建築家・降幡廣信氏による、町並みを彩る住まい。民家再生で生き返った「有明の家」
建築家・降幡廣信氏は古びていずれ解体されるはずの古い民家に新しい生命を吹き込み、家と文化を蘇らせる「古民家再生」の概念を確立し、以来、91歳となる今日まで第一人者として全国で500軒余を再生させてきました。今回の事例は降幡氏が手がけた、養蚕が盛んな地域によくある蚕室(さんしつ)造り※の「有明の家」(長野県安曇野市)です。
(「2008年版和風住宅」に掲載した記事を再編集したものです)
※蚕室造り(さんしつづくり)とは、養蚕業に適した二階屋造りの建築様式。本二階造りで二階部分が高く、越屋根があるものもある。
歴史を大切に受け止め、地域とのつながりに
建て替えられる前の住まいは、衰退しきった廃屋から聞こえる悲鳴が、周辺の雰囲気を変えていたほどだったそう。Yさんはかつては郵便局を任されて、この地一番の信用のあった家だったはずなのに…。建て主のYさんは平成3年から道を隔てた新たな小住宅にお母さんと奥さんの3人で暮らしていました。
降幡氏がこの家の建て替えの相談を受けたのは平成16年3月。当初は新築を検討していて、再生などとは考えてもみなかったそう。惨めな姿に変わり果てていたのだからそう思うのは仕方がありません。しかし、家の由来や地域での役割などの話を聞き、壊すには忍びないものを感じた降幡氏は、Yさんに住まいの再生を提案しました。最初は再生することに半信半疑だったそうですが、祖先の残したものを大切に受け止め、次代へ伝えることができたことを大変満足し喜ばれています。
民家特有の雰囲気を醸し出す玄関。中抜き板戸により、
玄関とホールを仕切ることもできます。
昔、郵便局を併設していたために地域の人々が常にこの家を訪れていたというこの家の再生にあたり、その歴史を大切にし、地域とのつながりを保つことに配慮しました。玄関をはじめ、それぞれの部屋は広めにとって、どこでも客が訪れやすく、また迎えやすくしています。特に2階には、地域の人たちに開放するギャラリーを用意。たくましい構造の梁は室内の意匠として生かしながら内部の統一を図りました。
力強い梁をあらわしにした、二階の談話室。
既存建物は前面道路に近接していたために、一部を取り除いて、前面に余地を設け、そこを植栽して前庭とし、アプローチを設けました。道路際の塀は、この地方に古くから見られるデザインにし、この町に古くからあったような落ち着きが感じられる佇まいになりました。
書院と床脇のある床の間を備えた本格的な和室。
床框にはクロガキを用いています。
階段ホールの吹抜け。2階はこの吹抜けをめぐるように廊下があり、
地域の人々に開放するギャラリーもあります。
玄関ホールの脇に設けられた応接室。
書斎としても利用しているそう。
(写真/林安直)
降幡廣信氏設計の有明の家を掲載していた「和風住宅2008」は完売しておりますが、このシリーズの最新号「和風住宅25」(2020年8月発行)が絶賛発売中です!和の建築の魅力がつまった1冊となっています。降幡氏の住宅事例も掲載していますので、ぜひご覧ください!
★3月23日~4月4日まで、長野県長野市のギャラリー82で、建築家「降幡廣信の世界」写真展(「信毎賞」受賞を記念して)が催されます。
古民家再生の第一人者として、全国で500軒余を再生させてきた降幡氏の原点でもある「草間邸」をはじめ、その後の代表作の写真が年代を追って展示されます。「古民家再生」を確立させた降幡氏の足跡がわかる写真展ですので、お近くの方はぜひ足を運んでみてください!