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優しさの代償

 皆さんは「ステラーカイギュウ」を知っていますか?
 ステラーカイギュウは約300年前までベーリング海(とても過酷な蟹漁で知られていいます)に生息していたジュゴンの仲間です。彼らはなんと発見から27年という信じ難い速さで絶滅してしまいました。
 
 それはなぜか?
 
 理由は「優しすぎた」からです。

 そもそも、ベーリング海は北極圏に位置し、とても寒い海です。よって、ステラーカイギュウ達には天敵が殆どいませんでした。
また、寒さを凌ぐために脂肪をたくさん蓄えており、その性質から浮きやすく海面から背中が出ており、動きもゆっくりでした。
 1741年ロシアの探検隊がこのベーリング海で遭難しました。激しい嵐に襲われ、無人島に座礁してしまったのです。多くの船員が壊血病に罹り亡くなりました。そこで残された船員はなんとか生き残ろうと辺りの海を懸命に食べ物を探しました。そこで初めてステラーカイギュウは発見されたのです。ジュゴンなどに比べかなり大きかった(全長8メートル胴回り六メートルほど)ステラーカイギュウからは上質な毛皮とお肉が取れました。ここで皆さん疑問に思うでしょう。

 「そんなに簡単に獲れるものなのか?」

 獲れました。
 彼らには天敵がいなかったので人間を怖がりませんでした。また、非常に優しい性格で好奇心も旺盛。自分の背中に鳥が止まると飛び立つまで待ってあげていたそうです。

なので、人間の姿を見たステラーカイギュウは自分達からよってきて、抵抗もしないため、簡単に仕留めることが可能でした。
 そして、お肉は非常に美味しく(子牛の味がしたそうです)また、毛皮もたくさん獲れたため、なんとか命を繋ぎ本国へ帰ることができました。
 これだけで終われば、彼らはもしかすると絶滅を避けれたかもしれません。しかし、ステラーカイギュウの最大の優しさと人間の卑劣な部分が運悪く噛み合ってしまうのです。

 ステラーカイギュウのおかげもあり生き残った探検隊は無事に本国に帰ることができました。そして、「ベーリング海の一帯に簡単に捕獲できて旨い生き物がいるぞ」という噂が瞬く間に広がりました。その噂をもとに多くの人達がベーリング海に行くようになり狩をしました。
 ステラーカイギュウの最大の特徴。それは「仲間が怪我をするとその仲間の周りに集まって助けようとする」です。よって、人が近くにいると寄ってきては殺され、その仲間を助けにきた仲間も成す術なく殺されていきました。捕獲しても体が大きいため持ち帰ることもなくその場に放置されたようです。

 人間は恐ろしい。

 これだけ聞かされるとそう思うかもしれません。しかし、人間が発見していなくとも絶滅していただろうという説が現在有力らしいです。初めてステラーカイギュウが発見された1741年にはかなり個体数が減っており、2000頭くらいしか生息していなかったと言われています。

 このことから「優しすぎるだけでは生きていけない」と言えるかもしれません。時には厳しく相手を威嚇、または攻撃する。それが種を守るためには必要なのでしょう。

 でも、願わくばひと目、彼らの優しさを
見てみたかったものです。

 

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