ビル・ゲイツ陰謀論を盲信する人へ
「ビル・ゲイツの陰謀論」は都市伝説やオカルトが好きな人は一度は聞いたことがあると思う。ネットで探せばすぐに見つかるので、詳細な説明は省く。
この陰謀論が囁かれるようになったきっかけは、2010年のTEDトークへの出演。ゲイツ氏はここで世界人口を抑制する必要性と、その具体案として、人口爆発が顕著な発展途上国でワクチン接種によって乳幼児死亡率を下げる事を挙げた。
直感的には乳幼児死亡率が下がると人口爆発はさらに加速しそうに思えるが、実際にはその逆で、人口は減る事が統計学的にわかっている。
ゲイツ氏の発言もこの客観的事実に基づくものだ。
乱開発や自然破壊、地球温暖化、食糧危機、難民・移民問題など、いま人類が抱える多くの問題は世界人口が多すぎる事に起因していると言っても過言ではない。
ゲイツ氏が見ている未来
ゲイツ氏のような有名人が人口抑制の必要性を口に出す事は、かなり勇気がいることだったに違いない。人口削減という言葉だけが一人歩きし、それを平和を脅かす悪のイメージと短絡的に結びつけてしまう人が多数いることは容易に推測できるからだ。
言葉は波と同じように、発信源から離れるほど減衰する特性がある。つまりシグナル・ノイズ比が悪化する。ここで言う減衰とは、曲解、誤解、翻訳の問題、恣意的解釈、発言の一部切り取り、誤った伝聞、時代の変化に伴う言葉の意味自体の変容などが挙げられる。
過去の賢者は皆、言葉という道具の功罪を理解していた。
ブッダは教えを決して文字として後世に残さないよう弟子に言い、イザヤはヤハウェが災いと化すことを予言した。キリストは「キリスト教」の出現を予言し、先回りしてそれを批判した。
ゲイツ氏ほど聡明な人なら、やはり言葉の功罪を踏まえて、自らの発言の一部が切り取られ、攻撃される事も予想がついていたに違いない。それでもあえて口に出した。誰かが言わなければいけなかったからだ。
水面下で世界人口抑制のための活動を行うだけではもう追いつかないほど、世界の人口増加のグラフは破滅的な曲線を描いている。このまま行けば、いつかの時点で臨界点を越えてシャボン玉が弾けるように、人類がかつて経験したことのない破局が訪れる。
発言影響力のある誰かが「人間は数を減らした方がいい」とはっきりと口に出し、人類全体の意識のベクトルそのものを変える必要があった。
人類の意識のベクトルさえ変われば、現実は後から自然に付いてくる。
インフルエンサーとしてその事を最初に口にしたゲイツ氏は、大変なバッシングを受けることも目に見えていた。発言の一部が切り取られ、曲解されて悪の権化のように恨まれ、最悪の場合、殺されてしまう可能性も十分ある。
しかしその恐怖に屈することなく、自ら率先してその危険な役を買って出た。私はゲイツ氏のこの勇気を心から尊敬する。
マイクロソフト創業者として一代で巨万の富を得た人だから、人々からの妬まれ具合もものすごい。このTEDトークの一部を切り取って、鬼の首を取ったかのようにゲイツ氏を誹謗中傷しはじめた人も大勢いる。それに乗せられてしまったのがゲイツ陰謀論者。
ゲイツ氏は、資産のほとんど全てを慈善活動に寄付しているために資産家ランキングにも載らない。それだけではなく、世界中の富裕層に、富を独占することなく慈善活動に使うことを促進するための活動ギビング・プレッジの発起人でもある。
ゲイツ氏は名声や名誉のためではなく、人類の未来を見据えてこれらの活動を行っているので、自らの慈善活動を積極的に世界にアピールしたりはしない。そのため陰謀論にのせられてゲイツ氏を非難する人は、盲目のままいつまでも非難し続ける。こういった誹謗中傷に傷ついて文句の一つも言いたいだろうに、彼らに対して攻撃的な態度も決して見せない。現代人の中で、ここまでの知性と人格を兼ね備えた人を、私は他に知らない。
真の善は見えない事が多く、逆にすぐに目にとまる善はまずそれが本当に善なのかどうかを疑った方が良い。