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第四境界の描いた『点と線』 ─2025年の展望

宮崎駿は、イタリア人エンジニア・カプローニの口を借りて、こんなセリフを生んだ。

「創造的人生の持ち時間は10年。芸術家も設計家も同じだ。君の10年を、力を尽くして生きなさい」

スタジオジブリ『風立ちぬ』より

僕がドラクエのディレクターを務めたのは、2004年から2013年の10年間。『風立ちぬ』を最初に観たのが2013年だったことは単なる偶然として、この言葉は自分の中でダメージとなって蓄積した。宮崎駿が伝えたかったことの真意はわからないが、当時の僕はこんな思いに囚われていた。

「クリエイターとしての自分の持ち時間は、もう終わったんだろうな」と。

その思いが根底にあったせいか、「残りの人生は好きなことをやろう」と自然と思えた。選んだのは、『物語専門会社』を創ることだった。ゲームの開発会社でないことを不思議がる人もいたが、これしか考えられなかった。ディレクターが適職とは思えていなかったし、人生の残り時間を捧げるなら、もう得意なことだけに集中したかった。

だから、ストーリーノートという会社は、ある意味で僕の終の棲家みたいな場所だ。そこでやりたいことは、最初から決まっていた。

『物語をアートとして表現する』

はじめにあったのは、この想いだけだった。

──2017年。
そのアイデアに辿り着くきっかけになったのは、ある一つの仮説からだった。

「あらゆる映像コンテンツは、緩やかにYoutubeに移行していく」

いずれ多くの視聴者が、ドラマやアニメのようなストーリーコンテンツをYoutubeで観るようになる。だとしたら、その先駆けとなる作品を作りたい。ネット上で展開するストーリーなら、Netflixのような配信系よりも自然に双方向性の表現ができるはずだ。

『Project:;COLD』の着想だった。

自分たちと同じ時間を生きる少女たち。彼女たちは自分たちと同じニュースに歓喜し、時に胸を痛め、SNSで情報を発信している。ある日、恐ろしい危機が襲う。自分たちだけでは手に負えない問題を解決するため、少女たちは助けを求めてYoutubeに動画をアップする──。

当時の僕は自分のアイデアに一人で興奮していたが、あいにくこの想いは誰にも響かなかった。会社の仲間にさえ面白さを伝え切れず、依頼主だった会社からも予算は承認されなかった。企画は頓挫。僕は企画書の束を引き出しの奥に放り込んで、他の仕事に専念することにした。

まったく僕は無知で、世紀の大発明と思ったこの企画が『ARG』という既存ジャンルに含まれると知ったのは、更に一年も後のことだった。

それから紆余曲折あり、多くの方々の支えもあって『Project:;COLD』は実現に至った。反響は予想以上で、あの日の自分の興奮がようやく誰かに伝わったことに僕はほっとしていた。

これは余談だが、「あらゆる映像コンテンツは、緩やかにYoutubeに移行していく」という僕の仮説がひどい空振りだったことは、CEDECの講演で自ら答え合わせしている。興味のある人は、下の動画を観てもらえればと思う。

いずれにせよ、この『Project:;COLD』という作品を通じて、僕は新たな発見をした。それは「ARGには、このジャンルでしかできない独特な物語表現がある」ということだ。この頃から、僕はこのジャンルを「物語のアート表現の一部」と捉え、もっと普及させたいと考えるようになった。

しかし、ARGというジャンルはあらゆる面で厄介極まりないものだった。自分一人で御せるような相手では到底なく、そこから数年にわたる悪戦苦闘については都度都度ブログに綴っているので、興味のある人は是非読んでもらえたらと思う。

『Project:;COLD』は、その後、『1.8』、『2.0 ALTÆR CARNIVAL』と、計三作品を作らせてもらった。今では多くの人に愛されるタイトルとなり、原作者として喜ばしく思っている。

だが、ARGの認知拡大という意味で大きく貢献したのは、むしろスピンオフの『人の財布』だった。もともとはPARCOとの協業記念的な小品という扱いだったものが、地上波ワイドショーで連日紹介されるなど猛烈な勢いで拡散していった。この辺りの経緯については下のブログに経緯を綴っているので、興味ある人は是非一読されたし。

『第四境界』始動

もともと僕たちは『Project:;COLD』を作るために集まったチームだった。けれど、ある頃から次の段階を目指そうと決めた。『Project:;COLD』に囚われず、ARGというジャンルをより広く普及させるための作品作り。その理念から生まれたのが、『第四境界』というアライアンスだ。

初名乗りは、『Project:;COLD 2.0 case.674 ALTÆR CARNIVAL』のエンドクレジットに刻まれた、小さなロゴだった。

ほんとに小さいな

この日が、2024年3月31日。
そして、翌4月1日。水面下で進めていたプロジェクトが、ひっそりと産声を上げた。

『愛宝学園かがみの特殊少年更生施設』だ。

謙遜でもなんでもなく、『人の財布』にせよ『かがみの特殊少年更生施設』にせよ、こんなに大きな反響を得られるなど想像していなかった。ただ、そのギャップの大きさという意味では、『かがみの特殊少年更生施設』が最大だったように思う。この時の混乱の顛末についても以下の記事に残してある。興味のある人は読んでもらいたい。

さて、『Project:;COLD』シリーズ、『人の財布』、『かがみの特殊少年更生施設』という三作連続のバズを受け、『第四境界』の名は瞬く間に多くの人に知られるところとなった。上のブログにも同様のことを書いたが、僕が感じていた「ARGでしかできない独特な物語表現」の面白さが、多くの人に届くようになった、その一つの成果なのだろう。

ここからは、その後の作品の紹介だけさせてもらう。どの作品も思い入れが深くゆっくり語りたいのは山々だが、それは別の記事に譲るとしよう。

これが『第四境界』の来歴──僕たちが今日までに描いてきた『点と線』、というわけだ。

謝辞

『第四境界』などという意味不明かつ小さな組織が、この短期間でこれだけの成長をできたことは、我々の挑戦を信じて支えてくださった皆様のおかげです。

  • 『Project:;COLD』に挑戦する機会を与えてくださった、バンダイナムコエンターテインメント様

  • 『人の財布』の販売の機会を与えてくださった、PARCO様

  • 『かがみの特殊少年更生施設』に挑戦する機会を与えてくださった、SANKYO様

  • 『Red Reaper ~死者からの犯行声明~』に挑戦する機会を与えてくださった、KONAMI様

  • 『Project:;COLD』の頃からずっと応援をしてくれた、融解班の皆様

  • 『第四境界』を力強く支えてくれる、交錯員の皆様

その他、我々の挑戦にお力添えをくださった皆様に、この場を借りて御礼を申し上げます。皆様へのご恩に報いるためにも、今後もより真摯に、よりよい作品作りができるよう、努めてまいります。

2025年の展望(がんばる!)

2024年に起こった数々の反響を受け、驚くほど多くの方々から協業のご依頼をいただくようになった。すべてをすぐには実現できないが、様々な企画が水面下で進行中であるということは、この場を借りて皆さんにも共有しておきたい。

すでに公表が済んでいる作品は、以下の通りだ。

もはや自分の処理が追いつかないほど、今では多くの人が『第四境界』というアライアンスに参加してくれている。けれど、人数が増えても根底にある想いは変わらない。自分たちが目指しているのはもちろん、「あなたを驚かせること」だ。

2025年をより大きな躍動の一年とできるよう、より大きな驚きが世の中にたくさん生まれるよう、そう願いながら今日も作品づくりと向き合っている。今後も『第四境界』の動向に注目してほしい。

私事ながら、2024年の末に54歳になった。カプローニの言葉を最初に聞いてから、更に10年以上が過ぎた。あの言葉が真実なら、僕はもうとっくに創造的人生の持ち時間を終えた人間なんだろう。でも、そんなことはもうどうでもいい。あんなに面白かったドラクエの仕事を終えてなお、こんなに面白い仕事に出会えたことに、僕はただ感謝している。

いつまで体力が続くかはわからないが、『第四境界』には若いスタッフも大勢いる。彼らが自分たちの力でけん引していけるようになるまで、老兵はもうしばらくがんばってみようと思います。できましたら、応援してください。

最後になりましたが、あけましておめでとうございます。
2025年も『第四境界』をよろしくお願いします。

2025.1.1
第四境界 総監督 藤澤 仁

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