ある起業譚(2)
(この物語は、個人の起業体験を元にしたセミフィクション(半分はフィクション)です。登場人物、固有名詞は実在の人物や名称とは異なります)
■1995年8月某日(営業開始)
私はまだインターネットで食べていけるだけの準備ができてない状態で会社を辞めた。何よりも年齢が35歳で、もし会社を辞めて一からビジネスを始めるには、これが最後のチャンスになるかもしれないという焦りが強かった。可能性を感じるやりたいことが目の前にあるのに、それを諦めることが辛かった。一言で言えば将来、あの時やらなかったということを後悔したくなかった。それにインターネットを使ったビジネスは、せいぜいプロバイダーぐらい。まだ走りながら考えるしかない段階だと思った。
しかしまずは食わなければならない。そこで考えたのが、コンサルタントの仕事。前職の研究所では、企業向けの情報環境の提案業務をしていたので、提案書や調査報告書などは作成するスキルがあった。また研究所に移る前の8年間はシステムエンジニアをしていたので、システムの計画書や、基本設計書を作成するスキルもあった。そこで、まずは自分ができることをまとめたミニ提案書(サービスカタログ)をつくることにした。ページ数は3ページほど、挨拶、自分のできるサービスのメニューと説明、そして最後に略歴。
私は、会社時代に付き合いのあったお客様などに片っ端からアポを取った。すると皆、二つ返事で会ってくれた。何人かと話すうちにわかってきたのは、みんな、「こいつ、いきなり会社を辞めてどうやって生きていくんだろう」という疑問を本人に直接聞きたいということ。しかし理由はどうあれ、自分のビジネスの説明ができる場をもらえるのは、営業活動の始めとしては嬉しい。ほとんど、1,2時間の雑談で、最後に提案書の説明を少しするという具合だが、数打てば当るという気持ちだった。普通は会社を辞めると半年は失業保険をもらうものだと思うが、私は会社を辞めた翌週からこのような営業活動を開始した。熱い8月から9月と、とにかく片っ端から2,30人の人と会った。