ギレン・ザビの名演説を聴いて学んだこと

「機動戦士ガンダム」は私が小学生の時に
社会現象を巻き起こす程ヒットした作品だが、

今もまだ、新作が作られているというのは、
世代を超えて共有された物語のプラットフォーム
になっているということなのだろう。

改めて、ガンダムという作品の持つ世界観
の奥行の凄さには驚かされる。

ところで先日、何気なく動画を検索していたら、
「ギレン・ザビ演説」というものに遭遇した。

テレビアニメ中にギレンが行った演説を、
その声優がリアルに行ってみたものだ。
これは企画として面白いので、視聴してみたが、

正直、これは「演説中の演説」だと思った。

僅か2分程の時間に、様々な感情が大きく揺さぶられたからだ。

「感情というのは、振り子のようにマイナスとプラスの間を揺れ動き、
その振れ幅が大きい程、人の行動は変容しやすい」と言われているが、

「感情の振り子」という観点でこの動画を分析してみると
何か気づくことがあるのではないだろうか。

そう考えて分析してみたのだが、
自分なりに抽出したポイントは以下のとおり。

①「皆の愛するガルマ」という
「国民的存在」を失った悲しみと怒りの喚起。

②「30分の1」という具体的数字を用いた圧倒的国力差の表現で絶望感を演出。それだけのハンデを跳ねのけた自分達の大義の正しさを強調することで、絶望からの希望・誇りを喚起し聴き手を鼓舞。

③連邦の欺瞞を指摘し、ジオンと比べての大義の無さを強調。
「連邦=くだらない。ジオン=崇高」という二元論化。

④ガルマの死を聖戦による殉死として偶像化。
ガルマの死を決して無駄にしてはいけないという忠誠心も鼓舞。

⑤以上を踏まえての「悲しみを怒りに変えて立て!」と団結を求める。

このように、聴衆の感情を高ぶらせつつ、自分たちの崇高さを強調し、
崇高な戦いのために団結させるという感情エネルギーの誘導の仕方が見事である。

もし、私がジオン国民だったら、その場で軍に志願しそうである。
振り子の原理、恐るべし。

この演説は、国葬という形式ではあるが、
戦意高揚を目的にしたものである。

それは物語の中とはいえ、
国民に生命や財産を差し出させるほどの動機付けが施されているのである。
現実の世界でも、こうした演説は最も研究されている分野の一つではなかろうか。

このギレンの演説を聴いて、
民衆を扇動してきた人物の演説というのに興味が湧いた。
ヒットラーの演説というのも振り子の原理で分析すると色々と見えてくるのではないか。

逆に、ムヒカ大統領の演説のような理性や感性に訴えるようなものも
その対比として興味深い。

闘争心と慈しみ。どちらも感情から派生するもので、
どの種類の感情を揺さぶるのかによって、同じ聴き手でも
引き起こされる思考や行動は真逆になるのだと感じた。

メディアに接する時に、
自分の感情がどのように揺さぶられているかを
自覚することは大事だと改めて実感した。

様々な分野で「名演説」とされているコンテンツが挙げられているが、
これらを「振り子の原理」で分析することも、
自分自身の感情と向き合ういい訓練になりそうだ。

そうすることで、認知バイアスを回避し、
情報リテラシーを高められそうな気もする。

「ギレン・ザビの演説」は、僅か2分程だが、
本当に様々なことを学ばせてもらった。

テレビアニメというのも素晴らしい学習教材になりうる
ということに気づけたのは大きな収穫であった。

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