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日本の農業をこじ開ける農業マフィア、「国連食料サミット」の正体。アグリビジネスの向かう先とは。

編集部 脇浜義明

 9月14日に、「世界全体の農家支援策のうち87%は価格を歪めたり環境に悪影響を与えるもの、と国連が日本などを名指して非難した」というニュースが流れた。加藤官房長官は訳の分からない弁明をし、メディアは「日本は難しい対応を迫られる」とコメントした。 
 これは、9月23~25日にオンラインで開催された「国連食料システムサミット」の議論のたたき台として提起されたものだ。具体的には、輸入関税や補助金などを「有害な支援」としたものだ。
 しかし、「国連サミット」というが、決して政府間パネルではない。アグリビジネスと大手テクノロジー企業やビル・ゲイツ財団などの世界経済フォーラムが牛耳るサミットで、零細農民や漁民やビア・カンペシーナ(農民の道)らはボイコットを呼びかけている。
 かつて「緑の革命」(※注)と称して、高収益品種の導入や化学肥料の大量輸入などで穀物の生産性向上・大量生産を図り、環境と生態系の破壊を招いたことがあった。サミットはそれと同様に、資本主義的農業によるさらなる食の支配を狙っている。
 アグリビジネスは、種子や殺虫剤開発の大企業による独占、ターミネーター種子(繁殖不能種子)開発、遺伝子操作農業などで、世界の農地と資源と水などの75%を独占している。だが世界人口の20~30%にしか食を供給せず、環境と生態系を破壊し続けている。
 実際に世界の食の70%を供給しているのは、小規模農家・漁民たちだ。しかもモノカルチャーのアグリビジネスと異なり、彼らは多様で生態系に調和した作物を提供している。
 アグリビジネスはその現実を覆して、世界の食システムを支配し、大手テクノロジー企業のデジタル技術で一元管理する体制を作りたいのだ。そのためにビジネス寄りのダミーの市民団体などを交えたチームをでっち上げて、国連の名を借りてグローバル支配に乗り出す場がサミットだ。
 ゲイツ財団などが音頭をとりWHOを使って行った「Covax」が、「新型コロナのワクチンを共同購入して途上国などに分配する国際的な枠組み」という建前で、実際にはワクチンを一部企業や国家が囲い込んだことと似ている。
 だから冒頭で紹介した国連の「農家支援非難」は、環境破壊問題とは関係ない。WTOや世界経済フォーラムが推し進めるネオリベラル的自由貿易の立場からの、「保護主義」批判だ。
 これは食料供給システムの支配だけではない。コロナ・ワクチンが税金の投入で開発されたにもかかわらず製薬会社の私的財産になったように、食料システムサミットは国際的な公的農業研究機関、たとえば国連農業研究協議グループ(GIAR)をアグリビジネスに奉仕する小間使いにしようとしている。

ーー食料システム変革の主体は土地なし農民・先住民・女性

 サミットに異論を唱えているのは、市民社会だけではない。国連内部からも反対の声がある。元国連経済社会局副次官補のジョモ・K・Sは、「巨大アグリビジネスは、『食糧、生態系、気候の危機に太刀打ちできるのは優秀な新テクノロジーで、それを使えるのは、資金があり進取の起業家精神とイノベーション力のある我々だけだ』と主張する。だが実際には失敗し、利益追求の過程でますます危機を大きくした。大企業による食糧システム支配が強まり、危機はますます深刻になる」と述べている。極貧と人権に関する国連特別報告者や持続可能な食糧システムに関する専門家パネルも、サミットを批判している。
 サミットに反対する人々は、サミットのボイコットだけでなく、オンライン及び対人集会で、彼ら民衆による世界サミット「真の正当な人民サミット」(GPS)を開いている。国連サミットを、「ビル・ゲイツや他の資本主義支配下の機関に与えられた役割」を遂行し、「栄養失調と生態学的劣化を引き起こすグローバル企業が、国連を支配する」と批判。さらに、「飢えた土地のない農民、農業労働者、先住民、農村女性、若者、占領地に暮らす農村人、米国などの帝国主義の制裁を受けている国の人々を、食糧システムの変革の主体にすべきだ」と主張している。
   (編集部・脇浜義明)
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▼注「緑の革命」…1940年代から60年代にかけて、高収量品種の導入や化学肥料の大量投入などによって、水稲・小麦などの穀物の大量増産を達成した。ロックフェラー財団は、各種研究機関に資金を提供し、「革命」を主導した。一方、化学肥料や農薬などの化学工業製品なしには農業が維持できなくなり、人体や環境への悪影響が問われた。

写真:ローマの国連食糧農業機関本部の前で、「システムプレサミット」への抗議を行うローマ─アジアの移民農業労働者、イタリアの労働グループ(昨年7月)

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