(ショートショート)モノの価値の変化
内容などに関してはあくまでもフィクションです。
リン酸の枯渇
まずリン酸肥料が枯渇した。世界中のリン鉱石を掘りつくしてしまった。そう、窒素・リン酸・カリの肥料3要素のひとつ。これなくしては作物の花や果実をつけることはかなわない。
花や果物がなくったって生きられるよ、という考えがあるかもしれない。だが、トマト・ピーマン、なす、かぼちゃをはじめ身近な野菜の多くは果実。それだけでなく多くの作物をつくるにはリン酸がなくてはうまく育たない。
さて、そうなると世の中の価値観は激変した。この状況下で身近にあるもののなかで、もっとも価値が上昇したものは何かというクイズを出したら当たるだろうか。なかなか難しいかもしれない。
価値を上げたもの
それは生ゴミ。家庭や食べ物を扱う生産現場や外食産業から信じられない量が排出されている。もとはといえば食べ物を中心としたものの集まり。作物の切れっ端や皮などふだん食べない部分が中心。
これまでは水分を多く含むため、大量の燃料を加えながら焼却して灰にして埋立て等で処分していた。
したがってリン酸を多く含んでいる。そこからリン酸を得て肥料にすればよい。世の中はいっせいに生ゴミに注目した。
家庭ごみの行く先
これは家庭とて例外ではない。一般家庭から出る生ゴミはかんたんに減らせない。自治体がごみ減らしをするにあたり、工場や店を対象にした指導や監視は法律のしばりがあり、わりとルールとして守ってもらいやすい。
ところが家庭はそうはいかない。それまでも生ゴミを中心とした家庭から出る廃棄物の処分費用に自治体は頭を痛めていた。住民から集める税金の多くがほとんど水分ばかりの生ゴミを燃やすために使われてきたからだ。
そのこともあって今回の肥料の枯渇は自治体だけでなく、民間で新たなビジネスを生んだ。自治体と組んで家庭ごみを集めるサービス業者だ。
家の勝手口の外に生ゴミを専用容器に入れて置いておけば、ほぼ毎日回収してくれるサービスが生まれた。自治体などが定めるごみステーションまで運ばなくてよくなった。これにかかる費用は自治体が一部を負担しているが、大部分は業者が自らコストをかけて行なっている。
それでも利益が出るからだ。リン酸肥料の値段が上昇、いまや肥料袋のなかみのコストの大部分がリン酸分といえるほどになっている。農家は他に変わるものがないので、こうしてできた肥料を作物にやむなくやっている。高いコストをはらいながら作物をつくっている。
経済原則
さて、業者間の競争が激化してサービスが向上した。生ゴミ回収時に各家庭にポイントをつけたり、1週間分利用してもらえるといつの頃かの新聞回収のようにトイレットペーパーをもらえる恩典がつく業者が出てきた。
すると他の業者も我もとなにがしかのサービスをおこなうようになった。1年つづけると自転車がもらえる、月ごとに新鮮野菜BOXが届くなど破格のサービスをつける業者があらわれた。
生ゴミとそうでないゴミを明確に仕分けできているゴミの価値がさらに上がった。つまり生ゴミがランクづけされるようになった。じゃあ、外食産業の生ゴミが一番だろうと思われるかもしれない。残念、そうとはかぎらない。
なかには大衆好みの味つけとすべく、塩分の多い食べ物を扱う業者。これは生ゴミとして作物に与える上ではマイナスとなりかねない。つまり塩分がネックとなる。
理想は塩分をほとんど含まない生ゴミ、これが一番。ヒントはペットの食事。猫や犬のえさを食べてみた方はピンとくるだろう。ほとんど塩味を感じない。ペットの多くは塩分を含まないペットフードとして与えられている。
したがってエサを豊富に扱う動物園の生ゴミがもっとも高値で取引されている。