ワークショップの私的記録
幡野広志さんの写真ワークショップに参加した。
いままで、カメラを持つことや写真を撮ることについて、恥ずかしさや引け目のような感覚があった。それが、この1日のおかげで、ちゃんと好きになれそうだ。これがいちばんの収穫だし、嬉しい。
なにより、贅沢な時間だった。ワークショップと同じ時間帯に神保町ブックフェスがあるなんて知らなかったけどまったく悔しくない。
とにかく印象的だった言葉は、「見たままを、撮る」「まず撮る」「たくさん撮る」。事例をあげながら何度もおっしゃっていた。おそらく、近く出版される著書でも中心的なメッセージになっているのだろう。
ずいぶん前に読んだ『リンゴは赤じゃない』を思い出していた。ある美術教師の取り組みを紹介した本で、リンゴの絵を真っ赤に塗るのは見たままを描いているのではないのだと教える、その内容にハッとさせられた記憶がよみがえった。
うまく説明できないけど、たくさん撮ることは、作為的にならないことと、同義なんだろうと思った。瞬間を操作することは出来ないし、する必要はないのだ。
そして「『これから撮ります』と構えない」「好きなものを好きな気持ちのまま撮る」。
この間の引越しの際に20数年前の自分の写真が出てきた。見るに堪えなかった。どうして普通の姿がないのかと。当時、カメラを向けられると必ずふざけた顔をしていたことを思いだし、その痛々しさに苦しくなった。撮られることへの過剰な自意識が、写真を撮ろうと構えるときの苦手意識に直結しているのかもしれないと、座学を聞きながら感じていた。
関係性が写真にあらわれる、という意味がようやく腑に落ちた気がした。
座学のあとは、実際に外に出て、自分のカメラでの撮影実習である。
晴れていて良かった。日頃の行いだろう。ただ、はじめての街並に、なんとなく撮り始めたが、何を撮ってよいのかすぐにわからなくなった。
ならばこんな感じのことを撮ろうと、なんとなくテーマを持ってみた。テーマの中身は恥ずかしいので言わないが、悪くないんじゃないかと思った。そうして撮ってみたが、ちょっとつまらなくなった。別になんらかの作品を作りたいわけではないのだ。
残り時間が15分くらいになってちょっと焦り気味なころ、ただ単に面白いと思う風景に出会った。こういう感覚かもとちょっと気づけた。
ワークショップの終盤は現像である。
幡野さんが、ご自身でPCを操作しながら、大量の写真からどのように選択し現像していくのか、その際のソフトウエアの使い方を間近で直接みせていただいた。初心者向けの基本的な操作方法だと思うが、これがすごく贅沢な時間だった。ものすごく贅沢だった。いまも思い起こしながら感激している。
もし、これから参加される方にアドバイスするとすれば、ソフトウエアは事前に使ってみた方が良いです(参加者には事前にお知らせがあります)。画像の読み込み、自動補正、書き出しくらいでいいですから。
私も事前に使ってみたところ、パラメーターや機能が多くてどうして良いかわからなかったが、しかし「自動補正」だけでもずいぶんキレイになると気づき、これは素晴らしいと思った。「現像が大事」と聞いてカメラメーカーの自社ソフトを使ってみたことはあるけれど、全然違うの。
事前学習はそれくらいで良いと思う。ソフトウエアは道具なので、ちょっとでも慣れておくと、現場での緊張感や戸惑いが少なくて済む。
その上で、幡野さんの操作を実際に間近で伺い、そこはこう使うのか、そういう判断をするのか、そんな便利な使い方が出来るのか、大事なポイントはそこなのか、と納得度がすごく高かった。
「選ぶときは客観的にみる」「撮った人の事情は関係ない」の言葉に、またハッとさせられた。自分から外に出たものを、いかに主観を排除してみられるか。古賀史健さんや、田中泰延さん、その他諸々の敬愛する方々が書かれていることと、同じだと思った。写真も、文章も、あらゆる仕事も、物ごとの本質はいつも同じなのかもしれない。
自身の撮った写真から3枚を選び、現像して提出までが、ワークショップの最終課題である。
自分で写真を選定していて面白かったことがある。ほとんどは自然物や建物なのに、提出した3枚のうち2枚は人が映っていた。いま、見返しながら3枚とも人物が良かったかもと思っている。
人を撮ることに苦手意識があるのに、少しでも人が写っている写真のほうが、好きなんだと、自分の性質に気づけたかもしれない。
なお、ヘタにテーマを考えた写真は全てつまらなかった。
提出課題はあくまで客観的に選んだ(つもり)。主観的なイチバンは、実はこっちだったりする。
このワークショップは、素晴らしいです。初心者だからと物おじしなくて良いと思います。怖くないです。写真が好きになれます。
あとですね。前日、落語会に伺った影響かもしれないけど、ワークショップは、ライブでした。
決して一方的な「教示」ではなく、その場での双方向での「会話」がありました。書籍やWeb記事などで触れていたはずの言葉が、とても実感と現実味をもって沁みてきた感じがあります。やはり、「会って、話すこと。」は、良い。
同じ時間帯に神保町ブックフェスがあるなんて知らなかったけどひとつも悔しくない。心からそう思ってます。
言い忘れてました、ご飯がおいしかったです。正直に言うと、ご飯が楽しみで参加したところがあります。
幡野さん、小池さん、名前を存じなくてごめんなさいお兄さん、ありがとうございました。たくさん撮ります。