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素材の魅力をいかした家づくり

自然豊かな信州・長野県は、天然素材の宝庫です。
さまざまな地場の素材が、古くから家づくりに生かされてきました。
書籍『信州の建築家とつくる家』シリーズの中から、素材の魅力あふれる住まいを紹介します。

職人技が地域材をいかす 地産地消の家

古くから日本の伝統建物に用いられてきた【焼杉】は、耐久性が高く、光沢など独特な風合いも魅力のひとつ。
信州の建築家とつくる家19 』誌面より、信州焼杉の家/武重建築設計さんの事例を紹介します。

こちらの事例は、古い民家やお寺も残る里山に新築した住宅。生産場所や材料、つくり手がわかる地元材を利用(主に信州杉や浅間石・鉄平石)、地域の職人技術を取り入れ、永く残るシンプルで強い建物を目指したそう。

深い軒や切妻屋根・木製窓と信州焼杉の外壁は、里山に残る古民家群と屋根形や木材料が調和しています。


素材を使いこなす建築家独自の素材と空間のアイデア

また『信州の建築家とつくる家14』では、テーマを「素材から空間へ」として様々な素材を生かした事例を紹介しています。

適材適所の木

  1. 信州カラマツ 
    森林県信州の代表的な地域材であるカラマツを丸ごと使った住宅。溝を彫った柱間に、無垢の厚板を次々に落とし込んで丈夫な壁をつくる伝統的な板倉構法を用いている。厚い無垢の木材に囲まれた空間は、視覚的に目に優しく、断熱・蓄熱・調湿などの効果により夏涼しく冬暖かい、穏やかな室内環境を実現する。
    「片丘の家」清水国寿/しみず建築工房

  2. 信州カラマツ合板
    限られた面積と予算を最大に生かすことを意図した。長野県産材のカラマツフローリングとカラマツ合板を用い、地元大工と地元建具屋が施工。ローコスト化のために、仕上げも家具も大工ができる仕事でつくることとした。
    「古澤邸 唐松合板の離れ リノベーション」池森梢/萌建築設計工房

  3. 古材
    耐震補強、設備更新による温熱環境の向上に加え、「古材の使いまわし」によって、いかにモダンなライフスタイルを提案し、資産価値を上げることができるかに挑戦した「古さこそモダンな家(長期優良住宅)」のモデルである。
    「古材使いまわしで守った地域の景観K邸」松下重雄/みすゞ設計

  4. 針葉樹ベニヤ
    アパレルのアトリエを併設した小さな住宅。針葉樹ベニヤをインテリアの素材として、建物全体をまとめている。床も素材感を生かしたコンクリート打ち放しにした。端正な中にも素材感と柔らかさのあるインテリアを実現している。
    「中庭のアトリエ住宅」山田健一郎/山田建築設計室

さまざまな素材を取り入れる

5.鉄平石
玄関ホールの床に鉄平石を用いた。さまざまな色味、大きさの石をモザイクのように敷いている。1階腰壁は墨汁を混ぜたモルタル、2階腰壁は珪藻土、柱・梁・板壁には地場のヒノキを用い、個性ある素材をぶつけながら、そのコントラストによって縦・横方向への広がりある空間を意図した。
「中島さんの家」新井優/新井建築工房+設計同人NEXT

6.内山手すき和紙
木島平村の内山手すき和紙を、客間の壁、天井、襖に用いている。手すきならではの「楮皮」を残した素朴な味わいの和紙に囲まれた空間は、均一な素材によるニュートラルな雰囲気をもたせている。
「内山手すき和紙の部屋」下﨑明久/下﨑建築設計事務所

7.火山灰シラス
大切にしたのは温もりとやさしい風合い。火山灰シラスを主原料とした自然素材の左官壁に、天井はスギの縁甲板、床は無垢のフローリングを組み合わせた。
「北安曇野みはらしの家」竹内祐一/竹内設計工房

8.焼過レンガ
レベル差をつけたリビング空間の中央に、焼過レンガでつくられたペチカを配置。木の空間に焼過レンガのペチカが加わり柔らかな優しい空間となった。
「ペチカの家」轟真也/源池設計室

9.土
蔵を店舗併用住宅に改修した建物。玄関の床は三和土とし、材料は蔵の壁を開口にした部分の土壁を練り直して再利用した。外壁は中塗りの土壁のままとし、腰壁は板を張り直した。
「ギャラリーカフェそよ風」吉川一久/諏訪n設計企画

10.ガラス
外装材のガラスを暖房設備にも生かしている、太陽のエネルギーを集めて暖房する壁集熱のエコ暖房の家。仕組みはシンプルで、バルコニーの壁面に貼ったガラスの間を流れる空気が太陽の熱でじんわり温められて設定温度になると自動的に室内にファンで導入される。
「くらすの家」片倉隆幸/片倉隆幸建築研究室

11.モルタル
建て主の要望は、リビング・ダイニング・キッチンの床をモルタルとすること。そこで、玄関土間からリビングの床がひとつながりになる構成とした。さらに、床に座って寛ぐこともできるようにリビングの一部はナラ無垢フローリング張りに。それによりデッキとの連続性も生まれ、平屋ならではののびやかな空間となっている。
「HK-FLAT」吉田満/スタジオアウラ

異なる素材を組み合わせる

12.佐久鉄平石、コールテン鋼、錆丸太
アンティークを好む建築主のために「錆」をテーマに素材を選んだ。1つ目は「佐久鉄平石」で、他地域の石よりも鉄分が多く、鉄分の錆で赤や黄色を含んだ地域独特の石である。2つ目は「コールテン鋼」で、鉄の黒錆の被膜に覆われた玄関扉である。3つ目は「錆丸太」で、まだらな黒い模様はヒノキ丸太へ自然発生した天然のカビ。純和風の数寄屋建築の床柱などで用いられているものを現代的な住宅の空間に取り入れた。
「大きな栗の木の下の家」鎌田賢太郎/鎌田建築設計室

13.スギ、薩摩葦、土
定石通りの茶室はいらないという建て主の要望を受けて、銘木など特別な材料を使わず、一般的なスギ材を用い、天井を薩摩葦張り、壁を聚楽塗り、床を縁無し畳にした。
「大町の家」百瀬万里子/設計工房 悠

14.ウォールナット、レッドシダー、鉄
エマルジョンペイント塗装の白い壁に対して、床はブラックウォールナットの茶色の濃淡、天井はレッドシダーの茶色の濃淡と、色合いにコントラストを出すことで空間にメリハリをつけている。
「新屋の家」俵周二郎/Atta一級建築士事務所アトリエta

15.鉄、タモ
吹き抜けの階段室の空間を、白色に塗装したスチールフラットバーの繊細な手すりとタモ材で構成した。鉄と木の存在感がぶつかりながらも軽やかな印象の空間になっている。
「HOUSE6065(メザニン・LOFT付き完全2世帯住宅)」窪寺弘行/窪寺弘行・建築計画事務所

16.コウヤマキ、ヒノキ、十和田石
自然素材で仕上げた浴室。耐朽性が大きく板張り仕上げに向いているヒノキ板の壁と天井、保温性や保水性が高く床材として最適な十和田石の腰壁と床、そこに水湿に強く風呂桶の材料として最高級のコウヤマキの風呂桶がおさまる。
「伝統構法で造る土壁の家」尾日向辰文/尾日向辰文建築設計事務所


上記で紹介した事例の素材の生かし方や魅力については、ぜひ誌面でおたのしみください。
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