ネオリベ経済、民主党の失敗を経て、参加型社会主義・連帯経済へ

【第9回論説委員会】若者が左傾化する背景に貧困化 
欧米で旋風起こす「社会主義」的草の根運動
1672号, 2019年2月10日,編集長 山田洋一

 第9回論説委員会は、「左傾化する欧米の若者」をテーマとして、急激に支持を集める欧米急進左翼の経済政策の特徴なども議論した。新自由主義グローバリズムは、国境を越えて階級格差と貧困を生み出し、特にそのしわ寄せを食らっているのが若年層だ。競争にさらされまともな仕事に就けず、不安定な非正規労働を強いられている。

 民営化で公共的社会資源が略奪され、規制緩和によって労働者保護法は切り縮められている。これに対し、参加型社会主義・連帯経済に希望を見いだす若者が欧米で増え続けている。

 米世論調査機関ギャラップ社は、昨年8月の調査結果として、18~29歳の若者のうち、「資本主義が好ましい」=45%に対し、「社会主義が好ましい」が51%にのぼっている、と発表した。民主党支持者の中では、57%が社会主義を肯定、否定=47%を上回った。

 米国全体でも、資本主義を支持する市民は56%いるが、37%が社会主義を支持しているという。東西冷戦期を経て「共産主義=悪」との価値観が広く浸透してきた米国で、この調査結果は大きな変化であり、驚きをもって注目されている。

 こうした変化について、急進的経済学者でジャワハラール・ネルー大学のジョヨッティ・ゴーシュ教授は、「世界中でネオリベラル経済モデルは民衆の支持を失っている」としたうえで、「世論が抗議者の正当な要求に共感を寄せるようになっている傾向が見える」と語っている。

 前回の米大統領選挙で旋風を巻き起こしたサンダース現象は、選挙後も若者の草の根運動として発展し、左派伸張の基盤となっている。「共和・民主両党が大きく右傾化し、とりわけ共和党が議会制民主主義の枠を破壊している現状の中では、サンダースの控えめな提案は、革命的に見える」(チョムスキー)ようだ。

 米国の若者が左傾化する背景としては、(1)不安定雇用の拡大と賃金の停滞、(2)医療費負担の上昇・学生ローンの急増、などが指摘されている。学生ローン(日本では「奨学金」と呼ばれる)は、2018年4月~6月(第2四半期)末で1兆5000ドル(約169兆円)にのぼり、11年間で157%増加。7割が借金を抱え、不払いが40%にのぼる。医療費負担も、年間1万ドルと高額化(日本の2倍以上)しており、生活を直撃している。

 資本主義の矛盾が若者にしわ寄せされ、より直接的な政治参画へと立ち上がりはじめた若者が、社会主義への関心と親和性を深めているのである。

民主党や中道左派の失敗

 1982年に設立された「米国民主的社会主義者(DSA)」は、全米最大の社会主義者による非営利団体だ。同組織は、生産と資源の「大衆的管理に基づく人間的な社会秩序」を目指すとしている。各地の大学・高校で若者支部を展開するほか、マルクスなどの思想を学ぶ夜間、夏季の社会主義者学校も開催している(「赤旗」)という。

 こうした左派運動伸張の背景には、「献金を受ける政治家が特定企業を優遇するえこひいき資本主義への批判」(CNBCテレビ)とともに、中道左派政権(米民主党)の失敗もその一因だ。

 中道左派は、1990年代以降、欧米で政権を獲得したが、新自由主義的政策を推進し、雇用喪失・不安定化、年金・福祉などの社会的給付予算を削減、地域社会荒廃などが進み、現在の苦境を招いた。

 社会民主主義勢力が資本の略奪から民衆を守らなかったために、労働者階級は左派リベラルの基盤であることをやめ、現在では、トランプを象徴とする自国主義・排外主義へと流れ始めているように見える。

 これに対し、サンダース候補の選挙運動を担った若者のなかから、人種差別や白人至上主義に対する闘いである「ブラック・ライヴズ・マター運動」、先住民と共同しながら環境保護運動や地球と生物の存在論的危機を回避する闘い、あるいは、正当な賃金と労働条件を伴う完全雇用の実現、労働者の交渉力強化と労働者保護の有効化、規制を求める闘い、最賃15ドル運動、などが生まれている。

 他にも、グリーン経済への移行(再生可能でクリーンで効率がよいエネルギー・システムへの大規模投資、農業生産過程も同様の変革を行うこと)、すべての金融取引に販売税を課す金融市場規制などが主張されている。

参加型社会主義の諸運動の連携に希望を見いだす若者

 欧米左翼に共通する政策と基本的考え方は、(1)財政支出を拡大して、社会サービスの充実と景気刺激・雇用拡大を行う、(2)財源は、大企業や富裕層から取る、というものだ。B・サンダース元大統領候補は、「5年間で1兆ドルの公共投資」を公約し、大学の無償化も訴えた。

 マルクス主義研究者=クリス・ライトは、「21世紀型マルクス主義─『新経済』の革命的可能性」と題して、「参加、公平、成長、持続可能、安定という5特徴を備えた経済モデル」を提唱している。

 「進歩的な社会・経済プログラムで一番大切なことは、きちんとした賃金と労働条件を伴う完全雇用の実現である。雇用は人々の安定感、自尊心、健康、安全、家族扶養能力、地域社会参加の機会と意欲にとっても重要な要因」と語っている。

 「参加型社会革命」は、広範にわたる問題意識、考え方、目的を持つ大衆諸運動が共通の利害に結びついた諸運動の連携である。「人々の連帯を発展させ、平等を促進し、参加を最大にし、多様性を尊重し、完全な民主主義を奨励するような世界を建設するために闘う」としている。

 新自由主義グローバリズムは、国境を越えて階級格差と貧困を生み出した。民営化で公共的社会資源が略奪され、規制緩和によって労働者保護法は無力化されている。これに対し、参加型社会主義・連帯経済に希望を見いだす若者が欧米で増え続けているのは充分理解できる。

 日本の若年層は、低賃金の不安定労働を強いられ、同様の状況に置かれているにもかかわらず、競争原理と自己責任論に翻弄され、反抗には至っていない。マグマが貯まり続ける状況だが、いつ地表に現れても不思議ではない。

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