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【じんたろホカホカ壁新聞】トリチウム稀釈水の海洋放出、何が問題なのか?

政府がトリチウム汚染水の海洋放出決定?

一週間前に政府はこういう発表をした。

東京電力福島第一原子力発電所で増え続けるトリチウムなど放射性物質を含む水の処分方法について、政府は来週13日にも関係閣僚会議を開き、海への放出を決定する方針を固めたことがわかりました。放出前後のトリチウムの濃度を調べるモニタリングの強化や風評被害の対策を徹底し、それでも生じる被害には丁寧な賠償を実施するとしています。

おっと、俺たち、知らないよ。
聞いていないよ。
というのは地元福島の住民ばかりではなく、韓国、中国、台湾でも抗議が起きているとか。

菅総理の言っている「アルプス」って何?

菅総理が記者会見でこんなことを言った。

菅総理大臣は会議の中で「アルプス処理水の処分は福島第一原発を廃炉するにあたって避けては通れない課題だ。このため本日、基準をはるかに上回る安全性を確保し、政府を挙げて風評対策を徹底することを前提に、海洋放出が現実的と判断し、基本方針を取りまとめた。これまで有識者に6年以上にわたり検討いただき、昨年2月に海洋放出がより現実的との報告がなされた。IAEAからの科学的根拠に基づくもの、こうした評価がなされている。また、海洋放出は、設備工事や規制への対応を行い、2年程度のちに開始をする。トリチウムの濃度を国内の規制基準の40分の1、WHOの定める飲料水の基準の7分の1まで低下させる。さらに、IAEAなど第三者の目もいれて高い透明性で監視をする。さらに福島をはじめ被災地の皆様や漁業者の方々が風評被害の懸念をもたれていることを真摯(しんし)に受け止め、政府全体が一丸となって、懸念を払拭(ふっしょく)し、説明を尽くす。そのために徹底した情報発信を行い、広報活動を丁寧に行う。早速週内にも本日決定した基本方針を確実に実行するための新たな閣僚会議を設置する。政府が前面にたって処理水の安全性を確実に確保するとともに、風評払拭に向けてあらゆる対策を行っていく。国民の皆さんには心からのご理解をお願い申し上げる」と述べました。

でも、野党はこう言っている。

立憲民主党の福山幹事長は、記者団に対し「国民への十分な説明がなく、海洋放出ありきで進んだとしか言いようがない。地元では先月ようやく試験操業を終え、本格操業に移行し始めたやさきの放出決定は、現場の漁業者の操業意欲に水を差すもので非常に失礼な対応だ。風評被害を防ぐ具体策もなく非常に遺憾だ」と述べました。

まあ、やむを得ないか。
政府の唐突感あるもんね。
だいたい「アルプス」って何?

アルプスはALPS

汚染水は、ALPS等の浄化装置によってトリチウム以外の放射性物質を取り除く処理を行った「ALPS処理水」として敷地内のタンクに貯蔵してきました・・・
過去に発生した浄化装置の不具合や、汚染水が周辺地域に与える影響を急ぎ低減させるための処理量を優先した浄化処理等が原因で、現在、タンクに貯蔵されている水の約7割には、トリチウム以外にも規制基準値以上の放射性物質が残っています。
4月13日に決定した基本方針において、ALPS処理水の処分の際には、2次処理や希釈によって、トリチウムを含む放射性物質に関する規制基準を大幅に下回ることを確認し、安全性を確保することとしていますが、上記の経緯から、規制基準値を超える放射性物質を含む水、あるいは汚染水を環境中に放出するとの誤解が一部にあります。
そうした誤解に基づく風評被害を防止するため、今後は、「トリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たす水」のみを「ALPS処理水」と呼称することとします。


とか。

要するにトリチウム以外のALPS処理水は安全基準を下回るようにやってきたけど、問題はトリチウムってこと。

トリチウムは何か問題か?

では、トリチウムは何か問題なのか?

現状では除去が難しく、東京電力福島第1原発の処理水に残る放射性物質トリチウム。弱い放射線を発するが、体内に取り込まなければ被ばくの恐れは小さいと考えられ、国内外の原子力発電所では通常運転中に基準値内で排出している。
トリチウムは放射性同位体の一種で3重水素とも呼ばれる。同じ水素を含む水から、トリチウムだけを区別して取り除くことは技術的に難しい。
ベータ線と呼ばれる弱い放射線を出し、体外にあれば被ばくの恐れはほとんどない。飲み込むなどした場合に内部被ばくが生じるが10日で半分が排出。一部はタンパク質などと結合し、最長で1年程度体内にとどまる。
ただ、より強いガンマ線を出し、体内に長期間残るセシウムと比べると、同量のトリチウムが及ぼす影響は300分の1以下という。

しかし、トリチウムはフクシマだけの問題ではない。

トリチウムは、汚染水を浄化処理する多核種除去設備では取り除けない。経済産業省によると、福島第一の処理水に残留するトリチウムは約860兆ベクレル。処理水は今後も増え続ける半面、海洋放出は30年程度かける計画のため、その間に半減期12・32年のトリチウムは一定程度消滅する。
東海再処理施設は1977年から2007年まで、新型転換炉ふげん(福井県敦賀市、廃止措置中)や原発の使用済み核燃料を再処理した。30年間の処理量はウランとプルトニウム計1140トン分。原子力機構によると、その過程で約4500兆ベクレルのトリチウムを含む水を茨城沖の太平洋に流してきた。

実際にこれまで原発近くでモニターしても安全基準以下だった。

大飯原発の近くの海で獲れた魚に、トリチウム水の影響はあるのか。
魚介類を持ち帰り福島大学の環境放射能研究所の協力を得て調査しました。
大飯原発周辺で取れたアマダイ、アオリイカ、マエビの3種類のほか佐賀県の玄海原発周辺でとれたマダイも測定します。
その結果。
今回、調べた結果、4つの検体とも放射性セシウムの値は検出限界値未満でした。

安全基準よりもよい安全委稀釈すると政府は言っている。

トリチウムを含む水の海洋放出は国内外の原発でも実施している。基本方針によると、放出前に処理水を海水で100倍以上に希釈し、国の基準値の40分の1程度、世界保健機関(WHO)の飲料水水質ガイドラインの7分の1程度にトリチウムの濃度を薄める。1年間に放出するトリチウムの量が事故前の福島第1原発で設定していた目安を下回るようにする。

韓国でもフランスでもトリチウムは海洋放出している?

日本の海洋放出を批判している韓国も実はすでに海洋放出している。

韓国の主要原発である月城原発は2016年に液体約17兆ベクレル、気体約119兆ベクレルの計約136兆ベクレル(ベクレルは放射能の強さや量を表す単位)を放出。同様にフランスのラ・アーグ再処理施設は15年に計約1京3778兆ベクレルを海洋と大気にそれぞれ出している。

そして韓国では海外放出は安全であるという報告書も出されていた。

(韓国)政府は関係部署による合同部会を構成し、専門家らを交え対応を検討した。昨年10月に作成された報告書は専門家の意見として、放射性物質を除去する日本の設備について性能に問題はないと指摘し、除去できないトリチウムに関しても「水産物摂取などによる有意味な被ばくの可能性は極めて低い」と報告。日本の近隣地域の放射線影響評価に対しても「妥当だ」との見方を示した。

この分野のサイエンスの世界では海洋放出が最善策であるというのは常識なのだろう。
二年前に日本の経済産業省はこんな検討をしている。

5つの処分方法(地層注入、海洋放出、水蒸気放出、水素放出、地下埋設)について評価を実施・・・
作業期間、コスト、影響地域、二次廃棄物の問題、被爆作業員の問題などから、海洋放出が一番いいと言っている。
とくに、コストは海洋放出が34億円と突出して安い。
水蒸気は395億円、水素放出1000億円、地下埋設2431億円、地層注入はお金がかかりすぎて現実的な算定はできていない。

しかし、この文書にも公聴会の反対意見が載っている。

・国民理解を得ずしての海洋放出には反対。
・人為的に流すことは倫理に反する。委員会が提案する5つの提案には全て反対である。
・地層注入、地下埋設は直接目の届かないところで管理するので、異変に気付きにくく不適切。
・地元(福島)の沿岸漁業に対し風評被害の懸念を考えれば、タンカー船によるトリチウム水の輸送や配管を引くことで、沖合や深海での海水希釈・海洋放出をすればよいのではないか。
・処理水を配管などで移送し、東京都内や無人島、福島第二原子力発電所など別の場所からの放出をするべきではないか。
・コストを優先して海洋放出することは、福島第一原発事故の被害をさらに広げ、社会的影響が甚大であることを思料すべき。
・希釈して海洋へ放出するのはロンドン条約違反になる可能性がある。

これはサイエンスだけの問題ではないのだろう。
魚漁業従事者や地元住民の心理的不安、風評被害への懸念が、生活を続けられるかどうかの心配な要素になるのだろう。

ネットが風評被害を煽る?

しかし、そこに地元住民ではない意見もネットなどに出てくる。
それが逆に風評被害を煽っていることにもなる。

インスタグラムのストーリーズを更新し、海の写真の上に「放射線汚染水を海に流すと決めた人たちに真っ先に泳いでもらおうか。魚も食べてもらおうか」という文字をつづって決定を非難。続けて、「流したらだめだって子どもでもわかる。ぜったい許しちゃだめ」と反対の意思を見せていた。
しかし、この発信にネットからは、「風評被害を広めてる」「こういう発言が福島に住む人を苦しめてるって分かってない」「原発事故から10年経ったのに、まだ風評被害について学んでないの?」といった批判が続々と集まっている。

坂本美雨は自分の意見をネットで表明したに過ぎない。批判は的外れとも言える。

解決の道はあるのか?

問題は漁業従事者に被害があるならそれを東京電力が補償するしかないのだろう。

東京電力福島第一原発の処理水を海に流すことについて、東電の小早川智明社長は16日、福島市内で会見した。風評被害が起きた場合、期間や地域、業種をあらかじめ限定せずに、損害を迅速かつ適切に賠償するとした。「被害者に極力負担をかけないよう柔軟に対応する」という。

東京電力は、柏崎刈羽原子力発電所の問題で原子力規制委員会から指導で、実質上の再開停止の措置をされている。
休日に抜き打ちに原子力規制委員会の委員が訪問した抜き打ち調査で、テロリストなどへのセキュリティ対策が問題視された。
この措置によって、原子力規制委員会の信頼は高まったかもしれない。
しかし、東京電力は国有化する選択になる可能性も濃くなったと思う。

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