今、読んでいます、『街とその不確かな壁』。
『街とその不確かな壁』を今読んでいます。
とても楽しみにしていたので、ちょっとずつ読むようにしています。
だって楽しみは少しでも長く続く方がいいものね。
先日、新潮社『考える人』の元編集長とある心理臨床家と村上春樹の話で飲みながら盛り上がりました。みんな村上春樹の作品は全部読んでいる人たちです。
そのときにそれぞれどんな作品が好きかってことになりました。
元編集長というのは、村上春樹のロングインタビューが『考える人』に載ったときの編集長なので、そんな人と気軽に村上春樹ってイケてるよねとかいう話をすべきではないのはわかっています。
でも、ハイボールも6~7杯になっていて、そういう人間関係に被さっているシールドみたいなものがだんだん解除されているような雰囲気でした。
元編集長の一押しは『風の歌を聴け』だとか。
この小説を読んだ衝撃は大きかったらしい。それまでの小説の概念みたいなものが全て壊れるくらいだったと。臨床心理家は50歳代前半で、オンタイムで読んでいるわけではないけれど後からすべて村上春樹作品は読んでいて、その人も『風の歌を聴け』が一番いいとか。
僕は(ここでは村上春樹の初期作品のように「僕」にします)、『風の歌を聴け』は発売の一年後くらいに読んだんですが、翻訳調のキザな小説という印象しかなく、今ひとつ元編集者と心理臨床家と感覚が違います。
『1973年のピンボール』もまたまたキザで、行間に風が吹いているような小説だなあと思ったということを二人の前で話しました。
今から思えば、いくらシールドが外れているとはいえ、村上春樹夫妻からの信頼も厚いらしい元編集長に言うべき意見じゃなかったような気もします。
ところが、『羊をめぐる冒険』を読んで引き込まれたのです、という話もしました。
推理小説なのか、SF小説なのか、純文学なのかよくわからない小説。なんかとんでもない大きな世界に支配されているような感覚です。それを読んで、『1973年のピンボール』『風の歌を聴け』の意味が分かったというような感想を述べました。
それから三人で、どの小説がどうよかったとかあれこれ話しました。
元編集長は、「こんなに村上春樹の小説を楽しく話すひとたちがこの大学にいるということは嬉しいですね」と言っていました。
ハルキストか村上主義者かわかりませんが、村上春樹の小説をすべて読んでいるという人にときどき出会います。
でも、だいたい一番好きな作品は違う。
まあ、人の好みってそんなものでしょう。『ノルウェイの森』みたいな恋愛小説から『東京奇譚集』みたいなちょっと怪奇小説っぽい作品、『1Q84』みたいなSF小説とかいろんなジャンルの作品を村上春樹は書いているので、いろんな読み方が出来ます。
そこで、僕の好きな村上春樹作品ベスト10をまとめてみます。
長編短編ごだまぜです。
10位 ねじまき鳥クロニクル
9位 レキシントンの幽霊
8位 今は亡き王女のための
6位 神の子どもたちはみな踊る
7位 海辺のカフカ
5位 羊をめぐる冒険
4位 納屋を焼く
3位 世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド
2位 騎士団長殺し
1位 1Q84
1位は『1Q84』ですね。
この小説はとても大きな作品だと思います。
戦後日本の思想的な歴史がギュッと詰まって、精神世界の上と下が繋がっているような作品です。
村上春樹には、大きなストーリーでぐいぐい押していく作品がいくつかあります。
5位の『羊をめぐる冒険』、3位の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』なんかもそうでしょう。たぶん若い頃ジョン・アーヴィングの影響を受けたからなんじゃないかと思います。
カート・ヴォネガットJr.とかフィリップ.K.ディックとかのSF小説の影響や、レイモンド・チャンドラーの推理小説の影響も受けているので話が面白い。
2位の『騎士団長殺し』は、それに上田秋成の『雨月物語』の日本的な怪奇小説っぽさもあってゾクゾクしました。
あと長編では、7位の『海辺のカフカ』と10位の『ねじまき鳥クロニクル』がいいと思います。
『海辺のカフカ』は、クエンティン・タランティーノの『フロム・ダスト・ティル・ドーン』という映画に出てくるような化け物が突然現れるというシーンにびっくりした記憶があります。
『ねじまき鳥クロニクル』はノモンハンで皮を剥ぐシーンがエグかった。
どっちも深層の井戸に降りて、あっちの世界に行って、また戻ってくる感じのストーリーだったような。
一方、短編はなぜか何度か読み返したくなるというものです。
4位の『納屋を焼く』は、韓国で映画化された作品です。映画では韓国が舞台ということもあって、焼かれたのは納屋ではなく、ビニールハウスでしたが。
静かな狂気を感じる作品です。
6位の『神の子どもたちはみな踊る』は、カルト宗教の話ですが、神さまについて考えさせられる作品です。何度読んでも面白い。
8位『今は亡き王女のための』もなぜか何度も読み返したくなってしまいます。完全に好みの領域だとは思います。ああいうスポイルされた女性と僕も過去に何かあったというわけではありません。
村上春樹の短編は、レイモンド・カーヴァーの影響を強く受けているように思います。静かな時間の流れのなかでちょっと変化があると思う作品が多い。
9位の『レキシントンの幽霊』は知らず知らず背筋が寒くなるお話です。
『街とその不確かな壁』を読み終えたら、このランキングが変わっているのかどうか。
今から楽しみです。
※写真は、僕の村上春樹コレクション。
文庫が出たら買い換えるようにしています。でも、『1Q84』『騎士団長殺し』『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』『羊をめぐる冒険』は単行本がまだ手放せない。