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『農家はつらいよ』寺坂祐一
書店で見かけて、手に取ってみたら読まずにいられなかった。買ってきて一気に読み終えた。
読み終えて、まだ少し手が震えている。
本当はもうちょっと時間をおいて「乾いてから」感想を書いた方が良いんだろうけど、今思うことを残しておこう。
読後の率直な感想としては、これを書いてくれて、ありがとうということだ。
北海道の片田舎、水田農家の長男、家族内のトラブル、そして時代。なんだか、生まれた境遇が私と似たところがある。そして、私が歩まなかった道を、私なんかよりもずっと一生懸命に努力して頑張って切り開いてきた、そんな農家さんの生々しい半生である。
この方は、周りからは儲かる農業の見本のような成功者と見られているのだろう。しかし、彼を取り巻く境遇は不条理で、こんなに苦しみながら経営を続けてこられたのだと心が締め付けられた。
悩みとそれを乗り越えてきた課程が詳しく書かれており、ご本人も後書きに記しているが、この内容を公表された勇気に感謝したい。
この方の抱えていた心の問題については、そのままではないけど、私にも身に覚えがある。
一人で抱え込まず、相談をすること。よく聞くフレーズだけど、実際にこういう具体的な事例を知ることができるのは、非常に大事で有効なことだと思う。
後半は、心理面のカウンセリングが著述のかなりの部分を占める。これが経営面においても重要なポイントになっていることは、目からウロコだった。
そして、この著者は、たとえ一時的にいやな思いをしても、周りのすべてのことに意義を与え、感謝の気持ちを持っている。それが、読後感の良さにつながっている。経営者としてもいちばん大事なことなのだろう。
なぜ、読みながら、手が震えたのか。
著者のいくつかの境遇に通じる「いじめ」の構造が、自分でも気付いていなかった心のかさぶた、「自分さえ我慢すれば」と耐えた経験に触れていたようだ。
あぁ、読んですぐに感想を書くと湿っぽいなぁ。
周囲で起こる不条理な出来事に心がえぐられた。経営の話には高ぶりと応援の感情をもった。近い世代で頑張ってこられた方への、尊敬とあこがれと、もしかしたらちょっとの嫉妬も含まれているかもしれない。
私は、家業の農家を継がず、別の道に進んだ。農家を継いでいたとしても、この方のような経営はおそらくできていないだろう。
すごい本を読ませてもらった。
私は、私のいるところで、できることを頑張ろう。
そして、これを読みながら思い浮かべた本も記録しておく。
人間関係、家族の悩み、たどり着くところは似ているのかもしれない。