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「なぁ、にいちゃん…」サウナ空間でしゃべるおじさんが教えてくれた、敵対心を持たないことの重要性。
「あぁもう、うるさいな。静かにしろよ…」
行きつけの銭湯でサウナに入りながら、心の中でぼくはつぶやいた。
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昭和の空気を余すところなく吸い込んだ木材気質のロッカーキーが刺さって並ぶ靴棚。
暖簾をくぐると、番台におじちゃんおばちゃんが腰を据え、後ろには召喚獣の如く黄色いバスタオルが、前には歩兵のごとく牛乳石鹸、手のひらサイズのリンスとシャンプーが並ぶ。
スーパー銭湯でよくみる「刺青の入っている方はお断りします」なんて警告文はひとつも見当たらず、すべての者を受け入れるその様からは、「多様性?今ごろそんなこといってるの?」と、逆に最先端のマインドを感じさせる。
そんな昔ながらの大阪銭湯が、ぼくは大好きだ。
時給700円、ゴルフ場でバイトをしていた高校生のときのぼくでも、1時間間分のバイト料で幸せを手に入れることができるそんな場所。
しかし、そんな大阪銭湯をこよなく愛するぼくも、湯婆婆になって「お客様とて許せぬ!」と叫びたくなるポイントがある。
「マナー」だ。
安い金額ですべてのものを受け入れてくれるだけに、銭湯ではマナーが問題視されることが多い。
中に入ると、洗い場には「髪染め禁止」、露天には「禁煙」、サウナの扉には「水をかけないでください」、水風呂には「頭まで潜らないで」の張り紙が、「多様性履き違えんじゃねぇぞ、てめぇら」とオラついている。
さすがに髪染めまでは見たことないが、サウナでいえばマナー違反は日常茶飯事で・・・。
「黙浴」封印札の扉から入ってきたはずなのに、封印をものともせず、周りに気を使うこともなく言霊を発するモンスター「Ojisama」は、たっぷりかいた汗をたくわえて頭髪もろとも水風呂にダイブする。
見ているこっちはショッキング、だいぶ。
まるで何かの儀式であるかのように、サウナで言霊を残し、水風呂にそのまま浸かることを繰り返す Ojisama をみて、「うるさいなぁ…」「ちゃんと汗流してから水風呂入れよ…」と、敵対心を丸出しにしてしまうことも少なくなかった。
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その日のサウナもそうだった。
「あぁもう、うるさいな。静かにしろよ…」
すべての音量がマックスに上がったマーシャルのごとくしゃべる Ojisama に対して、ぼくは軽い、いや、決して軽くはない敵対心を抱いていた。
サウナで瞑想し、調いつつあるぼくの心に、Ojisama の身の上話が土足で入り込んでくる。
「どうぞお上がり。なにもないところだけどゆっくりしていってね」
無限の大地と表現するにふさわしい心の広さを持つマザーテレサならそんなふうに伝えてあげられそうな気がするが、あいにくその日のぼくの心は、ドラえもんが眠る、押し入れ上段ほどのスペースぐらいしかなかった。
他者を受け入れる余裕なんてまるでねぇ。
なんなら、ドラえもんから空気砲を借りて、Ojisamas を次元の彼方に吹き飛ばしてあげたいほどに刺々しい状態。
さすがに少ししんどくて、「すいません、すこしボリューム落としてもらうことできますか?」と声を掛けようかどうか迷っていると、
「にいちゃん、最近の人たちはどんなことを楽しいと感じてるん?」
と Ojisama のひとりが話しかけてきた。
予想してなかった展開にびっくりしてしまい、先程までの敵対心をまるで忘れて、おもわず普通に回答する。
「楽しみですか?うーん・・・頑張って仕事して、こうやってサウナ入って、その後にハイボール飲んでる時が一番楽しいですね」
「がははは、ええなにいちゃん!仕事なにしてるん?」
「〇〇です」
「おー、そりゃたいへんやな!勉強しないとあかんことがたくさんあるやん!あほじゃできひん。がんばってるな、にいちゃん!」
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幸せになってしまった。
他にお客さんもいなかったこともあって、Ojisamas とサウナ空間で盛り上がり、いつのまにか Ojisama の言霊は、ぼくに元気と勇気を与えてくれていた。
サウナ時間はいつもの2倍心地よいものになっていた、といってもいいほどだ。
昨日の敵は今日の友よろしく、2ターン目サウナの敵は、3ターン目サウナの親友だった。
Ojisamasに別れを告げて、ぼくはるんるん気分でサウナを後にした。
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