私の彼は優しすぎる。17-名もなき。

思えば

私にはもったいない存在であることは

今に始まったことではなかった

それはつきあった当初からだ

彼は優しくて

穏やかで

感情の起伏がなくて

私が何かミスをしても

怒ったり呆れたりせず

「大丈夫だよ」とか

むしろ

「大丈夫？」と心配してくれたり。

その時点で十分もったいない人だった

なのに容姿まで「私にはもったいない人」になってしまったら

私はどうすればいいのだろう

彼とつきあうようになって

彼の優しさに少しでも近づきたい

気が利く人になりたいと思ったけど

いつも私が気づくまえに彼が気づいて

そのたび

『ああ・・・』

と落ち込んで悔しくなって

ごめんね、と心の中で言いながら

（なぜならそう口にすると彼がまた気を遣うかもしれないから）

「ありがとう」と微笑んで。

私は料理が得意ではないけど

忙しい彼のためになればと思って

日々クックパッドをにらんでいる。

他の家事（洗濯、掃除）をするのも同じ理由で

そのたび残業の多い彼は「ありがとう」と言ってくれる

一度だけ

「分担できてないね、ごめん」と

彼は眉をいつもよりもっとハの字にして子どものようにしょげた

「マツイくんは『名もない家事』をやってくれてるじゃん

だから分担できてるよ」

と私が言うと

しょぼくれていた彼はやはり子どものように嬉しそうにぱあっと微笑んだ

そう、『名もない家事』ができるのは

気が利く彼のほうなのだ

料理をほとんどしない彼が

なぜお醤油がなくなったことに気づけるのか

本当に不思議