感染症疫学小説!『エピデミック』川端裕人著
川端裕人著『エピデミック』が面白かった。
著者本人が「感染症疫学小説」と書いている(『新型コロナからいのちを守れ!』あとがき)。
未知の病気が発生し、疫学調査チームが派遣される。病原は容易に見つからず、感染状況を丁寧に追いかけ、統計的なデータ解析を駆使しながら病原を追い詰めてく、ミステリー仕立てのストーリーである。
そこに、逼迫する医療現場、行動制限による社会や経済への影響を叫ぶ声、感染地域内外での差別意識など、まるで今の状況を見てきたかのような描写がある。その意味では帯にある「予言の書」というのもあながち的外れではない。
執筆に当たって専門家の多大な協力を得たことが、著者の後書きに記されている。
感染症疫学の専門家はまさに、この物語にあるような状況を想定して、研究を行っているのだろう。だからこそ、実際に発生した感染症への対応などが、現実に起こることと似通ってくるのではないか。
この小説はエンターテインメントととして楽しめる上に、読み進める中で、疫学の基本的な考え方が自然と理解できるというおまけがついてきた。
疫学者の視点は明快である。
わたしたちの仕事は、「元栓」をひねって感染源を断つこと
地道な調査とデータの解析から感染源を見いだし、新たな感染の発生を断つ。その「発見」に至る過程は、謎解き・推理小説そのものである。
そして主人公にこう語らせる。
わたしたちにとって、成功とは評価されないこと、なんです。感染を未然に防いだら、誰も病気にならないのですから。
ああ、そうか、これが疫学者の究極の目標、モチベーションなのだ。リスクを未然に評価して摘み取ること。いちばん多くの人を救える領域が疫学と言っても過言ではない。
著者の川端裕人氏は、西浦先生の言葉を記した『新型コロナからいのちを守れ!』を書いている。この『エピデミック』を読むことで、その根本にある疫学の考え方、ロジカルな思考方法をより鮮明にイメージ出来たように思う。
小説の役割、小説でなければ描けないことがあるんだなあ。
先月の水道代が突然はねあがって驚いた。原因はトイレの水漏れだった。「元栓」を閉めたので、今月の水道代は大丈夫だと思う。