最上の沈黙に包まれ、ひとり静かに暮らす。建築家・出江寛の「閑寛居」
日本の伝統美を現代建築に生かす、日本を代表する建築家・出江寛が設計した「閑寛居(かんかんきょ)」。日常の喧騒から離れ、ひとり静かに過ごせるよう、最上の沈黙に包まれた場所として、3LDKのマンションを改装した出江氏自身の住まいです。
(「和モダンvol.2」の掲載記事を再編集しています)
「寛ぐためには沈黙が最も重要な要素である。住居の本質は閑さと沈黙にあり、沈黙のための材料や色彩が必要になる」と出江氏はいいます。
わずか奥行き69cmのベランダにつくり出した小庭に置いた、閑けさの本質である石を優しく包み込んでいるのは三尊仏の樹々。三尊仏とは釈迦と普賢菩薩と文殊菩薩のことをいい、「寝樹」「座樹」「立樹」によってこれを表したそうです。「寝樹」は釈迦をイメージした背の低い寒椿を横一線に並べました。「座樹」は寒梅の老木を普賢菩薩とし、「立樹」は紅葉を文殊菩薩として、この庵の守り神としました。この三尊樹による立体的な構成で狭いバルコニーに奥行きが生まれ、アクティブなものになったといいます。そしてそれぞれの樹間は這松(はいまつ)と小さな砂利により埋めています。
雪見障子で煩雑な風景を遮断し、モンドリアン・デザインの色硝子と木格子模様は花のない季節に彩りを添えます。
ソファに合わせて、出江氏自らデザインしたガラスのローテーブル。テーブルの脚は北斗七星の形に配されています。
居間の背面壁には黒皮鉄板を使用。隠し味(コク)のある材料として鉄をを使いたいと考えた出江氏は、お好み焼きの油のしみ込んだ鉄板の美しさに心惹かれ、鉄工所で鉄板を油で焼く作業を繰り返してやっとできたものだそう。
東西の梁は垂れ壁で、南北の梁は小波鉄板で覆っています。波打つ天井に、夜は赤黒いペンダントライトの光が映し出されます。天井のデザインは梁を隠すことが目的でしたが、ジョリパット吹付けによる細いひだの影がやわらかな線をつくり出しています。
二元対比を取り入れた室内空間は、黒く硬い鉄板に対して、白くやわらかい障子。北山杉絞り丸太の柱に対して、別世界の床柱であるトーテムポール。平らで有機質の床とカーブを描く無機質の天井。グレーの壁と白いダイニング側の壁は、いずれも沈黙の色でありながら、対比の構造をつくっています。
さまざまな素材や色が同居しながら、全体は「沈黙」というコンセプトで統一された住まいです。
設計:出江建築事務所/出江寛
施工:三幸
外構・造園:石井造園
(photo/松村芳治)
出江寛の「閑寛居」を掲載した「和モダンvol.2」は完売していますが、「和モダン」シリーズとして、現在「和MODERN12」まで発行しています。各テーマによる特集をはじめ、建築家や地域の工務店の住宅事例をたくさん掲載しています。
2020年12月18日に発行する最新号「和MODERN13」、Amazonにて予約受付中です。こちらもぜひご覧ください(^^)/