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Project:;COLDとはなんだったのか ─「現実」と「仮想」の中間に生まれた物語

8年前、ドラクエの仕事を辞めた後、しばらくは好きなことをしていた。

僕はある映像作品のシナリオを執筆していて、長野県の中野市によく足を運んでいた。
作っていたのは、信州中野の伝承である『黒姫伝説』を換骨奪胎した物語だ。
竜と心を通わせる力を持つ黒姫は、その能力を欲した武田晴信の陣営に攫われてしまう。
そして、黒姫を慕う竜の化身である少年が、姫を助けるために佐久の志賀城で大立ち回りする、由緒正しき冒険活劇だ。

自分ではなかなかの出来だと気に入っており、そのシナリオは今もハードディスクの中で眠っている。
いずれ揺り起こすつもりでいるが、今日話したいのは、この物語の話ではない。

その、中野市に通っていた時代、車を走らせながら考え事をしていた時、僕はある一つの天啓を得た。
それは新しいゲームのアイデアで、着想したその瞬間、ひどく興奮したのを覚えている。

現実の世の中で、これから起こること。
どういう結果になるのか、まだ誰も知らない出来事を予測する。
たとえば、今年の流行語大賞は何か。箱根駅伝で優勝するのはどの大学か。果ては、今週のアンパンマンの勝敗の結果まで。
見事に的中させることができれば、自分のキャラクターが成長する。
そんなRPGがあったら、きっと面白いはずだ。

その閃きは、一年後に『予言者育成学園Fortune Tellers Academy』というスマホゲームとなって、およそ2年半の間サービスをした。
2016年から、2018年頃の話だ。
慣れないプロデューサーなんてものを務めたせいで色々と人に迷惑もかけたが、生涯忘れることのできない大切なキャリアの一つとなった。

予言者育成学園は、あまりに前例がなさ過ぎるゲームだったので、ジャンル自体も自ら名付けた。
僕が付けたジャンル名は、『リアル連動ゲーム』だ。

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この言葉を創案してから今日まで、僕が表現したいと願っていることは、全てこの言葉に集約されている。
すなわち、「リアル」と「ゲーム」を連動させること。
もう少し広義に言えば、「現実」と「仮想」を二極と捉え、その中間にどんな物語を描き出せるのかの思考実験だ。
2015年頃からもう7年以上も、僕はこの実験を夢中で繰り返している。

先日、NHKBSプレミアムで『謎の日本人サトシ~世界が熱狂した人探しゲーム~』という番組が放送され、話題となった。

2006年にイギリスのゲーム会社が発表した、『パープレックスシティ』というゲームがある。
ゲームの最終目的は、出題される様々な謎を解き、この世界のどこかにある「レケイデ・キューブ」という立方体を見つけ出すことだ。
第一発見者には、およそ2000万円の賞金が支払われる。
用意された多くの謎は参加者の手によって次々に陥落していき、キューブはついに一人のプレイヤーによって発見された。
パープレックスシティは、これにてフィナーレを迎えたはずだった。

だが、レケイデ・キューブが発見されても、一問だけ、誰にも解かれていない問題が残ってしまった。
その問題とは、ある一人の日本人男性の写真から、その人物を探し当てるというもの。

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引用:https://www4.nhk.or.jp/P7316/x/2022-01-21/44/4900/2866782/

ゲーム内のヒントで、その謎の日本人が「サトシ」という名であることまでは明かされている。

一見シンプルにも思えるが、だからこそ、この問題は恐ろしく難問だった。
番組では、この最終問題に挑戦した人々の14年間を、ドキュメンタリー形式で案内していく。
人間は、老いていく生き物だ。
そうである以上、14年という時間は誰にとっても短いはずがなく、様々なドラマを生み出してしまう。
探している側は当然として、この問題の場合は、探されている側にも。
それらの展開の一つ一つを、僕は胸を躍らせ、心の底からワクワクしながら観ていた。

このゲームのジャンルを、一般に『ARG(alternate reality game)』という。日本語では『代替現実ゲーム』と呼ばれる。

自分なりに説明すれば、ファンタジー世界の中に現実世界の要素を取り込み、仮想と現実を交差させながら展開していく新しいかたちの表現手法だ。

この、「現実」と「仮想」の中間にある領域。

演劇用語で「第4の壁」などと呼んだりもするが、現実と仮想の境界線上で表現される物語に、どういうわけか僕はたまらなく心を奪われる。
それはひょっとしたら、自分が長年架空の世界を描くことを生業としてきたからかもしれない。

そんな憧憬にも似た想いを抱きながら生み出した作品が、『Project:;COLD case.613』(2020年~2021年)だった。

ある日、5人の女子高生がYoutubeに動画をアップする。
少女たちは親友の自殺を嘆き、カメラに向かってこう訴える。
「彼女には自ら死を選ぶ理由がない。彼女は呪いのせいで死んだのだ」と。
そして、その呪いは自分たちにも降りかかるかもしれないと、少女たちは恐怖の表情で伝えてくる……。

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https://www.youtube.com/@user-io1hr5eh2p

Youtubeやtwitterといった、世代によってはテレビよりも身近なメディアを中心に展開される物語。
ARGのGはgameの頭文字なので、ゲームとも言い難いProject:;COLDは、ARGですらないのかもしれない。
自分が今手掛けている作品がなんというジャンルなのかもわからないまま、僕は作品を作り続けていた。

そんな調子だったにもかかわらず、Project:;COLDはライブ中継の同時視聴者数が1万人を超え、Youtubeの急上昇動画にもピックアップされた。
最終回終了時に実施したアンケートには5000人以上が参加し、「高評価」80%以上、「考察を楽しんだ」と回答した人は95%にも及んだ。

新しい挑戦が、狙ったように評価を得るのは本当に難しいことだ。
それでもこの作品は、自分たちの予想を遥かに超える大きな反響を呼んだ。

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この日から僕は、すぐに次の目標を見定めていた。
それはこのジャンル(便宜上ARGと呼ぶが)を、もっと世界に一般化させることだ。

ARGの歴史はまだ浅く、ウィキペディアを見る限り、その起こりは2001年とされている。
定番と呼べるような作品はまだ存在せず、全世界的に20年余りも模索の時代が続いている。

ARGを取り巻く環境は、毎年何本も矢継ぎ早に作品が発表されるような世界ではない。理由はシンプルだ。
「ARGは金にならない」
これは、世界中のARG愛好家が等しく突き当たっている、巨大な壁だ。

ARGを一般化させるためには、どうにかして、この壁を超えてみせなくてはならない。
そうしてARGの生産が利益を生むようになれば、それを作ろうと志す人も増える。
一般化への道は、それでようやく拓けるはずだ。

今日まで多くの人をはじき返してきた壁なのだから、攻略は容易ではない。
僕は今、この壁越えに挑戦するため、ひたすらトレーニングを積んでいる最中だ。

そんな修行中の自分が作った最新作が、現在進行形で公開されている。
Project:;COLD1.8 case.633』だ。

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本作も前作(case.613)同様、物語の結末まで有料ポイントは一切ない。
全編完全無料なので、一人でも多くの人に参加してほしいと思っている。

ARGの収益化については、自社(storynote)の仲間とブレストを重ねていくうち、壁攻略の糸口を掴みつつある。

今後も順調に力を付けていけば、いずれそれに挑戦する日もやって来るだろう。
変にゲリラ的な課金システムにはせず、何を試そうとしているのかは、ちゃんと事前に説明を果たしてから実施するつもりだ。
もしも実際に試す日が来たら、その時はどうか、温かい目で見てもらえたら嬉しく思う。

さて、話が長くなってしまった。

この記事で一番伝えたかったのは、最新作『Project:;COLD1.8 case.633』を、ただ純粋に楽しんでほしいということだ。

本作は、今日(3/18)を皮切りとして、様々な出来事が短期集中的に起こっていく。
前作とはかなり趣きの異なる物語になっているので、是非じっくりと、考察を重ねながら楽しんでもらえたら幸いだ。

願わくば、本作を一人でも多くの人に知ってもらうため、周囲への宣伝、拡散にもご協力いただけたら非常にありがたい。

さあ、生涯一度きりの物語の始まりだ。
僕も何も知らない気になって、この「現実」と「仮想」の中間に生まれた物語の中へ、一緒に飛び込んでしまおうと思う。

2022.3.18
藤澤 仁(この記事に考察ネタはないです)


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