人工知能時代を生き抜く子どもを育てる学校-人間の仕事とAIの仕事-
近年、生成AIの登場によって、私たちの社会はかつてない速度で変化しつつある。以前から人工知能の活用は進められてきたものの、文章や画像を自動生成し、対話までこなす高度なAIが実用化されたことで、その影響は生活のあらゆる場面に及び始めている。SNSの投稿や記事作成をAIに任せるだけでなく、プログラミングの支援や翻訳、データ解析など、これまで専門家の仕事とされていた分野でも、AIが成果物を高速かつ正確に生み出すようになった。こうした技術革新は、仕事の概念そのものを問い直すきっかけを与えている。
一方で、ロボット化やAI化がもたらす雇用構造の激変については、多くの専門家や研究機関が警鐘を鳴らしている。AIやロボットによる自動化が進めば、まずは単純作業や定型業務から人間が排除される可能性が高い。工場や物流倉庫ではすでに、倉庫内ピッキングや荷物の仕分けなどの作業が自走式ロボットに置き換えられ、多くの企業が大幅な人件費の削減に成功している。その典型例がAmazonだ。倉庫での自動化技術を導入し、2022年末から2023年にかけて累計約2万7千人もの従業員を削減し、浮いたコストやリソースをAI関連の新サービス強化に振り向けている。さらに、生成AIが知的作業にも参入し始めたことで、ホワイトカラーの職域でも今後大規模な変化が起こると見られているのも現実だ。
実際、Google(アルファベット)は2023年に1万2千人規模のレイオフを実施し、対話型AI「Bard」をはじめとする生成AIの研究・開発に集中投資する方針を鮮明にした。また、MicrosoftもOpenAIへの巨額投資と同時に1万人の大幅リストラを打ち出し、「AI領域での成長を最優先する」姿勢を示している。ソーシャルメディア大手のMeta(旧Facebook)はAI開発を社内最優先の研究領域に位置づける一方、総勢2万人以上の人員を整理し、組織をスリム化している。さらに老舗IT企業のIBMも、間接部門の業務をAIで大幅に自動化できるとして数千名規模のリストラを進め、今後も非中核部門を中心に削減を検討中だ。
このように、企業や組織はAIを導入することで従来よりも安定したアウトプットと高速な処理を手に入れ、競争力を高めることが可能になる。一方、そうした自動化で余剰となる労働者たちは、新たなスキルを身につけるか、別の仕事に転換を余儀なくされるかもしれない。すでにグローバルIT大手が数千~数万人規模のリストラを敢行し、AI関連部門へのリソース再分配を図っている現状は、「AIシフトによる雇用の置き換え」が決して遠い未来の話ではなく、今まさに目の前で起きている問題だ。こうした動きが世界規模で拡大し、雇用構造がダイナミックに変動する時代を迎える中で、人々は自分の仕事がAIに置き換えられるリスクを、より身近なものとして感じ始めているといえよう。
では、このような時代に人間が「勝ち残る」ためには、何が必要になるのか。大きな鍵となるのは、「人間にしかできない」領域をいかに育み、そこで力を発揮するかという点だ。AIは膨大なデータをもとに確率的な判断や作業を行うが、限界も存在する。たとえば、自ら新しい疑問を見つけ出す「問題発見能力」や、複雑な文脈の中で多様な価値観を踏まえながら意思決定を行う力、他者との共感を通じて関係性を築くコミュニケーション力などは、まだまだ人間の得意分野だ。また、創造性や芸術的感性、倫理的判断といった要素は、単なるデータの分析やパターン認識を超える深みを伴う領域であり、ここにこそ人間の価値が見いだされる。
こうした「人間だからこそ担える」仕事や役割を伸ばすには、教育の在り方が一層重要になる。従来型の知識詰め込み教育や、画一的な学習指導だけでは、AI時代の社会を生き抜く力を十分に育むことは難しい。暗記や定型演習はAIのほうが圧倒的に早く正確にこなせるからだ。むしろ、子どもたちが主体的に考え、創造し、他者と協働するような学習環境を整え、「自分で問いを立てて問題解決に取り組む」姿勢を培うことが欠かせない。具体的には、探究学習やプロジェクト型学習、ディスカッションやリーダーシップ教育などを通じて、子どもたちの思考力・表現力・コミュニケーション力を高めることが急務となる。
さらに、感情面や倫理的な判断が問われる領域でも、人間らしさが発揮されるはずだ。たとえば介護や医療、保育のように、人との触れ合いが大きな意味を持つ仕事では、AIやロボットが活躍する場面が増えても、人間にしか提供できない安心感や温かみが求められるだろう。また、組織運営や交渉ごと、クリエイティブな企画や芸術活動など、人と人との信頼関係の上に成り立つ仕事も、人間ならではの価値を存分に発揮できるフィールドとなる。そうした領域でこそ、新世代の子どもたちが未来を切り開いていくことが期待されるのである。
総じて、生成AIが登場しロボット化が進む社会では、多くの既存の仕事が変質し、あるいは消滅する可能性が高い。しかし同時に、これまで人間が担ってきた仕事の意義を見直し、より高次な能力を伸ばすための新しい学びの場が求められるのも事実だ。知識の暗記や定型作業の習得を超え、創造性や対人スキル、問題発見と解決能力、協働リーダーシップなどをいかに育むか。これこそが、AI時代を生き抜く子どもたちの教育において、最も大切な問いになっている。