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カナダの原生林を破壊する木質バイオマス発電!? 見せかけのエコより本質的な体制変革を

ウータン・森と生活を考える会 事務局長 石崎雄一郎

5月にカナダのブリティッシュ・コロンビア州から、著書「マザー・ツリー」がベストセラーとなった森林生態学者スザンヌ・シマード氏と、独立系生態学者のレイチェル・ホルト氏が来日した。日本の木質バイオマス発電が、カナダの原生林を破壊していることに警鐘を鳴らすためだ。
 日本で再生可能エネルギーと位置付けられている木質バイオマス発電は、近年急速に拡大している。その燃料には日本の森林資源が使われていると思われるかもしれない。だが実際には、大規模な発電所で燃料として使われる木質ペレットはベトナムやカナダやアメリカから、PKS(アブラヤシ殻)はインドネシアやマレーシアから輸入している。
 輸入先の一つカナダのブリティッシュ・コロンビア州(BC州)では、毎年、東京都と同規模の20万ヘクタールもの森林が、商業用に伐採されている。日本の2・5倍の面積があるBC州には、いまなお広大な森林が広がっているとはいえ、急速な開発により生態系が撹乱され、クマやトナカイなど希少な野生動物が住処を失っている。 
 カナダの業界団体は、建築用など商業用に伐採された製材残材を、木質ペレットに利用していると主張するが、結局のところ貴重な原生林/老齢林からきているのである。木質ペレットの需要が高まれば、開発圧力が高くなり、さらなる自然破壊が起こることは明白である。再生可能エネルギーという名で原生林を破壊するなど、本末転倒で恐ろしいことだ。

カーボンニュートラルは全くの嘘
自然から学ぶ謙虚な姿勢を


 「気候変動のためにバイオマス発電も増やさないといけないのではないか」という意見が聞かれるが、全くの間違いだ。燃料を燃やしてタービンを回す発電方法は、化石燃料と変わらないのだが、発電時の温室効果ガス排出量はなんと石炭火力よりも多い。木は成長過程で二酸化炭素を吸収すると主張されるかもしれないが、燃焼で排出した分を吸収するには、少なくとも数十年から数百年はかかる。流行りの「カーボン・ニュートラル」というのは全くの嘘なのだ。
 考えてみれば、電気のために木を燃やすなんて、ナンセンス極まりない。典型的なグリーン・ウォッシュであり、本質的な理解抜きに経済的利益だけを追求しようとする現代の日本社会の歪みを映し出している。まさに木を見て森を見ずといった小手先の対策だ。今求められているのは、見せかけのエコではなく、地球を急速に破壊する人間社会のシステムそのものを見直すことである。
 スザンヌ・シマード氏の「マザー・ツリー」では、木々の根に棲息する菌根菌がネットワークを作り、木々と菌類が生きるためのコミュニケーションをとっているという。この世界的な発見は、ジェームズ・キャメロン監督の映画「アバター」に影響を与えたほどだ。
 自然界には、現代の私たちにもまだまだ知られていないことが多い。特に森林は、実に多様で、生きるための知恵が詰まっている。気候変動の解決のためにも、生物多様性のためにも、あるがままの森林を残すことが結局は最善の方法だ。
 私たちに必要なのは、自然への敬意を持って、自然から学ぶ姿勢を持つことではないだろうか。

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