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私の彼は優しすぎる。1-憂鬱な朝。

朝目覚めると優しい顔が最初に私の瞳に映る。

薄茶色の睫毛は柔らかくて遠い外国の子供のよう。

同じくカフェラテのような色の髪は毛量が多くて

小さい顔を食べているように覆っているが、それも少年のようで愛らしい。

毛穴を探そうとするけど、白い肌はきめが細かくて、陶器のようだ。

美しいな、と思う。

寝息もしないし、無味無臭。

いや、ほのかに柑橘の香りがする。

たぶんこだわって選んだオーガニックのシャンプーの香りだろう。

どうしてこの人が私の隣にいるのだろう。

こんなはずではなかった。

私が好きになったのはこんな人ではなかったのだけど。

彼は勝手にひとりでかっこよくなってしまった。

そして私は毎朝彼の顔を見て胸が痛くなる。

申し訳ないような、自分が哀れなような、

切なさと、恥ずかしさと。

苦しくなる。

「幸せ」なはずなのに素直に受け入れられない。

そんな自分と毎朝向き合う。

私は静かにベッドから滑るように抜け出ると

静かに静かに顔を洗い、化粧をする。

昔はそうではなかった。

ノーメイクでも気にならなかった。

彼はお化粧をしたことのない高校時代の同級生だから。

でも今は。

この無意識に美意識が高い生物に

蔑まれないようメイクをする。

この人は優しいから何も言わないし、何も思ってないかもしれないけど。

自分には厳しくても他人には優しい人だから。

人は人、自分は自分、の、どこかクールな人だから。

でもメイクをする。楽しいわけじゃない。

メイク動画のYouTuberのように美女に変身できたら楽しいかもしれないけど

私は私なのだ。

身だしなみ程度の、申し訳程度のメイク。

だって彼は私の素顔を知っているし

彼が濃いメイクを好まないことを重々承知している。

逃げ場がないのだ。

だからマイナスから0点になるくらいのメイクを施して

彼が好きな柑橘系、オレンジの香りをまとって

彼が好きな珈琲を淹れて

彼が目覚めるのを待つ。

「おはよ」

という小さく低く柔らかな声が聴こえたら

『おはようございます王子様』と心の中で呟き返す、

でもこれは嫌味だ、自分に対しての。


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