ヒーローになるのをあきらめて


 幼少期からテレビで活躍する特撮やロボットアニメの主人公達が僕の憧れでした

「人間の自由と平和を守るために戦い続ける」等、ヒーローの常套句を残し颯爽と去って行く主人公に熱い視線を送っていたものでした
その後年齢を重ねるにつれて趣味趣向と共に、ヒーローと呼ぶ存在は変身したり、荒々しくロボットに乗り込んで敵(ヴィラン)と闘わなくても、観ている僕自身が感銘を受けた作品や、前人未到の偉業を成し遂げた人物へとシフトして行き、現実世界に実在する人物の中からもたくさんのヒーローが誕生しました
憧れの対象が現実の世界に登場し出すと、僕の中で新たな感情が芽生え始めて来ました
「ひょっとしたら、僕もヒーローと呼ばれる存在になれるのではないか」
「何か人々を感動させる事が出来るのではないか」
僕もそんな憧れを持っていた人間の一人で、好奇心だけは人一倍備えていた事もあり、あらゆる可能性を試すことに躊躇いはありませんでした
しかし、そんな僕の前に立ち塞がったのが「現実」と言う名の大きな壁でした
「資質」の現実で弾かれ、「センス」の現実で一蹴され、またある時は壁の存在に怯え、挑もうともせず諦めた可能性も一つや二つではありませんでした
ですが、そんな「挫折」と「失望」を繰り返していく中、人知れず培われていた物の存在に気が付いたのです
それは、僕にとってのヒーローがどれだけ凄くてどれ程の影響を自分に与えてくれたかを文章にしたためると言う特技でした
それに気づいた頃から僕の葛藤が始まりました
夫として、ふたりの子の父親として何も残せていないのに、会社の人間関係の構築に悩み何も結果を残せていないのに、何の対価ももたらさない文章を書く行為なんかしていて良いのか
ヒーローをなることをあきらめて良いのか…
そんな時、日本が新型コロナによる厳しい自粛と行動制限が掛かりました
コロナ禍以降、多分に盛れることなくSNSやライブ配信等にハマり、それを通じてあらゆる業界の方々と出会い、知らなかった世界をたくさん見せて貰う機会に恵まれました

ダンサーになる夢を諦めきれず脱サラして見事プロダンサーとなると同時に振り付け師として幅広く活躍されている方

幼少からバイオリンに精通しプロのバイオリニストとなり長年の夢だった自身作曲のオリジナルアルバムをリリースされた方

激しく好奇心を刺激されました…
言い表せない嫉妬心で溢れてました…
これまで見た事のない世界で活躍されているとは言え
初見の人間をどうやってここまで感動させる事が出来るのかをもっと知りたくてたくさんコメントを送りました
でもその人達の事を知れば知るほど、自分の凡庸な部分が浮き彫りにされ、身の程を知るのにさして時間は掛かりませんでした
そうして僕はヒーローになることをあきらめることに決めました
不思議と楽な気持ちに包まれました
背負っていた肩の荷が降りた気分でした
妙なプライドと羞恥心から解放された結果、ただ純粋に彼らのダンスやバイオリン演奏の素晴らしさを自分の言葉で文章にする事が出来るようになりました
そうやって生まれた文章が時として彼らの心に響き、励みになったと言う感謝の言葉を貰う機会が多くなりました
気が付けば普段の会話で発する言葉にも影響を及ぼし、飾らない本音の言葉へと変化し始め、飾る事も忖度する事もない自然な会話が出来るようになっていました

結局、ヒーローにはなれなかったけど、僕のヒーロー達に自分の言葉や文字で気持ちを伝えることは出来ました
文章の持つ力を再確認出来た今、僕はこう思いたい
ヒーローになることをあきらめて…良かったと






#あの選択をしたから

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