押井守監督の対話会に参加して。
今日は、今週お会いした押井守監督の話です。
知ってます?
世代によって好きな作品が違うと思いますが、私は「スカイクロラ」です。
「うるせいやつら」でしょうし、「パトレイバー」の人もいるでしょう。圧倒的に「攻殻機動隊」かもしれません。
森ビルの矢部さんのご好意で、今週、監督との小さな対話会に参加させていただきました。
対話会のタイトルは「『イノセンスーー都市の情景展』から20年ーあれからの20年とこれからの20年」。
まとめ
私が押井監督の対話会で感じたことは、あれだけ自由な作風と創造性を発揮しながら「予算とスケジュールは必ず守る」ことで勝ち得た信頼がある、という説明。彼のこだわりを優先し、スケジュールを乱してでも、自分の信念を貫くことはなく、スケジュールに合わせて、どうしようもないところは次回作でなんとかする、というところが、彼に仕事を出す側からの信頼につながるんだな、という点は、我々にも共通すると思いました。
また仕事を通じた「意図的な」関係性が最も重要、という点もなるほど、と思いました。我々も仕事をするという視点で、本部を構成しています。個人としての時間も重要ですが、意図的な関係性の重要性も、改めて認識することができました。
今回の押井さんとの対話メモ
新事業に関係ありそうなことから書いてあります。
1. 多くの作品を生み出してきた背景
生きることは「選択の連続」であり、二択を選ばされることは最悪の選択肢。第三の選択肢を用意して、考えること、判断を留保することを行なってきた。つまり決定を急がずに選択肢を広げることが重要。その中で、自分がこれだけの作品を制作する機会に恵まれた背景は、自分がこだわりを捨て、「スケジュール」と「予算」を絶対に守る、という意志と、その実績による信頼があった、と分析。
2. 意図的な関係の重要性
友人や血縁関係は非常に複雑。自分には世間一般で言われる親友とか、友人という存在もいない。仕事仲間のような「意図的な関係」が大事であると強調。仕事仲間や共同作業者とのつながりが最も重要であり、意図的に築かれた関係こそが、互いに成長を促す最も重要な関係性だった。
3. 情景の作り出し方と視覚の重要性
「情景は生み出すものであり、意図的に作り出すもの」と説明。特にアニメーションにおいて、場所や環境(例:天候や道路だけでなく、ロボット、人)をどのように風景に設定するかが重要である。例えば、『攻殻機動隊』では雨や道路を描くことで都市の情景(風景でなく)を作り出している。
視覚を固定せず、異なる角度から、異なる高度から、物事を見ることが大切。視覚の変化によって、同じシーンでも全く異なる印象を与えることができる。
4. 都市と神社、寺院の違い
都市のシンボルとしての塔、これは世界中どの都市でも同じ。権力は欲望を生み、塔を建て高さを競う(青田註:行ったことなければ、イタリアのシエナという街が一番わかりやすいし、六本木ヒルズ以降の東京のスカイラインを見てみるとよいと思います)。
日本の独自性を司る機関として神社を取り上げたい。神社は「異界への接点」であり、守るべきものを保持する場所として存在。寺院は死者にまつわる接点であり、神社とは異なる人間の「生」を司る場所。
神社の役割は、神を迎え、清浄さを保つことであり、現代の都市においても神社は「非日常」を司る場所として重要。日本全国を見渡して、間違いなく神社の方が寺社よりも多い。
神社は日常である(寺社は死が纏わるイベントの非日常)が、その日常のスイッチを入れる機能として、巫女の存在が重要。例として、麻布台ヒルズにいる「インスタグラマー」は現代の巫女ではないか、という言説を展開。
何より、神社というビジネスモデルは秀逸。お守り、ご祈祷、誰もコスト概念で考えない。神の形代としての対価を販売するこのビジネスは、日本人が多神教的世界観を持つ限り永遠に続くビジネスモデルである。
ここまでが新事業的に参考になる点だったと思います。ここからは私の個人的な関心と気づきです。
5. アニメーションにおける「間」の重要性
アニメーションにおける「間」の重要性。特にキャラクターの動きやカットを繋ぐことが作品の本質を作り出す手法。編集で作り出される「間」が、キャラクターの感情や物語の深みを生み出す。
デスストランディングの監督である小島秀夫の映画的手法(ワンカットで流れるようなMovie)が紹介され、彼が今までの映画編集の手法を超えた創造者であり、現代の最高の天才、まったく敵わない、と解説。
青田註:明治の話ですが、Human Beingに「人間」という訳語をあてたのは、秀逸だと思っています。人は、人と人との関係性の中で、存在する、ということを、この「間」の話を聞きながら思いました。
6. 距離と時間の関係性、2拠点生活について
距離と時間の概念は、人間の脳内で常に相互的に換算される。新幹線は明らかに、距離と時間の関係性を大きく変えた。東京を電車を使わずに移動すると、その街と街の距離感に戸惑うことがある。電車の移動時間が距離と相互連携していると、そこを自転車で移動せねばならなくなると、大きな違和感が生まれる。地面よりも下、運河からみると、都市の喧騒は全て消失し、距離感もバグが発生し、東京は大きな違った表情が見える。
東京と熱海での二地域居住の話を通じて、都市での生活と地方での生活の違いについて言及。東京には仕事があり、地方には生活があるとし、現代人はそれぞれの選択肢を持ちながら生きていることが重要である。家族にも、パートナーにも見せれない顔、あるいは自分が大事にしている価値観があり、それは全て家族で共有するのは(少なくとも彼にとって)非常に難しく、自分の居場所を作ることが、自分のアイデンティティの確立につながった。
7. ゲームとアニメーションの共通点
ゲームとアニメーションに共通する点として、「労働としての創作」と「対価」という観点からの関心があった。ゲームが大好きで、相当な時間を費やす作業にも関わらず、対価が発生しないことに苛立っていた。「Earn to Play」の概念が現実のものになっていく中で、ゲームの「労働対価」という新しい観点を獲得することが今後ゲームを大きく変えていくと思う。また、鑑賞者の大多数に同じ視点を与える必要のある映画と、一人一人に異なる価値を与えることができるゲームでは、表現の手法として大きな差が生まれたと考えており、予算の観点でも、人材の観点でも、映画はすでに大きくゲームに遅れている。
AIさんのおかげで、適当なメモから、ここまでのものを作ってもらえるようになりました。ありがたいなあ。