浅生鴨さんが他誌に寄稿している短編がこれまた良いのであるということを言いたい
札幌の書店で展開されている浅生鴨さんのフェアが嬉しくて、これまで刊行された浅生鴨さんの単著や編集・出版した本を列記してみたところである。だがしかし、浅生鴨さんが他誌に寄稿している短編小説がこれまた実に良いということを、ただただ言っておきたい。
1.エビくん(「文学2014」収録)
記念すべき小説デビュー作。入手しにくい状態だけど、これスゴく良いです。
どこか懐かしい記憶のようでいて、でも絶対そんなことはない。驚きと笑いを誘いながらも、ココロの奥に追いやっていた痛みを疼かせる。私の中のベストオブ浅生鴨の5本の指に入る、いや、あれも、あとあれも良いので、すみませんが両手両足使っても良いですか。
この本は絶版状態なので、図書館で探すか、古書を探すしかない。再版を熱望する!
2.ワン・ステップ・ビヨンド(「文藝」2015年春季号収録)
静かに心に響く祈りの物語。ここに余計な言葉を加えてしまってはいけないなあと思う。
こちらも現在入手困難なので、図書館を利用した。これも何かの形で再掲されることを強く願っている。
新刊『すべては一度きり』の一遍「踏んではならなかった」で、登場人物の台詞に「ワン・ステップ・ビヨンド」が出てきて、ひとりニヤッとしたファン心理。
3.「イマムラ」(同人誌「ブンガクフリマ28ヨウ」収録)
文学フリマ用に作成された同人誌で、現在はネコノス扱いだけど印刷物での販売はなく、Kindleでのみ入手可能。※編集人は末吉宏臣さんとなっていたので、先の記事からこちらに移した。
私たちがいつしか忘れてしまった幼いころの発想や感情を丁寧に描いてくれるのが、浅生鴨さんの小説の魅力のひとつだと思う。大人からみるとたわいのないことでも、子どものなかではそれが世界のすべてだったりする。そういうことが自分にもあった気がするし、思い出せそうで結局ひとつも思い出せないのだけれど。
この短編、好きだ。
4.日記(左右社「仕事本」収録)
緊急事態宣言が発出されたあとの、様々な職業に従事する人たちの日記や体験談アンソロジー集。後から振り返るのではなく、そのときの出来事や感情が記されており、貴重な記録になるだろうと思う。このなかで、浅生鴨さんは「日記」を寄稿している。
出版当時のイベントで浅生鴨さんは、いつも実際につけている日記をそのまま寄稿したと語っていた。作家さんはここまでしっかり書くのかと、文芸の道に生きる人は何気ない文章でも文学になるのだと驚いた。私も日記未満の簡単なことをメモしているが、晩ご飯を書いていることだけは共通していて少し嬉しかった。
5.壁の向こうで(講談社「Story for you」収録)
浅生鴨さんの作は、児童文学として平易でサラッと読める短い物語であるが、しっかり心をつかまれる。「ぼくらは嘘でつながっている。」にもつながる、大きなテーマが横たわっている。知らんけど。
6.半月(本屋lighthouse 「灯台より Vol.2 ふく」収録)
小説の役割として、ドキュメンタリーでは残せないような、その時々の市井の感情を切り取っておくということがあると思う。この短編もそのひとつなのかも、と書きながらそんなことはどうでもいいとも思う。単純に、不条理でバカバカしい喜劇を楽しめばいい。
とても変で、すごく好き。ある意味、真のカウボーイ小説である。
7.チロ(双子のライオン堂「しししし3」収録)
序盤を過ぎたあたりで驚かされ、その奇妙さはそのままに、最後まで押し切られる清々しさ。そうだ、これが浅生鴨さんの真骨頂だ。
この物語には感動したとの声がたくさんツイートされていた。ただ、私の率直な感想は、何を読まされたのかよくわからない、だった。このきつねにつままれたような置いてきぼり感、実はけっこう好き。
後に、そういう感情はありなのではと感じる体験があったので、なんでもきつねのせいにするのは良くないと反省。それにしても、きつねって、つまむのだろうか。なにを、どうやって。
あ、「チロ」にきつねは出てきません。
13.穴(PLANETS/第二次惑星開発委員会「モノノメ」収録)
ここではないどこかの、だけどこの世界に良くありそうな工場の日常。変化のない日々のはずが、少しの違和感から次第にてんやわんやとなっていき、わけのわからない世界に読者が放り投げられる。何じゃこりゃと思いながらも、話にひきこまれ、なんらかのメッセージがこころに残る。
すごく変な話なんだけど、こころに残る。言葉にするって難しいな。
私の言葉よりも、雑誌編者の紹介文をどうぞ。
14.あずき二号(双子のライオン堂「しししし4」収録)
傑作。何を書いてもネタバレになりそうなのでツラい。パロディに風刺、いろんな意味でバカバカしくて、大好き。ニヤニヤが止まらない。
他に何かあっただろうか。思い出したら追記しよう。
そうです。私は、雑誌でもアンソロジー集でも、「浅生鴨」の名前を見つけると必ず買い求めるチョロいヤツです。
であるからよ。こういう必ず買うヤツが、ちむどんどんするわけよ。
新潮社さん、河出書房新社さん、浅生鴨さんの短編を再版してちょうだいよ。お願いします!