『人の財布』・『ココフォリア版』・『Project:;COLD2.0』 ─蠢動するARG
去年の10月から、うちの会社は妙に騒がしい。
長年かけて仕込んできた作品のリリースが、この時期にいくつか集中したためだ。
自社オリジナルの体験型絵本『まいごの女の子とトレンディ☆ゴースト』、『ドラゴンクエストモンスターズ3 魔族の王子とエルフの旅』(SQUARE ENIX)、Web3.0ゲーム『SYMBIOGENESIS』(SQUARE ENIX)など。
どれか一つだけでも結構な騒ぎなのだが、まったく考えてもみなかった場所から想定外なことが起こった。
それは、2023年10月20日にONLINE PARCOで販売開始した『人の財布』から始まる一連の出来事だ。
『人の財布』狂騒曲
『人の財布』がどんな商品かについては、下のポストが簡潔に説明している。
10月20日にONLINE PARCOでひっそりと売られ始めたこの商品は、予想を超える反響を見せ、数時間ほどで完売となった。
最初は無邪気に喜んでいたのだが、SNSを中心に話題が拡がり、再販を求める声が上がり始めた。僕たちは関係各位に拝み倒して商品をかき集め、6日後に二次販売を開始。すると、これもたった1分で完売してしまった。
SNSの話題はさらに過熱し、僕たちは改めて生産・運営体制を強化した。そして、供給に時間が掛かると断った上で、初回販売分の倍の数を用意した。これだけあれば、ある程度は望む人に行き渡るだろう。そう思って臨んだ三次販売だったが、これもわずか3分で完売となった。
「異常事態が起きている」
ようやくそう気づいたのが、この頃だった。
翌日からは大変な騒ぎになった。
TBS「Nスタ」、日テレ「DayDay.」など、連日ワイドショーで取り上げられ、自分も(恥ずかしながら)出演させてもらって商品コンセプトやらの説明をした。主要テレビ各局ほぼ網羅しての紹介を受け、知名度はたちまち一般層にまで駆け上がった。
僕がどんな仕事をしているのかすらろくに理解していない母親がこの商品のことを知っていたのだから、まったくテレビの影響力というのはすさまじい。
再販を待ち望む声は、ますます高まる一方だった。
その後、時間をかけて量産化の環境を整え、ようやく受注生産の受付を始められたのは三か月後。それが昨日(2024年1月16日)のことだった。
そんなわけで、騒ぎは今日も続いている。
一日経過時点での販売数は、この記事を書いている段階ではまだ不明だが、商品記事の反応が以下のポストの通りなので、恐らく当初想定の100倍を超え、数万単位に至ると思われる。
商品は今から購入しても数ヶ月から半年の待ちが発生する見込みとのことだ。ここまでくれば立派なヒット商品と言っていいだろう。
しかし、僕らはまだ熱狂の渦の中にいて、自分たちの身の回りで何が起きているのか正確に観測できていない。
ただ、先行して『人の財布』の物語を最後まで体験してくれた人たちからは、続々と好評の声が届いている。
お待たせしてしまうことは心苦しいが、興味のある人は是非一度手に取ってもらえれば嬉しく思う。
さて、この『人の財布』について、もう少しだけ補足を。
取材の現場などで「つまり謎解きゲームってことですね!」と言われると、「まあそうです」みたいに曖昧に答えたりするのだが、正確には謎解きゲームとは少し違う。
もちろん謎を解く場面もあるのだが、それ自体が主題ではなく、コンテンツの主題は「物語を体験する」ことだ。
ジャンルとしては、『ARG(alternate reality game:代替現実ゲーム)』ということになる。主旨を正確に伝えるために、僕は最近『日常侵蝕型ゲーム』みたいな言い方も併用している。
ここ数年、僕はこのARGというジャンルの普及や問題解決に取り組んでいて、この『人の財布』もその一つの回答と言える。
Project:;COLD case.613『ココフォリア版』
ARGの楽しみ方というのは、例えるならスポーツ観戦に近い。
ARGは「大勢が」「同じ時間に」「同じ体験を」することに重きが置かれるためである。こういった性質のことを「共時性」と呼ぶ。
この「共時性」がARGの魅力ではあるのだが、一方で収益化を妨げる大きな要因にもなっている。このくびきから逃れることは、ARGを設計する上で必ず重要なテーマとなる。
その一つの回答として作られたものが、Project:;COLD case.613 血の人形・再来事件『ココフォリア版』だ。
この商品は、2020年~2021年にインターネット上で展開したARG『Project:;COLD case.613 血の人形・再来事件』から共時性を排し、いつでも遊べるように『ココフォリア』というプラットフォーム上で再構築したものだ。
『ココフォリア』とは、TRPGオンラインセッションツールである。
社内レクでこのプラットフォームに触れ、ここでなら『Project:;COLD』のリバイバルができるのではないかと直感した僕は、プロデューサーを通じてココフォリアのチームにコンタクトを取った。
幸いにも先方も僕らの思いに共感してくれて、共同開発というかたちでこのタイトルがリリースされるに至った。
販売を開始したのは 2024年1月12日で、リリースからまだ日が浅いが、予想を遥かに超える反響と売上に驚いている。
『人の財布』の後だとさすがに見劣りしてしまうものの、SNSのポストへの反応は以下の通りで、これも大反響と言って過言ないだろう。
『Project:;COLD case.613』は、発表当時なんの前触れもなく突然始まったこともあり、参加できなかった人たちから「参加したかった」と長年言われ続けてきた作品だった。その問題解決は、僕らの想像以上に待ち望まれていたことだったようだ。
ようやく大勢の元へ届けられる機会を得て、スタッフ一同で喜んでいる。
プレイ人数は1~4名。プレイ時間は3~6時間。一人でも遊べないことはないが、結構な謎解き力が必要なので、友達とわいわい言いながら遊んでもらえれば作り手としてはとても嬉しい。
実際に遊んでくれた人たちからの評判も上々なので、興味のある人はぜひ。
ARGの究極領域へ『Project:;COLD2.0 ALTÆR CARNIVAL』
さて最後に、Project:;COLDシリーズ最新作について。
2024年2月17日から、いよいよProject:;COLD2.0が始動となる。
従来シリーズ同様「共時性」を重視しつつ、それ以上に参加者の「介入性」を高めるための新たな試みが詰まった、紛れもなくシリーズ史上最大規模作品となる。
プロジェクト開始時の、総監督としての自分のコメントをここに掲載しておく。
先日、KAMITSUBAKI STUDIOによる楽曲のタイアップも発表された。
ARGの未来のための想いと試みを、これでもかと詰め込んだ。そう言い切れる作品になっている。
『人の財布』、『ココフォリア版』と、ARGという未成熟ジャンルの確かな蠢動を感じている。
ここまで読んでくれた人は、その蠢動を、ぜひ自分の目で目撃してほしい。ARGを作り続ける一人の創作者として、そう願ってやまない。
2024.1.17
Project:;COLDシリーズ総監督 藤澤 仁
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