連載①【維新独裁政治に抗う教育現場】全盲児受け入れで変わったC小学校。
編集部 河住 和美
ーー視覚障がいがあっても地域で学びたい
大阪市西部にあるC小学校の朝は子どもたちの元気なあいさつで始まる。 「○○です。Uちゃんおはよう!」。子どもたちは、自分の名前を言ってからUちゃんに挨拶する。視覚障がいがあるUちゃんが、誰に挨拶されたかわかるようにするためだ。
教室の廊下には黄色い中央線が引かれ、階段の手すりには点字がついている。学校側がUちゃんが使う場所をバリアフリー化するよう大阪市教育委員会に粘り強く要望し、改装されたものだ。
6年生のUちゃんは先天性小眼球症のため光を感じる程度。左目で黄色を識別できるだけだ。それでも献身的な教師集団と人懐っこい友達に恵まれ、伸び伸び学校生活を送ってきた。
彼女の母親(46)が相談に来たのは、入学2年前の2014年。「姉も通うこの学校で学ばせたいが、支援学校を勧める知人もいる」と告げた。
日本の障がい児教育は戦後、障がい別に盲・ろう・養護学校(2007年度から特別支援学校)への進学が定められた。「原則として特別支援学校」だった就学方針も、13年度以降は市町村教委の判断になり、大阪市では地域の小中学校で学ぶのが基本だ。本人・保護者の意向が最大限尊重されるが、全盲の彼女のハードルは高い。
C小は児童数約300人。1学年2クラスで支援学級もある。Uちゃんと一緒に支援学級に見学に行行った母親は、のんびりした雰囲気を感じたという。健常児のクラスとも交流でき、授業も一緒に受けられる。一方支援学校では、1年生から点字学習があり、視覚障がい者の生活に必要な訓練をきちんと教われる。だが、地域との関わりは薄くなり、視覚障がい者だけの狭いネットワークに閉じこもりがちになる。姉の通う学校なら安心だが、Uちゃんにとって本当にいいのかはわからない。母親は悩んだ末、15年秋に入学希望を伝えた。
ーー支えあう学校作り呼びかけ 変わる子どもたち
母親からの入学希望を受け、先生全員でアイマスク体験や研修を行い、支援学級担当の2人は点字教室で教材の作り方を覚えた。母子は春休みに教室やトイレの場所を確認。入学式では校長が全校児童に紹介、皆で支え合う学校作りを呼びかけた。
最初は戸惑っていた子どもたちも多く、「Uちゃん、メガネかけたら目が治るん?」と聞いてきた子もいた。Uちゃんが1年の時の担任のO先生はその都度、Uちゃんの目は治らないことや、Uちゃんができることは手伝わないよう伝えた。
ある日の掃除時間、どの机を運ぶかわからないUちゃんに「こっちやで」と声をかけた子がいた。だがUちゃんは「こっち」がどれなのかわからなかった。机を叩き、教えると、Uちゃんは理解した。
授業は試行錯誤の連続だった。負けず嫌いのUちゃんが「みんなと同じにひらがなを」と意気込む一方で、点字の習得も必須。授業中は、入学以来彼女を見てきたK先生(退職)らが付いて説明し、放課後も点字学習が続いた。秋には点字で50音を読めるようになった。
体育の授業では、運動会に向けてダンスの練習があった。教師がUちゃんの手を持って一緒に踊り、動きを伝えていった。家でも母親と練習を重ねた。当日は近くにいる子が声掛けしたり手をつないで移動した。
徒競走では黄色い中央線を目印にひとりで走りきり、大きな拍手で迎えられた。
ーー維新が削った教育予算
当初期待していた視覚支援学校の支援はほとんど受けられなかった。地域の支援学級に巡回指導が来るはずだったが、人員不足で空振り。彼女が同校を訪れて学ぶ機会も年数回にとどまった。
それでも入学の半年後、全盲児童の支援経験を持つY先生が着任し、彼女はさらに力をつけた。遠足や校外実習も皆と一緒に参加。休み時間にはジャングルジムにも登る。K先生は、「子どもたちに助けられました。本当は行政がもっと障がい児への支援をすべきだと思います」と振り返った。
5年生になったUちゃんは、白杖を使って一人で移動する練習を始めた。最初は校内の廊下を歩くことから始め、範囲を広げていった。
6年になった今、学校から幹線道路に出るまでの直線距離を1人で歩き、母親や姉と合流して帰宅するのが、習慣になった。
障がい児が地域の学校で学ぶことは、周囲の健常児の学びにもなる。違いを認め、いたわり合う心を学ぶからだ。
市教委によれば、15年に地域の小学校に在籍する障がい児は4408人、20年には7644人と倍増した。しかし、彼(女)らのための教育予算は増えていない。学校側が必死でやりくりする一方で、万博や都構想にどれほどの税金が費やされたのか? 子どもたちの学ぶ権利を後回しにして進む「改革」の未来が明るいとは思えない。
写真:視覚支援で学ぶ子供たち
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