか。ペルネラスという動物と付き合ってみて、不愉快な思いをした人だけに役立つ図鑑なのだから。
ペルネラスもその図鑑のことは知っている。
でも、ペルネラスのなかでは、その図鑑はこの世にないことになっている。そう思わなければペルネラスは生きることが苦しくなる。
ペルネラスは苦しみながら生きることができない。
なぜならペルネラスはとても弱い弱い生き物だから。