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あなたが見つめていたから
木皿泉著『昨夜のカレー、明日のパン』。
「#読書の秋2020」課題図書にこの本があったのは知っていた。ふと立ち寄った書店の文庫コーナーで仲里依紗さんの帯がキラキラ光ってみえた。未読本は山ほど家にあるのに、仲里依紗さんがこちらを見つめていたのだから致し方ない。
奥付を見ると2016年の11刷なので、もしかしたら最近の増刷分は仲里依紗さんの帯ではないかもしれない。これが田舎のメリットだ。どうだ、田舎がうらやましいだろう。
ん? 2016年1月20日初版で、2016年2月10日11刷!? 20日程度で11刷ってどういうことですか。そんなに話題になっていたのですか。全く知らなかった。
「喪失と再生」といえば陳腐に聞こえるかもしれないが、あまり深く考えずに読んで楽しめる。話の底にはツラい出来事があるものの、深刻な描写は避けられ、優しい文体と軽やかな味付けで心地よく読める。
いろいろ書こうかと思ったが、巻末にある重松清氏の解説が素晴らしかった。もうそれでじゅうぶん、私ごときの感想はいらない気がする。
でもちょっとだけ言いたい。
題名にあるカレーもパンも、生活の中でありふれた食事である。ありふれた日常が毎日過ぎていくけれども、生活はずっと同じというわけには行かない。変わりたくない気持ちといかに折り合いをつけるかが人生なのかもしれない。
「人は変わってゆくんだよ。それは、とても過酷なことだと思う。でもね、でも同時に、そのことだけが人を救ってくれるのよ」
そして、いつも当たり前に感じている食べ物が、折り合いのつかない心をほぐしてくれることがある。特に、暖かい食べものやそこから立ち上る香りは、身体だけではなくこころもホッとさせてくれる。身体とこころはつながっているんだなということは、実生活でも感じるところだ。
たった2斤のパンは、生きた猫を抱いたときのように温かく、二人はかわりばんこにパンを抱いて帰った。
ただし、食べ過ぎは良くない。
ストレッチをしているようだ。たぶん、ホットケーキを食べ過ぎた罪悪感だろう。
文体は平易で柔らかく読みやすい。登場人物の心のモヤモヤに言葉が与えられる瞬間や、章が変わり別の視点で人物や言葉が描かれることに気づくのも、楽しい。
本屋大賞2位は伊達じゃなかった。言葉が粋で、ちょっとホロッときて読後感の良い本でした。
それにしても、販売促進のため芸能人を帯に使うとはなんと姑息なのか。今まではそんな風にうがって見ることが多かったが、今回ばかりはありがとうございました。良き出会いでありました。
ますます仲里依紗さんから目が離せません。
つまり、そういうことです。