藍 宇江魚

藍宇江魚(アイウエオ)のペンネームで小説、エッセイを書いてます。 ジャンルフリーです。 みなさんに楽しんで頂ければ幸いです! お仕事も募集してますので宜しくお願い致します。

藍 宇江魚

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マガジン

  • クロスポイント

    人生の岐路といっては大袈裟ですが、どうしようかなと思って立ち止まってどちらの道を選ぶか。 そんなストーリーやエッセイを独断で集めてみました。 (作品) 藍宇江魚「風花」 Yuri「サッカーができなくなったからこそ、今の自分がいる」

  • モイラの落涙

  • 楽趣公園(ルーチー・コンユァン)

  • 遠巻きの寛容

    藍宇江魚のファースト連載小説です。 『遠巻きの寛容』No.1~No.6 お楽しみ頂ければ思います。 ヨロシクお願い致します

  • 蟲魂

最近の記事

モイラの落涙 -失楽(4)-

            鱧椀 「うなぎ、ですか?」  酒井は織部の角鉢に盛りつけられた肴を見て言った。 「焼き鱧でございます」  クイント、穏やかに答えた。 「ほう。珍しい」 「えっ。ハモって何ですか?」  内村は角鉢を覗き込むと酒井に尋ねた。 「うなぎ。どちらかというとアナゴの仲間だな。お前、関東の出身だったなぁ?」 「宇都宮です」 「それなら余り馴染みがないかも知れないな。関西、京都や大阪では、比較的よく食べられている魚だよ。うなぎ同様、ちょっと高めイメージの魚かな。関

    • 楽趣公園(ルーチー・コンユァン) -全編-

      第1話 Long DIstance SNS:埼玉、純太 ― 台北、老板によるビデオ通話。 『老板。久し振り』  老板(らおばん)。  台北郊外の猫空(マオコン)にある茶園の主人。  向うでは、店主のことを老板と呼ぶことが多い。  茶園で親しく話しかけてきた時、名前が分からないからそう呼んでいる。  彼にも本名はあり、純太も当然それを知ってはいるが、彼のことをそう呼んでいるうちに馴染んでしまった。 『純さん。元気だったかね?』  老板は彼をいつもそう呼んでいる。  二宮

      • 楽趣公園(ルーチー・コンユァン) 最終話-茶油麺線(Tea oil somen noodies)-

         サミーが帰国する日。  羽田空港、出国ロビー。 「サミー。頼んだことが判ったら知らせてね」 「うん。任せろ」 「台北に着いたら連絡くれよ」 「あぁ。分かってる。でも、いつもそうしてるだろう?」 「それでもさ、念のため」  サミーは、子犬を撫でるような仕草で純太の頭を撫でた。 「子供っぽいから止めろよ」  照れる純太を、サミーは抱締めた。 「サミー。周りの人が見てるって」 「構わないさ」  ふっと笑いがこぼれ、純太もまたサミーを抱締めた。  自分より背の高いサミーに抱きしめら

        • 楽趣公園(ルーチー・コンユァン)-HANABI 後編-

           ゴールデンウィーク明けから間もない皐月のある夜。  真由美が目を開けると男の顔があった。 「ぎゃーッ」  ガバッと彼女が上体を起こすと、目の前で腰を抜かして座る白装束の林太郎が居た。 「お、お父さん…」 「真由美。驚かさないでくれよ。心臓が止まるかと思った」 「それはこっちのセリフですよ。それにお父さんの心臓は止まってるでしょう」 「あぁ。そうだった」 「もう…」  二人、苦笑。 「どうしたんです。急に現れたりして」  そう言いながら真由美は、林太郎の

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          4本
        • モイラの落涙
          4本
        • 楽趣公園(ルーチー・コンユァン)
          9本
        • 遠巻きの寛容
          9本
        • 蟲魂
          8本
        • 藍宇江魚 短編集
          17本

        記事

          楽趣公園(ルーチー・コンユァン)-HANABI 中編-

          それぞれの不機嫌    夜中、雷鳴混じりのにわか雨が降った。  朝、純太とサミーが公園へ行こうと外に出た時、路面は乾いていたが公園のグランドは所々ぬかるんでいた。  そのせいで太極拳体操は、普段と逆の配置で行われていた。  二人はグランドを見渡せるベンチにグランドに背を向けて隣り合わせに座って話していたが、体操をする面々の視線が背中に突き刺さるようで妙に居心地が悪かった。  二人の前のコンクリのテーブルにキジトラがひょいと飛び乗り、ミャーオとひと鳴きすると腹ばいで

          楽趣公園(ルーチー・コンユァン)-HANABI 中編-

          モイラの落涙 -失楽(3)-

          妄執   「私が強い。ちっとも強くなんかなくてよ。御覧なさいな。見ての通り一人で歩くことも儘ならない死期の迫っている老婆。こんな私のどこが強いと仰るのかしら」 「お心。いいや、精神ですよ。奥様は強靭な精神をお持ちでいらっしゃられます。そのエネルギーの源が何かを知りたいものですなぁ」 「酒井警部。年寄を相手にからかってはいけませんよ」  悦子は紅茶を口にした。 「あら。すっかり冷めてしまったわね。クイント。温かいお茶を皆様へ差し上げて」  悦子からそう命じられたク

          モイラの落涙 -失楽(3)-

          楽趣公園(ルーチー・コンユァン)-HANABI 前編-

          ふぐ鍋   「先輩。家でふぐ鍋なんて初めてよ」 「ふぐ料理屋やってる従弟に電話したら、パンデミックの煽りで休業中だったんだよ。頼んだら出張でやってくれるって言うから来てもらったけど。あんた達、運が良いよ。こんなご時世だから食べられないと思ってたんだけどね」 「でも、ふぐ鍋って冬もんだと思ってましたけど、中々美味しいわね」 「夏ふぐって言うのもあるらしいよ。いつでも美味しいって従弟が言ってたよ」 「あたし。初めて食べました。美味しいですね。洋輔は食べたことあるの?」

          楽趣公園(ルーチー・コンユァン)-HANABI 前編-

          モイラの落涙 -失楽(2)-

          游揺   「写真?」 「はい」  酒井は古ぼけた一枚の白黒写真を彼女に渡した。 「白衣姿の集合写真ね。どこかの大学かしら?」 「帝旺大学病院です」 「すいぶん古い写真のようですけど?」 「六十年前に撮られました」 「そう」 「福泉研究室のメンバーです」 「福泉研究室?」 「ご存じありませんか?」 「知っていますよ。当時、大脳分野の製薬研究でめざましい成果を上げていた研究室。製薬業界に身を置いている者なら知らない人間は居ませんよ。それで、この写真が何か

          モイラの落涙 -失楽(2)-

          楽趣公園(ルーチー・コンユァン)-You 打疫苗了嗎?(Did you get the vaccine ?)-

          「うぉッ。くそッ。あぁぁぁぁぁッ。あーぁ、負けた…」  純太は悔し気にVRゲーム機のゴーグルを外した。  ソファーに座ってノートPCの画面を見ると、やはり同じようにゴーグルを外しニヤケながらもドヤ顔のサミーがソファーに座って純太を見ていた。    事の起こりは、三十分前。  いつものようにビデオ通話をしていた純太とサミーだったが、話題がオリンピックの開催とパンデミックの衰えることのない蔓延へと言ってしまう。  そして必ず…。 『純太。ワクチン打った?(YOU 打

          楽趣公園(ルーチー・コンユァン)-You 打疫苗了嗎?(Did you get the vaccine ?)-

          モイラの落涙 -失楽(1)-

          巻頭   淡々と、紡ぎ出されるような昔語りの不気味 失楽(1) 鴎よ。お前は、いつも海風に向かって飛翔する プロローグ  それは、ありふれた窃盗未遂事件から始まった。  都心に近い閑静な高級住宅街。  老夫婦が昼下がりの買物を終えて帰宅した時、庭先で植木の割れる音がする。  様子を見に行った妻と侵入者が鉢合わせする。  侵入者は彼女を突き飛ばして逃げる積りだったが、そこへ夫が駆け付けたことから侵入者は妻を人質にして逃走を図ったことから騒ぎが大きくなる。

          モイラの落涙 -失楽(1)-

          楽趣公園(ルーチー・コンユァン)-baby carriage-

              柏木愛梨がパートで勤めているネット通販の受付センター内の託児所。  休憩時間を使って彼女は託児所に預けている息子の想(ソウ)の様子を見に来た。 「あら柏木さん」  顔馴染みの保育士が彼女に気づいて声を掛けた。゛ 「想くん。今、お昼寝なの」 「あら。そうですか」  保育室を覗くと友達に挟まれて眠る想の寝顔が見える。  愛梨はホッとした。 「想。先生の言う事をちゃんと聞いてますか?」  保育士の女性は穏やかに笑いながら言った。 「聞き分けも良くて、結構ここの人気者ですよ」

          楽趣公園(ルーチー・コンユァン)-baby carriage-

          遠巻きの寛容

                     理由 1990年3月7日、水曜日。曇天。  神保町、時刻観書店。  仕事で必要な本を探しあぐねた桜井祐平は、近くの若い男性店員に声を掛けた。 「はい。何か?」 「この本、あります?」  祐平、メモ書きを彼に渡した。 「少々お待ち下さい」  彼はすぐ戻ってきた。 「こちらですか?」 「そう」 「良かったです」 「でも、どこに?」 「本探しの達人ですから」 「探すのを手伝ってもらおうかな」 「喜んで」  名札に清水寛人とあった。 「シミズヒロトさん?」  苦

          遠巻きの寛容

          楽趣公園(ルーチー・コンユァン)-猫空(Mao Kong)-

           雷が鳴った。  バケツをひっくり返したような土砂降り。  道路を隔てた茶畑が雨煙に霞んで見える。  僕は坂本園でお茶を飲みながら外を眺めた。  稲光。  そして雷鳴が再び轟いた。  隣にキジトラキャットの奴が居る。  奴ときたら僕の閉じたノートPCの上を占拠して眠っている。  …僕のパソコンを寝床と勘違いしていやがる…  好い気なもんだ。  一際大きな雷鳴。  僕は突然のことにブルッと身体を震わせながら、近くに雷が落ちたなと思った。  それでもキジトラの奴は目を覚まさない。

          楽趣公園(ルーチー・コンユァン)-猫空(Mao Kong)-

          楽趣公園(ルーチー・コンユァン)-around FREE-

           SNS:純太と老板によるビデオ通話。  南台公園。  快晴の朝。  広場で太極拳体操。 「イー、アー、サン、スー…」  お年寄りたちは日射しを避けて分散して体操をしているため、なんだか少しばかり窮屈そうな感じに見える。  …世の中的にはこれを『密』と言うんだろうなぁ…  僕は、ぼんやりとそんなことを思った。  僕と真由美さんは、広場を見通せる東屋風の休憩所に居る。 「純さん。これって何?」  僕の隣で覚えたての動画系SNSをいじっている真由美さん。  未知の機能に遭遇する

          楽趣公園(ルーチー・コンユァン)-around FREE-

          楽趣公園(ルーチー・コンユァン)-台北早晨(Taipei Morning)-

           SNS:純太と老板によるビデオ通話。 『淳さん。お茶、ありがとうね』  父の死を知った老板は、僕に香典を送ってきてくれた。そのお返しに日本のお茶を送ったのだが、どうやらそれが届いたらしい。 『いやー。日本のお茶。美味しいね』  僕は東京に隣接した埼玉県下の町に住んでいる。この辺りは都心への通勤圏にあるが日本茶の産地としても知られている。パンデミック以前、この町に住んでいると言うと大抵の人は都心から離れた所に住んでいると言われたものだが、実は意外とそんな遠くでもなく急

          楽趣公園(ルーチー・コンユァン)-台北早晨(Taipei Morning)-

          楽趣公園(ルーチー・コンユァン)-Long Distance-

           SNS:純太と老板によるビデオ通話 『老板。久し振り』  老板(ラオバン)。  台北郊外の猫空(マオコン)にある茶園の主人。  向うでは、店主のことを老板と呼ぶことが多い。  茶園で親しく話しかけてきた時、名前が分からないからそう呼んでいる。  彼にも本名はあり、僕も当然それを知ってはいるが、彼のことをそう呼んでいるうちに馴染んでしまった。 『純さん。元気だったかね?』  老板は僕をいつもそう呼んでいる。  僕は二宮純太。  三十二歳。  ネット稼業の個人事業主3年

          楽趣公園(ルーチー・コンユァン)-Long Distance-