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開かれたどこでもドア。2泊3日積ん読解消合宿。

ふかふかのマットレスに寝そべって、いつも通り少年ジャンプ+を読む休日。

SPY×FAMILY は今日も面白いし、左利きのエレンはぼくの胸をいつも熱くさせてくれる。あいも変わらずダンダダンの作画クオリティは週刊マンガと思えない。

こんなエンタメを無料で体験できる時代に生きていられるのは幸運以外のなにものでもなく、ベストなタイミングでぼくを産んでくれた母にはSPY×FAMILYをもれなく全巻セットでお届けしたくなるくらい感謝してる。

Thank you Mom.

but…

so Bad…

そう、バット。

知人や友人に「これいいよ」とおすすめしてもらい、ブックオフに足を運んで買ってきた本たちは、1ページも開かれることなくぼくの本棚に並んでいる。まるでそこだけモノクロで、夜中にはしくしくと泣き声が聞こえてきそうな本棚に。

これじゃあブックオフの本棚から引っ越ししただけで、なんなら、まだブックオフの本棚に並んでいた方が他の人の手に取ってみてもらえる分、幸せになれそうだ。

それでも懲りることなくブックオフに足を運び、おもしろそうな本を手に取っては本棚に並べるぼく。

最初はまるで産声のように店員さんに向かって元気な主張をしていた「ペイペイ」も、回を追うごとにベッドの上で今にも死んでしまいそうな、か細い声に変わってしまった。

・・・あんまりだ。

本を買うのに使われたぼくのお金も、せっかく本を薦めてくれた友達の好意も、本の書き手も、本自身も、これじゃなにも報われない。まとめてみんな So Bad 。

「全部読んでやる…!! あますとこなく、1ページ目から最後のページまで読み切ってやる…!!」

「本を読まずに漫画を読みふけっていたお前のせいで泣いてんのに何偉そうなこと言ってんだ!」と、本棚から猛烈なバッシングを受けた気がするが、自分の責任は棚にあげ、代わりに棚から本をおろし、ぼくは旅にでた。

10冊の My Angels と2泊3日の旅に…。



迫り来るタイフーン14号。

ぼくの読書の旅路を邪魔しようという気らしいが、そうはいかない。これ以上10冊の My Angel 達を泣かせるわけにはいかない。行かない、という選択肢はない。

アホ丸出しのラップを口元から垂れ流し、ぼくは今回の積読解消合宿という企画に乗っかってくれた友人Aと一緒にレンタカーに乗り込んだ。

大阪市内から3時間弱車を走らせて着いたのは、和歌山の温泉宿。

あえて周りに娯楽がなにもないところを選んだ。最寄りの大手コンビニストアですら、車で1時間弱かかるような山の中だ。しん、と静まりかえっていて、雨音と川が流れる音以外、雑音がしない。

トトロかもののけ姫でもでてきそうな、そんな場所。

ここならガッツリ本に時間を費やすことができる。

(あ、なるほどな…。)

ぼくは即座に理解した。娯楽に溢れた大阪の街の中だったのがいけなかったんだ。

そりゃああなた。

あれだけ魅力的なものがたくさんあれば、目移りもしますわよ。ブックオフの帰りにラーメンを食べて、映画館に寄って、サウナ行ってハイボール飲んでヒャッハーになっちゃいますわよ。

でもない。ここにはラーメン屋も、映画館も、サウナもない。

あるのは山と川。そう、Nature only。

完璧だ。本を読むのにこれ以上の環境がこの世にあるなら教えてほしい。

10冊の本の重みをずっしりと感じながら、右のポケットにウキウキ、左のポケットにわくわくを詰め込んで受付を済ませたぼくらは、足音で音符を奏でながら部屋に向かった。

「ここに、2泊3日、積読解消合宿を開催します」

甲子園球児さながらの闘志で開会宣言を行う。

「かんぷわぁぁぁい!!」






どうしたんだろう。やばい、ものっそい眠い。

過疎化が進んだ地域にある商店街のシャッターくらいにまぶたが重たい。尋常じゃない事態だ。そう、まるで薬か何かでも盛られたような...

「......!!」

はっとした。いつの間にか外は真っ暗になっている。台風の影響で雨脚が強まり水量が増す川、逃げられない森の中、ペンション...。

・・・やられた。

フラグだ。

金田一少年やコナンの世界で殺人事件が起こるとき、立てられる限りのフラグが、いまこの瞬間、ほぼオールスターで立っている。

盛られた…。たぶん。

よく見るとすごい泡だ。青酸カリ的なやつかもしれない。

「もう...だめ...だ」

このまままぶたを閉じてしまっては二度と目を開けられなくなる未来を察したぼくは、なんとかかんとか部屋から抜け出し、ぽかぽかと身体の芯まで温めてくれるあたたかい温泉に入って、必死の形相で歯を磨き、ぎりぎり布団に入ってぐっすりと眠ることができた。



(サァァ)

2日目。

降り注ぐ雨の音を目覚ましにし、心臓の鼓動に問題がないことを確認しながら、朝を迎えた。

さて。せっかく本を読みにきたんだ。アホなことばっかりやってないで、真面目に本を読もう。このまま帰ったら、本棚から聞こえるのが泣き声ではなく阿鼻叫喚になってしまう。

というわけで、ぼくら(友人はずっと真面目に本を読んでいた)は活字に向き合った。

朝食を済ませてまず手に取ったのは、伊坂幸太郎さんの著書「ラッシュライフ」

ぼくは小説が好きだ。

魅力的な登場人物達のフィルターを通して世界を見ることができる。映像作品では表しきれないような、心の奥底まで潜り込んだ細かな感情一つ一つが伝わる。

まるで本の中に飛び込んでしまったかのような没入感。

ミギーと名前をつけてもいいほどにスマホが手に吸い付き、何をするにしても「ながら見」してしまう癖のあるぼくも、本を読むときばかりはスマホを完全に手放すことができた。

伊坂幸太郎さんの小説は、複数の登場人物の視点を行ったり来たりして、最終的にそれらの登場人物がひとつのストーリーに繋がっていき、散らばった伏線を回収する、という形式のものが多い。

小説の中でもとくに没入感をもって読むことができるので、個人的には大好きで、読んだ後しばらくは、魅力的な登場人物の名台詞的を真似する。

「モダンタイムス」という小説を読んだ後には、折を見て「どんなことでも二回やりゃ、慣れるよ」なんてかっこつけていっていたら、友達から「しつこいな」といわれた。ごめん。

本を読み、疲れたら温泉に入り、そして眠る。

こんなにも幸せな時間があっていいのだろうか、と疑問に感じるほど幸せだった。これは心から本当にそう思った。

「サウナ → ハイボール → 睡眠」のほかに、しあわせのテンプレートをひとつ追加することができた。しあわせになるのに、それほどお金はいらないのかもしれない。

買ってきたペヤングを頬張りながら、悦に浸り、そう思った。

お腹がパンパンになると、またも睡魔が襲ってくる。腹ごなしがてら、ちょっと散歩に出てみる。

宿泊していた地域には、「川湯温泉」という川のすぐ近くに無料で入れる温泉があった。

冬季限定で「仙人風呂」といわれる広い温泉も用意があるらしいが、残念ながらまだ9月。仙人はどうやらお越しになっていない様子だった。

でも大丈夫。近くには夏場でも入れる川湯温泉がある。

水着などを着用して入る、こ、ここここ、ここここここ混浴だ。

一応いっておこう。やましい気持ちなんて断じてない。毛の先ほどもない。

でも世の中にはそういう輩もいるかもしれないじゃないか。いかんぞ。冬には仙人がいらっしゃる温泉のすぐそばで、やましい気持ちでお湯に浸かろうなどという不届き者がいたら、征伐してくれよう。

そんな気持ちで、こここ、混浴の温泉に向かう。

(台風が接近する中、温泉に浸かるおバカ猿)

さて、と。

宿に戻って本でも読みますか。



宿に帰ると、日が暮れるまでひたすら本に熱中した。

「何のために生きるのか」で記された稲盛さんのことばは、特に印象に残った。

「私の人生の目的は、死を迎えるときに、私の”たましい”がさらに磨かれて美しくなっているのかどうか。それだけが人生の目的だと思うものですから、改めてこの人生の中で自分の魂を磨いていくことをしようと思っているんです」
引用:五木寛之、稲盛和夫『何のために生きるのか』致知出版社

本のすごいところは、偉人の経験や考え方を間接的に学べるところだと思う。

つい最近、稲盛さんはお亡くなりになってしまった。ただ、稲盛さんの書籍は世の中に多く出回っていて、直接お話しすることはできずとも、稲盛さんから学べる機会は今後いくらでも作ることができる。

本を通して稲盛さんが、「魂を磨くことが重要だよ」と教えてくれた気がした。ぼくも稲盛さんのように、自分の魂を磨いて生きていこう。

夕食を食べ、温泉に入り、少しだけハイボールを飲む。眠くなると少し眠り、起きるとまた本を開いた。幸せのループ、万歳。


3日目の朝、雨。

この2泊3日、台風の影響でひたすら雨が降り続いたが、そのおかげで本を読み進めることができたといってもいい。

結局、10冊持っていって読めたのは2冊半だった。正直、夢の世界にかなりの時間を費やした…。

まぁでも、それもまたよし。

本を読む楽しさを思い出すことができたのだから。

本を開くと、別の世界に飛び込むことができる。今は亡き偉大な経営者と話をすることもできれば、小説の登場人物になりきって感情を味わうことだってできる。

まるで「どこでもドア」だ。

いつだって、どんな場所からだって、自分のいきたい世界に連れていってくれるのだから。

これからは週末だけでもいい。本を開いていろんな世界をのぞいてみようと思う。

きっとそれだけでも魂が磨かれることだろう。

ですよね、稲盛さん。

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