楽しみは
『今日もだ…』
今日こそ早起きして寝顔をおがんでやろうと思ってたのに…。
彼を起こしてしまっては元も子もないから目覚ましを切っておいた時計の短針は5を刺している。
「おはよう、よく眠れたかい?」
「おはよ」
素っ気なく返す朝の挨拶。
「どうしたんだい?
朝からご機嫌ナナメだね」
「な〜んでもなわよっ」
そう言って私はもう一度まだ暖かい布団を頭から被って二度寝の体勢に入った。
時計の短針は8を指している。
まだしょぼつく目を擦りながら朝ごはんを食べる私の意識は、向かいに座るやたらと顔の良い男に向いていた。
『そういえばもう付き合って3ヶ月くらいになるけど、私コイツが寝てるのって見たことないよな。
夜私が寝るまで起きてるし、朝も私より早く起きてる、コイツ本当に寝てんの?』
その本人はと言うと、眠気など微塵も感じないといった顔で味噌汁に手をつけている。
『こんな姿でも絵になるわね…
と、そうじゃなくて』
「ねぇ、アンタ本当に寝てんの?」
疑問に思ったらまずは聞いてみることだ。
彼はゆっくりとおわんを下げ、スっと目を細めるいつもの微笑を浮かべつつ私の目を覗き込む。
「どういうこと?」
「どういうこと?じゃないの。
アンタ全然寝てないんじゃない?夜遅いし朝は早いし」
「それがどうかしたのかい?僕はいわゆるショートスリーパーってやつだからね。普通の人ほど眠らなくても眠くならないんだ。」
「あっそ」
「やっぱりご機嫌ナナメじゃないか」
「そーね、誰かさんのせいでね」
彼はさっぱり理由が分からないようで「なんかしたかな〜」と呟きながらひとしきり考えていた様子だったが、たいした考えは浮かばなかったんだろう。また箸を動かし始めた。
『ま、いいわ。そのうち見れるでしょ。
楽しみは待てば待つほど楽しくなるんだから。』
私はそう心の中で呟いて、最後に食べるためにとっておいた卵焼きを口に放り込んだ。
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