中東に暮らす日本人
2024年12月に行われた中東研創立50周年記念国際シンポジウムで、「中東研究センター50 年の歩み―日本・中東関係の変遷と今後の展望-」と題して講演をさせて頂いた。その際、中東(以下すべて北アフリカを含む)における在留邦人数(長期滞在者)の推移を外務省のデータから調べてみると、50年分を網羅的にさかのぼることはできなかったが、トレンドとしては1970年代末から1980年代がピークで在留邦人は1万人を超えていたこと、その後減少に転じて1990年代は大きく減ったが、2000年以降は再び増加していることがわかった。
直近の2023年のデータによると、中東18カ国に長期滞在する日本人は9031人である(イラクとシリアの在留邦人数は安全上の理由から非公開のため統計には含まれていない)。国別では、国際都市ドバイを擁するUAEがもっとも多く4395人、次いでトルコが1055人、エジプトが575人、サウジアラビアが567人、カタルが551人、イスラエルが517人となっている。
こうした長期滞在者とは、具体的には民間企業関係者、報道関係者、自由業関係者、留学生、研究者、教師、政府関係職員などが該当する。日本と中東との経済関係を見る上では企業関係者の動向が中心となるため、シンポジウムではこの長期滞在者の動向を取り上げた。数字の変遷を追うと、例えば2008~2013年のカタル、2016~2018年のサウジアラビアで邦人数が1000人を超えており、2007~2011年のアルジェリアで500人を超えていた。これは、当時それぞれの国で日本企業が関連する大きな経済プロジェクトが動いていたことの現れだろう。
<中東・北アフリカ主要国の在留邦人長期滞在者の推移(永住者除く)>
一方、在留邦人には、長期滞在者のほかに永住者という区分がある。外務省の定義によると、長期滞在者は「3か月以上の海外在留者のうち、海外での生活は一時的なもので、いずれわが国に戻るつもりの邦人」、永住者は「当該在留国等より永住権を認められており、生活の拠点をわが国から海外へ移した邦人」とのことである。中東18カ国における2023年の長期滞在者は9031人であるが、永住者数を見てみると2421人となっており、その特徴は長期滞在者とはまた異なる。
永住者の国ごとの内訳をみると、最も多いのがイスラエルの753人、次いでトルコの697人、そしてイランの298人、エジプトの241人、UAEの151人と続く。これら5ヶ国以外の永住者は、いずれの国でも多くても数十人に留まり、永住者の9割近くがこの5ヶ国に集中している。イスラエルやイランに至っては、長期滞在者よりも永住者の方が多い状況である。
ちなみに男女比でみると、2010年とやや古いデータになるが、イスラエルでは男性200人に対して女性278人、イランでは男性127人に対して女性354人、エジプトは男性67人に対して女性159人となっており、いずれの国でも女性の方が多い傾向にある。これは現地の男性と結婚する日本人女性が多いということであろうが、宗教的な社会背景を反映してか、イスラエルでは永住日本人数の男女差が小さいことは興味深い。
これら5ヶ国に共通するのは、やはり日本からアクセスが良いこと、そして短期旅行者も含めて普段から日本人の往来が多い国だということだろう。往来が増えることは、その国を身近に感じる人が増え、そしてそれが永住者の増加にもつながっているのだと思われる。外務省の統計によると、2023年のアジア諸国の永住者は4.6万人(長期滞在者は30.9万人)となっており、中東諸国とは20倍の開きがある。今後、経済面のみならず、社会面や文化面も含めて日本と中東との距離が縮まっていけば、それが永住者数の増加という形で表れてくるのかもしれない。
(吉岡 明子)