仮説の立て方

Issue drivenとか安宅さんが書かれて久しいですが、とにかくプロジェクトで大事なのはWeek 0 - 1にどこまで初期仮説を立てられるかです。

そもそも仮説とは?みたいな方は巷にたくさん類書があるので是非それらを先ずは当たっていただければと思いますが、簡単に言うとプロジェクトで説かないといけないお題に対する「仮の答え」を持つことを指し、何を検証するかを明確化させないと無駄な検討が長引くので仮説を持とうという点に必要性があります。

どうすればいい仮説を立てられるのか、という質問をよく受けたりするので、私が個人的に心がけていることを整理してみようと思います。

1. 完全妄想ベースで素早く
2. 言うべきことと言いたいこと
3. 問いを分ける
4. 「なぜ」に答える
5. トレードオフを見つける
6. 特殊性を見つける
7. 遠くの未来から借りてくる

ひとつひとつ書いてみます。

1. 完全妄想ベースで素早く

とにかく仮説は「仮」の答えなので、最低限の初期調査をした方がいいとかいう声もありますが、私は完全妄想ベースで仮説を書いていきます。大事なのはスピードであり、検証して改良していくためのベースを持つのが大事なので、とにかくワードに初稿を何を調べずに妄想ベースで書き切り、それをいかに早く速く修正できるかを重視します。

2. 言うべきことと言いたいこと

その仮説は問題を抱える当事者に伝えるメッセージの塊となる訳ですが、何をこの検討で伝えるメッセージとするかを考える際には、「言うべきこと」と「言いたいこと」に分けて考えるとバランスが取れたメッセージを構成しやすいです。

言うべきことを言い換えると問題の当事者が「知るべきこと」とも言えるのですが、もし私が当事者だったら、と考えた時に最低限知らされているべきメッセージというのを思い浮かべると考えやすいです。「どうすれば貯金できるか」というような問いがあった際には、無駄遣いはやめましょうとかお金の出入りが見えるようにしましょうといった、「最低限この問題を扱うのであれば一度は議論の遡上にあがらないと嘘になるだろ」というような観点を持つと、メッセージを考えやすいですし、地に足ついた議論になりやすいです。

一方で、そうなると検討が小さくまとまりがちになるので、「どうせこのお題を自分が扱うであれば、一度はこの機に言ってみたいこと」を考えると新しいメッセージが思いつきやすいですし、その是非を問うためのこれまでになかった検討アプローチを着想できたりします。貯金の例なら、一流の営業マンはギリギリまでお金を消費したり借り入れたりして追い込みその分儲けるよう追い込むというような話を聞いたことがありますが、言ってみたい面白そうなことというのは、そのような少し突飛な観点です。或いは「○○におけるアップルになれ」とか、戦略とは何をするかではなく何をしないかを考えることだからこそ「もう○○はやめませんか」というようなことであれば、スタッフレベルでも言ってみたいことぐらいは思いつけたりするので、検討初期にそのような「ワクワク」する問いかけを投げかけてみると、よく多角的な視野の補完や能動性を引き出すことにも繋がります。

3. 問いを分ける

あと、仮説は何を「説く」のかを分けることが重要です。つまりは質問を分ける必要があるということで、「わが社はどうAIを活用すべきか」みたいな検討があった際には5W1Hではないですが、そもそもAIとは何であり、なにがためにわが社が活用する必要があり、それをどうやるのが重要で、誰と活用していくのか、と最初から最終報告の章立てを論点ベースで分けていくことが重要です。

仮説を考えないと。。といって思考が停止してしまう人をよく「考えている」のではなくそれは「悩んでいるだけ」と言ったりしますが、つまりは答えを出すべき問いを小分けにしていくと仮の答えに辿り着きやすくなります。

4. 「なぜ」に答える

その際に色んな種類の問いを立てることになるのですが、大事なのはWhatやHowよりWhyに関する問いです。なにをすべきやどうすべきは案出ししやすいのですが、結局は「なぜできていないのか」という原因に根差していないと的を外した解決策を延々深ることになり、間違ったはしごを登り続けることになります。また「なぜ検討しないといけないのか」とそもそも論も問わないと、考えるべきお題が間違っているのに気づけないということもあります。

で、必要性のごたくは結構並べやすいので、それらが本当に必要な理由として妥当なのかを産馬術のようにWhy why why...と重ねていればよいのですが、原因究明のWhyは前提や状況理解が薄い初期段階に仮説を立てるのは難しいことが多く、そういう時は1)情景を思い浮かべ、2)極論に振ってみると考えが進みやすいです。

例えば「なぜいじめがなくならないのか」と考える場合に、その情景を思い浮かべると「いじめっこ」や「いじめられっこ」、「家族」や「友達」、「先生」や「学校」や「校則」などの問題の「構成要素」が見えてきます。そうすると「いじめっこか、いじめられっこが悪いのか」とか「うるさい親か、見て見ぬ友達が悪いのか」とか、「先生個人か、学校全体の対応が悪いのか」、「ルールが整備されていないのか、運用が悪いのか」などの「真因の二元論」が浮かんできます。このような多角的な観点で原因に対して仮説を持っておくと、施策に関するWhatやHowも筋が通りやすくなります。

5. トレードオフを見つける

問うべき大事なことにトレードオフ、つまりは両立が難しい関係性に着目するというのもあります。例えば電鉄の売上を上げるなどの検討の場合、単価は客当たりの移動距離が長ければ増えますが、レールを伸ばしてもそんな長距離移動する顧客の数が伴うかというと、両立できず固定費が焦げきます。そんな場合、いかに長距離移動しながらも客足を担保できるかというトレードオフの解消に着目すると、九州の観光列車のようなソリューションにたどり着けます。

よく「売上=単価×ボリューム」とか色々なフレームワークで要素分解して直線的な対処方法を列挙・評価し、それをドヤ顔で提言する場面を見かけたりしますが、それぐらいのことなら四六時中その問題に悩んでいる当事者なら既に考え付いていることがほとんどです。そう簡単に解けない問題というのは、往々にして複雑な要因が相互に影響しあって解きづらくなっているからこそ、トレードオフに着目すれば問題固有の複雑性に向き合った、手触り感のあるザラザラした解決の糸口が見えてきます。

6. 特殊性を見つける

手触り感のある着想をするためのトレードオフを見つける上でも大事なのが、「問題の特殊性」に注目することです。例えば、もし難民の経済的自立を実現したい場合には、高齢者の場合と何が違うのか、と考えてみるとその問題の固有性を突き詰めやすくなります。近しい例と比べれば、言語の壁や就労許可や選挙権の有無など、さまざまな特殊性に向き合うことができ、ともすると分かりやすい直線的なソリューションでは対処できない、「この問題ならでは」の複雑性やトレードオフを踏まえた上での打ち手を着想しやすくなります。

7. 遠くの未来から借りてくる

近しい例と比べて特殊性を炙り出す以外には、遠くの例と比べて着想を得るという方法もあります。帰納的に「あそこではああしてるから」とかいう出羽の神や演繹的に「こうすればこうなるはずだから」みたいなきれい事はとても言いやすいですが、ボトムアップやトップダウンの思考では至れない境地から答えを導出したい場合には、アナロジーを用いるのが有効です。

アナロジーとは似たような問題の構造を持つ他の事例から原因や施策を考えることで、ポイントとしてはできる限り遠い事象から借りてくる。つまりは一見表面上は似ていないように見えるけれども、構造上は類似している事象から共通点や相違点を踏まえることが、新たな着想を得るために重要です。また検討が先行している事象から借りてくることも大事で、そうすれば未だ検討が進んでいないテーマを取り扱う場合でも、まるでなんでも見通してきた「未来の人」のように原因や打ち手を言い当てていくことができます。

例えば「どうすればM&Aの成功率を上げられるのか」とかを考える際には、M&Aはよく結婚に例えられるますが、似た構造を持つ遠い事象に見立ててみると、理想な相手の要件を明確にすることやいきなり籍を入れずに相性を図ることや適合度を事前に精査すること、事後に関係者にちゃんと説明責任を果たすことの重要性などは容易に思いつくことができますし、結婚も許嫁や週末婚、一夫多妻制など様々な在り方が先行しているため(詳述すると不謹慎と言われかねないのでご想像にお任せしますが)、新たな外部連携の在り方の着想を得ることにも繋がりやすく、「遠い未来」からは考えを借りてくることができます。

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