ある起業譚(5)
この物語は、個人の起業体験を元にしたセミフィクション(半分はフィクション)です。登場人物、固有名詞は実在の人物や名称とは異なります。
■コミュニティを知るために、地域参加する その1(1995年8月)
インターネットを使ったサービスを考える上で、今後重要になるのは「コミュニティ」という概念ではないかという漠然と思っていた。それは、シリコンバレーではベンチャーインキュベーションに、投資家などのサポートコミュニティが大きな役割を果たしていることをいくつかの本で知っていたからだ。また注目されはじめたNPOという組織の行動原理として、地域コミュニティとの連携などが注目されてきていることをマスコミや一部の研究者が指摘し始めていた。
特に今井賢一氏の「情報ネットワーク社会」を読んで、コミュニティ的な組織活動原理が、これまでのビジネス組織の活動原理に置き換われば、企業もいままでとは違い、創造的な企業活動ができるようになるのではないかと思っていた。つまりインターネットをうまく使って、コミュニティ的なマネジメントを開発すれば、それは企業に逆輸入できないかと考えるようになっていた。
しかし、私は企業での階層的な社会関係しか経験が無かったので、コミュニティというものの体験が無い。そこで、偶然にも住んでいる団地の近くに建設されることになったコミュニティセンターの建設協議会の委員の募集があり、これに応募した。
山林を切り開いて出来たニュータウンの団地では、何世代にも渡ってそこに住んできた人はいない。なのでニュータウンの団地では、人々の横の繋がりが希薄だし、そのような繋がりを育む場所の少ない。そこで地域にコミュニティセンターという場を作って、そこを住民の交流の場としようというわけだ。作るのは市役所であった。